さて多くのブロガーの方々取り上げているホットな話題である、米大統領選。なんと言ってもアメリカの大統領ですから、この混迷の時代これからの世界の方向性を指し示す大きな一角です。世界最強の権力とも言えます。ですので面白い、非常に興味深い話題ではありますが、人気があるネタというのはさすがに面白い記事を多く目にしますので、自分ごときが書くまでもないような気もして避けて参りました。

しかし全く一度も触れないというわけにも、実は何かしら書いときたいとウズウズしていますので、いかないと思い、今日はこのネタを書きたいと思います。お題は「米大統領選」それでは始めます。

今もっとも熱い展開なのが、多くの方々がご存知の通り、民主党のオバマVSヒラリーというネタなのではないかと思います。自分もこのバトルは目が離せない毎日であります。しかしこれはあくまでも民主党の候補者選びであり、その先には共和党候補との一騎打ちが待っております。

今このバトルで両陣営が気力を振り絞って戦いを展開している脇で、共和党の候補者としてほぼ見通しの立っているジョン・マケインが楽々と体力を温存しております。それが吉と出るのか凶と出るのかは自分にはわかりませんが、民主党が負けちゃえば、オバマVSヒラリーなどでいくら大騒ぎしていても無意味になってしまいます。

それにまだまだ共和党候補の可能性も十分ありますので、今日はマケインについてあれこれ書こうと思います。

それにしてもこのマケインという男、恐るべき経歴の持ち主です。アメリカ人らしいアメリカ人と言いますか、昔のアメリカ人を地でいくような、テレビや映画の中でのヒーローであった頃のアメリカ人といいますか、何ともぶったまげるような過去の持ち主なのです。

いい意味でも悪い意味でもアメリカ的な価値観を信じきっているような感じがあるお方なので、この人が大統領になればなったで、今までの共和党的な感覚で外交をしていると、日本の曖昧さはかなりヴァルネラブルな危険な匂いを感じてしまいます。

もちろん民主党の候補になったらなったで、今までの共和党路線とは違い、あらゆる意味でのバッシングが始まりそうな予感もしますので、どちらが勝っても、我が国の外交政策は大きく転換せねばならない、曖昧にどっち付かずの適当路線では太刀打ち出来ないような気がします。

マケインになれば必ず日本のアメリカに対する軍事的貢献を求めて来そうな気がしますので、小泉安倍路線、特に安倍さんの目指した軍事による貢献の方向に舵を切るようなプレッシャーがかけられると思います。

マケインは自由と民主主義の価値観を素朴に信じている人であり、非常に日米同盟をプラグマティックに重要視している人だと言われていますので、一見親日家っぽい感じがします。しかし曖昧な貢献や貢献しているふりではおそらく納得してくれないのではないかと思える要素が満ち満ちているのです。

価値観が自由や民主主義と共有しあえない、一見圧政に見える国々に対しては、あるべき姿ではないという風に感じているようです。ただしネオコン的な自由の押しつけと言う意味ではなく、いい意味での自由さみたいなものもそこに含まれているようにも見えるのが微妙な所でもあるのですが。

彼は出身地と経歴の語呂合わせでフェニックスと呼ばれています。そして彼にまつわる伝説の数々がこれまた凄いのです。彼のじいちゃんも、父ちゃんも海軍大将であり非常に厳しかったそうです。彼は身長は小柄なものの、レスリングでは表彰を受けたり、ボクシングでならしたり、ケンカでは負けた事が無い、そして議論好きな若者だったそうです。

海軍士官候補時代はその土地で人気ナンバーワンのストリッパーと付き合ったり、酒豪でもあり、ブイブイ言わせていたようです。学校の成績はケツから五番目だったそうな。また彼は反抗的でありやる気の無いワシントンを批判したり、現場を知らない勝つ気の無い無能な司令官に不満を抱いていたそうです。

ベトナム戦争の際、オペレーション・ローリングサンダーという爆撃作戦に海軍パイロットとして参加します。この作戦は生還率6割と、村とかを爆撃するのではなく期間拠点に低空で突っ込んで行って高射砲の対空砲火の雨のなか爆撃する非常に危険な任務でした。

この任務についている時、甲板上の爆弾を満載した出撃寸前のA-4スカイホークを、後ろにいたF-4ファントムのロケット弾が誤射するという事故が起こります。燃料タンクを突き破り、引火した燃料が甲板上にまき散らされます。

なんと彼はその際、直撃を受けたA-4に搭乗していたのです。必死で彼は逃げ出すのですが、火が搭載されていた爆弾に引火して、爆風に巻き込まれ体中に破片を浴びます。その際パイロットというのは胸の所に無線機をつけているのですが、そこに大きな破片が突き刺さって命からがら助かったとか。

彼はその後救護室に担ぎ込まれるのですが、甲板上では爆弾を満載している飛行機が次々と誘爆し、132名が死亡、62名が負傷、20の飛行機がオシャカになるという空前の大惨事になってしまうのです。沈静化するのに24時間かかったとか。

冗談みたいな話ですが、そんな大惨事の中心にいたにもかかわらず、彼はかすり傷と火傷で済んでしまうと言う幸運に恵まれたわけです。

その後、もとの任務にすぐに復帰するのですが、ここからが凄まじい。彼はその爆撃作戦に22回参加しいずれも生還するのですが、23回目で撃墜されてしまいます。墜落の際、パラシュートで脱出するのですがその際、両腕と片足を骨折します。落ちたのは敵のど真ん中、しかも身動きは取れず、当たり前ですが、敵兵に囲まれボコボコにぶっ飛ばされます。銃剣でグサグサ突き刺され、ライフルストックで肩の骨を砕かれるという聞くだけでも悲惨な痛々しい目にあいます。

まあ爆撃してたわけですから、ベトナムの方々からすれば当然しょうがないのですが、全身骨折しているわけですが、治療を受ける事も無く捕虜収容所に放り込まれます。どうせ死ぬだろうと。まあ憎き敵ですから仕方がない。

しかし彼の父親が太平洋方面総司令官であるという事に、ベトナム側が気付きます。人質として交渉に使えるという事と、人質をかえす人道的な政府という、世界へのアピールになるプロパガンダとして利用出来るので、やっと治療を受ける事が出来るわけです。有利な条件をそれによって引き出す事が出来そうなので、マケインに帰れるという事を伝えるのですが、マケインはこれを拒否します。総司令官の息子だからと言って、他の仲間が拷問されているのに、自分だけおめおめ帰れるかと。先に入った奴が先に出るのが鉄則という事を守るわけです。どこまで本当か知りませんが、男の中の男です。

拒否したおかげで、そこから5年半彼の捕虜生活は続きます。そして当然拷問の日々が始まります。ベトナム側は彼をプロパガンダに使おうとするわけです。ようするにアメリカのやり方は間違っていた、ベトナムの共産主義は正しいという事を、敵の総司令官の息子が言えば戦意高揚に繋がる。なんとかマケインにそれを言わせようと拷問の毎日になるわけです。

両腕の骨が折れている状態で肩を後ろに回してロープでグルグル巻きにして一日放置するとか、食い物の中に大きな石が混じっていて歯が折れてしまうとか、聞いているだけでも具合が悪くなるような痛々しさです。彼はこういった拷問のせいで手があがらなくなってしまっているそうです。

ハノイですので高温多湿、捕虜収容所ですので衛生的にも鼠やゴキブリが這いずり回るような所で、トイレと言ってもバケツ一個、彼は足が折れていますので、満足にトイレも出来ない。その上赤痢にもかかってしまったりと、まさに地獄のような状態。

そして遂に耐えきれずに、反アメリカのプロパガンダにサインをさせられてしまいます。その際、わざと書かされたという事がわかるように文法を無視したりして書いたそうです。そういった地獄の日々に耐えきれず自殺を図ろうと試みますがそれも阻止されてしまいます。

やがて釈放されるのですが、そのとき三十代半ばにして髪の毛は真っ白になってしまったそうです。軍人としての道を断たれた彼はやがて政治家を志す事になるわけです。再婚した相手が非常に金持ちであったという事もあるのでしょうが。

その後もこれまた凄い、政治家になった彼はアメリカとベトナムの国交回復の為に尽力します。現地に行って拷問を受けた相手と握手するなど、パフォーマンスだとしても凄い度量の持ち主です。その事で彼は非難されます。洗脳されて帰って来たのではないかと。しかし彼は戦争は終わったのだから、もういいではないかと発言するのです。まさに男の中の男です。

2000年の大統領選の際、ブッシュと共和党候補の座を争うのですが、そのときブッシュにアイツは長い捕虜生活で頭がおかしくなっていると言われます。カール・ローブの戦略なんでしょうけれど、保守系のメディアもブッシュの戦略に乗ってマケイン叩きをします。おかげでブッシュは共和党候補となり、大統領になるわけです。

事業に失敗してアル中になりキリスト教に目覚めて大統領になったお坊ちゃんのブッシュ。オヤジは第二次大戦の英雄なんですが、バカ息子をベトナムに行かせない為に七光りで州兵にして、その州兵の仕事すらサボっていたと言われる男が、ベトナムで捕虜にまでなって、親の七光りを拒否し、拷問の毎日に耐え不自由な身体になってまで国の為に戦ったマケインに向かって、頭のおかしい男だと非難する。本当ブッシュはつくづく最低な男です。

マケインはリベラル寄りという見方を保守陣営からされます。ただ彼の行動はネオコンのようなインチキ保守からすると、アメリカ的な保守、即ち自由と民主主義を重んじる一貫性があるように見えます。合衆国憲法の理念、修正条項を忘れるな、と言った感じの。

同性婚や中絶、銃規制など、保守的な基本路線を持っていても、選択の自由を否定したりはしない。共和党の支持基盤である大企業の献金を制約する新法を成立させたり、移民問題についても寛容な路線を持っています。それが比較的、保守系から嫌われる原因にもなるのですが。温暖化対策も重要政策としてあげるなど、これからのイシューになるであろう問題点もキッチリ押さえて、非常にアメリカ的な保守本流の匂いがします。

アメリカの保守とは、即ち自由な精神、民主主義の精神を保守するという事なので、政府による干渉によって保護したり規制させたりをみすみす許さないという感覚があります。我が国の保守とはちょっと逆向きのベクトルがある。小さな政府は支持しても、ネオコン的な恣意性は拒絶すると言った感じで、何を守るのが保守なのかという最近のインチキ保守系に見られる勘違い野郎よりは、一本筋が通っているように見えます。

ただ外交政策については基本的に自由と民主主義を世界に広めるという押しつけアメリカニズム、圧政打倒と言う正義の味方としての余計なお世話を素朴に信望しているような所もありますので手放しで支持するわけにもいきません。

彼はラムズフェルトをメッタクソにけなしています。これは勝つ為の方法論があまりにも無知無力であるという事を非難するわけで、イラク戦争そのものに対してはむしろ支持しています。イスラエルの支持者ですし、イラン空爆を唱えてもいる。

ロシアのプーチンを徹底非難し、ミャンマーの軍政に対する日本の支持を糾弾したり、対北朝鮮外交も強硬派であり、宥和政策をとる韓国政府を非難したりしています。彼のアメリカ的保守本流の観点、元軍人、しかも海軍、海の男という観点から考え、やる気の無い文民統制に腹を立てていた経歴から考えると、見えてくる姿勢があります。

捕虜の経験から、捕虜や囚人の人道問題に対しても熱心です。アブグレイブ問題を厳しく非難したり、グアンタナモについても閉鎖を主張しています。

日本との関係をアメリカの安全保障上非常に重要視している人ですし、北朝鮮への強硬姿勢は日本人にとって拉致問題解決への糸口にもなりそうな感じもあります。しかし彼はアメリカ的な価値観をいい意味でも悪い意味でも押し進めて行こうとしそうな気がしますので、アメリカにとっての利益や大儀になっても、日本にとって合致するのかどうかは非常に難しい問題です。

北朝鮮強硬路線と言ったって、仮に空爆でもしようものなら、生きているかもしれない拉致被害者もろとも爆撃するわけですし、北朝鮮は少なくとも核を持っていると威張っています。ソウルを火の海にするとも言っています。当然日本にもミサイルが飛んでくるかもしれません。

ベトナム反戦運動が盛り上がっているとき、彼の反抗的な態度や捕虜として拷問を受けた経歴を、平和運動に利用しようとする力学が当然ありました。しかし彼はそれを拒否しています。戦争そのものに対して反対するつもりは無いという事でしょう。戦争のやり方、ワシントンの戦略性のなさ、捕虜に対する扱いの不当さは訴えても、アメリカの大義や理念は正しいと感じているように見えます。

さて民主党が政権を取るにしろ、共和党が政権を取るにしろ、この国の舵取りも何かと白黒付けないと叩かれる可能性が増大するような気がします。今の日本政府は叩けばいくらでもほこりが出るヴァルネラビリティに塗れています。ブッシュ政権の時は腐敗はお互い様ですので、なあなあの所もあったと思いますが、そういう感覚で政治をしていると徹底的に叩かれるならまだしも、無視される可能性は大です。

この国の政治家は外圧が無くなればやりたい放題だと思うのかもしれませんが、少なくともマケインになるとすると、軍事的な意味での安全保障の観点から、日本を無視するという事は有り得ませんから、おそらくそこを突いてこられると思います。

更に直接的な軍事的貢献も望むかもしれません。絶望感に満ち満ちて来ますと、そこをクリアカットに何とかするとほざく言説に簡単に引っかかり、同じ事の繰り返しになってしまいます。日本の政治家は誤摩化す事しか頭にありませんので、外からの声に対して耳を傾け、キチンと意見を言えないような弱みを握られているような政府では、交渉なんて不可能でしょう。それを踏まえて日本の政権選択を考える事が重要なのだろうと思うわけであります。

そして、安全保障の問題を真剣に考えるにもいい機会かもしれません。アメリカの大統領次第でこの国の舵取りが右往左往する状態は困った話ですが、アメリカは強大な国ですので、無視するわけにもいきませんし、反米でも上手く行かない、だからと言って媚米では危険な可能性も十分有り得ます。外圧でしか国内の政治が変わらないのは困った話ですが、いずれにせよ日本と違ってすぐに大統領が変わるという事はありませんので、アメリカとどう付き合って行くのか?というのは非常に重要な問題です。

大統領ネタ、本日の話題はこれにて!!