前回は、名曲中の名曲を不遜ながら取り上げました所、ニンともカンともレスポンスが凄まじく、ビックリしております。さすがイーグルス、さすがホテルカリフォルニア。

さて前回の名曲は言葉はいりませんが(まあダラダラと書きましたけれど)、自分の駄文がその後じゃあまりにも落差がありすぎて、何を書くかと考えている、おでん星人事、三日坊主です。でんでん!!

本日は映画の話でも書こうかと思います。お題は「大統領暗殺」それでは始めます。

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話題の作品でしたから、自分が説明するまでもありませんが、これは所謂、フェイクドキュメンタリーと言う奴で、もしブッシュが暗殺されたらどうなるか?という話でした。嘘だとわかっているのですが、なんだか複雑な、有り得る話だと思わせるような、妙なリアリティがあり中々面白かったです。

現実のニュースを編集してつなげている部分が多く登場するのですが、どうやってつくったんだ?というリアリティです。編集の技術でここまで出来るのですから、情報操作なんて簡単なんだろうなと思ってしまうような出来です。監督さんもそんなような事を言っているようです。

それと重要な要素になっているのが、関係者のインタビューを交えて話が進んで行くのですが、これまたリアリティがある。段々本当のドキュメンタリーを観ているような気分になってくる。

超人気の無いブッシュ、この映画の中でも現実世界と全く同じような感じで、ブッシュは超人気がありません。行く先々でデモに合い、中東への戦争に対して市民が抗議を繰り広げるという形は一緒です。演説ではしょうもない駄洒落を交えながら、観ているとムカムカして来ます。こんな奴、本当に暗殺されちゃえばいいのに、なんていう非常識かもしれませんが観ている側の欲望をくすぐります。

報復として、正義と自由の名の下に暴力を振りかざすアメリカ、その中心にいる、頭の悪そうな男ブッシュ。大統領の周囲で働く人達の証言風のインタビューを交えながら、実はブッシュはああいう純朴そうな田舎の金持ちのボンボン、まあ悪く言えばバカ、善く言うと人のよさそうなイメージを戦略として使っているのだ、なんていう話が出て来たり、本当にそうならここまで不人気になるのか?疑問ですが、この映画の中ではそういうような証言が出て来ます。一応ブッシュをただ単に叩くだけの話ではない。

それでも、デモの連中がブッシュにノーを突き付け、反戦を謳う様は非常にリアリティがあるというか、実際にそうなので、頑張れ!!という気持ちで、くたばれブッシュという気持ちで感情移入していきます。
自分は日本人のデモに対する、やる気の無さ、人気の無さに対して、何で日本人はこうやって声を上げないのだろう?という気持ちがしますので、こうやって抗議をしている姿を見ると、羨ましいと思ってしまう所がある。

フランスでマクドナルド打ち壊しを行った、ジョゼ・ボヴェという農夫に対して、フランスのル・モンド紙の調査によると、フランス国民の7割がジョゼ・ボヴェの「マクドナルド打ち壊しの気持ちがよくわかる」と答えています。

市民運動にせよ、組合系の運動にせよ、日本のようなイデオロギッシュなお花畑野郎共のスッキリ感を満足させるものだったり、組合野郎の既得権維持だったりで、勝手にやってろという一般人の感覚、カッコ悪いとか、どうせやっても変わらない、みたいな感覚、あまり過激な暴動やデモだったりすると野蛮だなんて思っちゃう所もあったりしますので、いざとなったらデモ、スト、暴動だぜ、というメンタルというか、俺達の権利を侵害してくるのなら許さないぞという意志は、日本人のお上に依存するメンタルからすると、矛盾や問題点もこういった抗議には内包されてもいますが、とりあえず連帯して声を上げる政治への意欲は羨ましかったりもする。

とまあそんなことが書きたいわけではないのでおいといて、凄まじいブッシュへの憎悪が盛り上がっているわけです。抗議運動を主導している男がインタビューで、戦犯を裁く裁判が行われて、死刑が許されるのなら、ブッシュは間違いなく死刑だ、と言った感じの事を言います。それだけ人々を死なせ絶望させているわけですから、ごもっともです。

ブッシュの周りの人々からは、ブッシュの人柄や信念みたいな事を語られるのですが、まあそりゃステークホルダーの代弁者であり、単なる傀儡とはいえ、いくら何でも酷すぎるだろという気持ちがありながら、ブッシュにもブッシュの立場もあり、これだけメッタクソに叩かれ、不人気で、憎悪と罵声を浴びせられるわけですから、まあちょっと気の毒な気持ちもして来ます。

元々大統領なんかになれるような器には見えないし、多くの書籍でもマヌケぶりを徹底的に批判されている男ですので、こんな奴を選んだのもアメリカ国民なんだよなという気持ちも出て来たりと、単純なブッシュ批判の映画ではないのだなという雰囲気が伝わって来ます。ムーアの映画のようなカウンタープロパガンダではない。まあ選挙で選んだと言ってもそこにそもそも疑惑があるのですが。

そんなこんなでブッシュは演説をし、市民は暴動寸前のデモで怒りの声を張り上げ、警官隊と一触即発状態で話が進んで行くわけです。そして、支持者に声をかけ握手をしている最中、ブッシュを二発の銃弾が襲います。最初はブッシュなんて死んじゃえばいいのに的な気持ちで観ていたわけですから、ガッツポーズの一つも取りたくなるような欲望に思いっきり答えてくれるわけですが、何となく微妙な気持ちにさせられます。映画の空気も一変する。

病院に運び込まれ、賢明な治療が行われている最中、捜査が始まり、容疑者の洗い出しが始まります。何しろこれだけ不人気な大統領ですし、ぶち殺してやりたいと思っている人は沢山います。いろいろな人々に容疑がかけられて行きます。

イラクで戦った帰還兵、薬におぼれ戦争の痛みに心を引き裂かれ現場近くで拘束されます。デモに参加しても声はブッシュには届かない、中東で戦った帰還兵はこの国では誰も英雄としては見ない、単なる人殺し、ブッシュの片棒を担いだマヌケだと思っている、と言った感じの言葉をインタビューで答えるのですが、これが胸に突き刺さる。

アメリカはもの凄い格差にさらされ、軍隊が有力な就職先になってしまっている側面もあるわけです。アメリカ的な格差社会に突っ走っている我が国。戦争反対の御為ごかしはいいけれど、軍人になるくらいしか先に希望が持てないような社会になりつつある事に対しての処方箋は、命は大切だとか、戦争はよくないとか、真っ先に死ぬのは君達なんだ、とかいう言葉では全然汲み取る事が出来ない社会構造になりつつあるわけです。そこに対してこの国の平和論者はあまりにもズレた視点で戦争反対している。戦争が悲惨なのは当たり前だし、平和な方がいいに決まっています。そんなことは誰だってわかっている。

実際容疑者とされる元軍人は軍人一家の男だったので格差とは関係無いのかもしれませんが一瞬それが頭を過りました。大義の無い戦争に駆り出された理不尽が語られています。父親は湾岸戦争で活躍し、病気だと言ってましたので、語られていませんが、ガルフウォー・シンドロームなのかもしれません。そして兄は、今回の中東戦争に共に参戦し戦死。自身もPTSDに悩まされ苦しんでいる。

それ以外にも捜査線上に様々な人々が浮かんできます。市民運動の中心人物、ブッシュを憎む気持ちも十分あるし、疑えばきりがないが、クロと断定するには乏しい。そしてムスリムの男も引っかかります。そうでなくとも9・11以降、ムスリムに対しては過剰とも思えるような反応を示し続けて来ました。それにムスリムには十分過ぎるほどの動機もある。

その最中ブッシュは治療の甲斐無く死んでしまいます。

すると当然の事ですが、副大統領が大統領に就任するわけです。石油利権の傀儡であったブッシュではなく、石油利権そのものが大統領になってしまう。支持率が低下し、求心力を失ったブッシュに取って代わり、チェイニーが巧みにその死を利用し、パトリオット・アクトの強化、引っかかったムスリム系の男性からテロを結びつけ、政治的に利用しようとする力学が動き始めます。シリアを標的にして、容疑者との関係を無理矢理にでも結びつけようとし、軍事的侵攻を画策する。メディアではシリアの専門家と称する御用学者が登場し、シリアがテロを行い、大統領を暗殺する可能性は十分にある。という事を垂れ流すわけです。

容疑者となったムスリムの男は、一度そうとは知らず、アルカイダのテロキャンプに参加していた事がバレてしまいます。本人は決してテロなどを起こそうなどとは思っているわけではなく、友人に誘われて行ったら帰してもらえなくなり、仕方なく参加しただけなのですが、そういった過去を暴かれます。

アルカイダのテロキャンプに参加したという事実は、何よりアメリカ国民の怒りに火をつけるのに雄弁です。メディアはそれを煽り、大統領の暗殺と、テロキャンプに参加した過去があるという事は何の関係もないのですが、テロという言葉はあまりにもネガティブに作用してしまいます。

物的証拠も見つかり益々不利になって行く。元FBIの鑑定をやっていた男がインタビューで証言します。あらかじめ結末が決まっている捜査に対して、不利な情報は上にあがらない仕組みになっている、物的証拠と言っても強引過ぎる理由付けで、そういえばそう言えない事もない程度のもので、そういうシステムに嫌気がさして辞めたと。

テロという言葉、恣意的に集められた情報、メディアのキャンペーンによって、ブッシュの死を境に愛国心ムードに包まれ、今まさに同じ過ちを繰り返すのではないかという雰囲気になって来ます。

そして・・・・・・これ以上書くと身も蓋もなくなるので、興味のある方は是非オススメです。

我々はブッシュに対して怒っていますが、よく考えればブッシュが死んでも何も変わらないのは当たり前で、この映画のようにもっと悲惨な道を突っ走る可能性もあるわけです。

ムーアの映画や、不都合な真実などもそうですが、結局コイツが悪いんだ!!原因はこれこれだ!!というフィンガー・ポインティングです。プロパガンダに対抗するカウンター・プロパガンダというか、動員のツールというか。しかし世の中そんなに単純ではありません。

ブッシュに対する憎しみを巧みに利用して、観るものを引きつけますが、最後はこの社会というシステムに組み込まれている我々すべてに問題点が突き付けられる。ブッシュの事を悪く描いているわけでもなく、システムという化け物の脅威が突き付けられる。

ムスリムの男の妻が語ります。なぜ暗殺者は引き金を引く時にそれによってもたらされる副作用を考えなかったのか?

暴力による報復は次の暴力を生むだけです。この国のメディアの劣化ぶりや過熱報道、アメリカ的な社会を完全に追従している状況、政治家のマヌケぶり、制度の恣意性、様々な現状を考えると、チェイニーがテロとの戦いとか言えば、福田総理はテロとの戦いを支援するって言いそうですし、バカな政治家が国際貢献とか言いそうです。御用メディアも翼賛体制やテロの脅威を垂れ流すでしょう。なんか冗談だと言っていられないリアリティがあります。

今アメリカでは大統領選が行われていますし、この国でも近いうちに衆院選が行われるでしょう。いずれにせよ、政権交代に希望を感じさせるような感覚が支配しています。個人的にも政権交代は何としてでも起こるべきだと思いますが、起こったからすぐさま世の中がよくなるかと言うと、そう簡単にはいきません。特にこの国では民主党というクソみたいな政党に任せるしか、ほぼ選択肢がありません。それ以外だと可能性としては限りなく乏しい。

だから必ずバックフラッシュが起こります。これは間違いないでしょう。前の方が良かった、悪くなった、騙された、メディアもそれを煽るに決まっています。絶対にやるに決まっている。短期的には今より酷くなる可能性だって十分ある。

肝腎なのは制度の中に、我々のチェックを選挙でいつでも政権交代が起こるという危機感を持たせる事によってビルトインする。物理的に政官業の癒着を断ち切って風通しを良くする、それを繰り返して行くという事が重要で、どこかにお任せすればすべてクリアカットに解決してくれるという依存が今のような劣化と馴れ合いを許すわけです。

アメリカの大統領も民主党の候補になれば、ブッシュ政権の頃より風当たりが強くなり、孤立感が漂う状況になる可能性もある。そういう状況になれば人は不安を感じます。そこにつけ込んでくる力学がある。メディアのゴキブリ共しかり、利権バカの政治家、官僚しかりです。ガス抜きに引っかかり、ちょっと前の事も忘れる。権力にしろアンチ権力にしろ、システムの中での単なるロールに過ぎない相互補完関係のパーツなのか?利用するもの、利用されるものという図式はシステムを営む以上避けられない図式なのか?それとも乗り越える事が出来るのか?そんなことを突き付けられる映画でした。

最後は我々次第の部分もあるわけです。何もかもコントロールするには世の中はあまりにも複雑系です。「大統領暗殺」を観てあれこれ書いてみました。