最近気になる事があります。どうでもいい事かもしれませんが、作家の猪瀬直樹さんがテレビに出てくると明らかに不機嫌そうに見えます。イライラしている様子が、画面上からにじみ出て来るようであります。それもそのはず、小泉政権の際に舵を切った事後チェック型の社会、一応建て前では税金の無駄遣いに切り込もうとした、所謂、構造改革が小泉さんのレームダックから、小泉竹中ラインをメッタクソにけなすコミュニケーションに溢れ、跡継ぎの安倍総理はもはや風前の灯、官僚達の巻き返しによって、世論もメディアも安倍叩きに溢れています。
間違いなく官僚達はほくそ笑んでいるでしょう。弱者切り捨て、国益を外資に売り渡したなど、小泉的なるもの、安倍的なるものに対する批判の影に、官僚の既得権確保の巻き返しが隠れています。だいぶ前ですが、草野厚さんの「解体」(国際協力銀行の政治学)という本で、政府系金融機関をめぐるバトルが非常に興味深く書かれたものがあります。草野さん自身、改革派ですので、今の時流で言えば不人気な路線かもしれませんが、改革と維持の狭間での強烈な鍔迫り合いが描かれており大変面白い本です。今日はそれについて書こうと思います。それでは始めます。
解体―国際協力銀行の政治学/草野 厚

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今この手の話を書くと勘違いされる方も沢山いると思いますので、最初に書いておきますが、安倍さんや小泉竹中的なるものが叩かれ、クソミソにけなされる昨今、ちょっと冷静になって、書こうと思っているだけですので、自民党的なものを擁護するとかそういった意図はありませんのであしからず。
時代の流れに乗って、安倍叩きや小泉叩きをするのは楽ですが、少しわけもわからずそっちの流れに加速しすぎているような気もしますので、いつも自民党批判を繰り返して来ましたが、たまには少し逆の視座で書こうと思います。
小泉さんが叫んでいた改革で、まあ一番大騒ぎしたのが郵政民営化だったと思います。小泉さん自身、改革の本丸とか言ってましたから。これが財投の入口とすると、その出口としての、改革の二の丸と呼ばれたものが特殊法人改革でした。そしてこの本に書かれているのはその中でも、政府系金融機関の一つ、国際協力銀行の解体をめぐる攻防戦です。賛否両論ありますが、国が借金まみれであり、税金の無駄遣いをスリム化しなければならなかったのは事実です。
それにしても凄まじい、所謂「抵抗勢力」という懐かしい響きを思い出しますが、既得権を守ろうと暗躍する官僚、それを擁護する、所謂族議員、その権益争奪戦も改革側、抵抗勢力なんて言う単純な図式ではなく、関係する各省庁間での鍔迫り合い、複雑に絡まった壮絶なパワーゲームが展開されています。己の権益の為に、ある種、国益も国の未来も関係なしに展開する争奪戦は、我々一般人の常識から遠くかけ離れ、全く国民不在です。読んでいると、ギャグかと思えるくらい冗談だろという浅ましさです。笑っていられませんが、浅ましい連中の鍔迫り合いが、克明に描かれています。それぞれもっともらしい事は言いますが、国が借金まみれであり、既得権の構造を利用して、利権を吸い出し、税金を無駄遣いしていたという部分は、どんな言い訳をしても逃れられない事実です。しかしそれに抗う連中の戦闘力は半端じゃない。それを国の為に使ってくれよと思いますが、自分達や自分の省庁の権益の為に、天下り確保の為に蠢く力学は凄まじさを感じてしまいます。そこに引っ張られて政治家も入り乱れ、経済界も入り乱れ、凄まじいバトルが展開されるわけであります。
どうでもいいけれど、それ税金なんですけれど。と言いたくなりますが、浅ましい連中には全く聞こえないのでしょう。
国際協力銀行というのは元々、日本輸出入銀行(旧輸銀)と海外経済協力基金(旧基金)二つの組織を、半ば強引に村山内閣の際にくっつけて作った組織です。改革という旗を立てる為に、場当たり的とも取れるような妥協の産物と言っても差し支えない。結局当初目的としていた、行財政改革の一つ、政府系金融機関の整理統合という一応の形にはなったものの、官僚側の抵抗も凄まじく、天下りポストが一つ減ったというくらいで(まあそれだけでも官僚にとっては手痛い改革なのですが)、中身は殆どサブスタンスがなかった。天下りポストと引き換えに、利権構造は完全に手付かずと言って差し支えのない改革でした。元々旧輸銀は国際金融、旧基金は円借款などの援助、海外という共通点はあるものの、その性質は全く異なる組織、それを無理矢理結婚させてできたのが国際協力銀行(JBIC)というわけです。
旧輸銀というのは旧大蔵省(現財務省)事務次官の最高位の天下りポストで、利権の巣窟です。高度経済成長の際は非常に重要な役割を担っていましたが、80年代以降、アンタイドローン(ヒモ付きでない融資)によって、旧基金の円借款との鞘当てを演じて来ました。したがってこの両組織、それぞれに複雑な感情を抱いていました。
旧基金というのは、経済企画庁が監督官庁をつとめ、外務、大蔵、通産の三省が認可の形をとっておりましたが、次第に外務省と財務省の発言権が強まり、この二つが縄張り争いを演じて来ました。国際協力銀行が発足してから、省庁再編によって経済企画庁は廃止になり、その機能は各省庁に分散され、その折、外務省は円借款部門の監督権限を継承しました。
国際協力銀行の旧輸銀が担っていた国際金融部門は財務省に、旧基金の円借款部門は外務省に、それぞれ権限を握ります。全体としては、旧輸銀の力関係の方が強かったので、旧輸銀側、財務省側に有利な人事になりますが、外務省は円借款部門の権限を引き継いだという事もあり、音無の構えという感じでした。
さて統合はしたものの、小泉政権が手を付けるまでの6年間、職員数は両部門遇わせて869名、これは統合前の22名減、6年間でですよ。冗談だろという数字です。普通にやっててもそれくらい辞めそうです。いろいろもっともらしい言い分もあるのですが、行政改革の一環としていたにもかかわらず、この数字は民間では考えられないのではないでしょうか。殆ど変わらない報酬、豪華なレジデンス、中でも統合直前に滑り込みで、考えられないような豪華な旧輸銀幹部職員用住宅の立て替え、税金の無駄遣いを無くそうと言うにも関わらず具合が悪くなりそうな話です。
官僚達の非常識さというのは、程度問題で、どこの連中も似たようなものなのかもしれませんが、国際協力銀行において、旧輸銀側は元から銀行ですので、民間金融機関のバブル時のような豪華さで、バブル崩壊以降、民間金融機関が強いられたリストラに比べると、考えられない能天気さです。旧基金というのは元々貧しい国を援助する事を目的とする機関でしたから、あまりの空気の違いに、旧基金側は戸惑ったといいます。ちなみに小泉政権時に遂げた政府系金融機関の統廃合において、旧基金が統合した相手、国際協力機構(JICA)も旧基金も事務所長用の個人住宅は賃貸です。鍔迫り合いを演じて来た因縁、旧輸銀の強引な人事、ODA関係者の世界からは違和感を感じる文化の違い、旧輸銀の贅沢さ、旧基金側の職員が離婚したいと考える理由となっていくわけです。
旧基金というのは円借款部門ですので基本的に情報は公開されています。融資とは違い援助の意味合いが強いわけですから、先進国の義務といいますか、本来あまり競争的な意識で他国と鍔迫り合いを行うべきものではありません。中国の台頭、そしてODAを行ってもたいして感謝されていないなどの世論の吹き上がりもありますが、自国の利益にがつがつしすぎるのも先進国としては外交上あまりプラスにはなりません。そんなきれい事では世界は回っていないというのはありますが、日本人は元々意地汚いイメージがありますので、ここの所の舵取りを誤ると、バッシングを受ける引き金にもなるというわけです。アメリカに依存して、軍事と言う脅しのない我が国は、中々その辺の舵取りは難しいのが現実です。
一方旧輸銀が司る、国際金融部門というのは、名目上海外に進出する日本の企業に低金利で融資し、国際競争力を高め、日本の国益を増進させるという感じです。それとアンタイドローン。一応旧輸銀の業務も、旧基金の業務ももちろん、国際協力銀行の業務は、政府系金融機関ですので、民間では敬遠しそうなリスクの高い所に金を出すという事になるのですが、円借款は当然として、国際金融部門もそういう建て前で、中小企業に対する低金利の融資なども行っていました。しかしこの国際金融部門というのはビジネス上の理由という事で、情報は非公開、全く不透明な状態です。そして旧輸銀が融資する6割の企業が、トヨタとか、三菱何チャラとか、住友何チャラとか、別にそんな低利の融資を受けなくたって、十分大企業なんだから、民間の融資で大丈夫だろ、わざわざ税金使うなよ、と言いたくなるような実態であり、それをまあ隠して知らん顔していたというわけです。
そして更に厄介なのは、民間の大企業が共同で設立した会社に、低金利で融資し、それを更に金利を上乗せして、その会社から、外国の企業に融資するというようなスキームがあるわけです。もちろん大企業が共同で設立した会社にはOBを送り込むという、利権を生み出す装置としても機能しています。企業が共同で設立した会社は、国際協力銀行という国の信用を背負ってビジネスを展開出来ますし、国際協力銀行としては大企業が保証機能を果たし貸し倒れも起きにくい、そして金利の低い融資を受け、その子会社が受け、利ざやを稼ぐという構造になるわけです。とまあ官僚達のよくやるパターンですが。つくづくグッタリです。
しかもです。こういった構造を利用して融資する先が、イランの石油会社だったりするわけです。まあこの話はハタミ大統領の頃なので、その後のアフマディネジャド政権に流れて行く過程が予想出来ていなかったという言い訳も立ちますが、間に会社をかませて融資している為に、責任の所在が不明瞭になります。アメリカとイランの関係に配慮してそういうスキームを使ったという言い訳がされますが、ブッシュの悪の枢軸発言以来、更に悪化したこの関係、すでにイランの石油会社には融資してしまった後ですので、回収不能に陥る可能性が高まってしまい、その資金が何に使われているのかもわかりません。税金は無駄になってしまう。それにこういったスキームはこれだけではありません。国際協力銀行の旧輸銀、国際金融部門というのは、財務省にとって利権を生み出すモーターになっているというわけです。
こういった話では、中国の東シナ海のガス田に通じるパイプラインにも、旧輸銀のアンタイドローンが使われています。こういった国益を無視した国家機関の勝手な行動は、中国側にイエスのサインと勘違いされる恐れもあります。つまり東シナのガス田開発に対して、日本政府で納得済みという感じで。この手の批判が騒がれた時に出て来たのが、ODAが(特に中国で)感謝されていない、という騒ぎでした。これは旧輸銀のいい加減な融資の批判を回避する為に、JICAのODAや、旧基金の円借款の戦略性のなさを煽った力学が見えます。またこの旧基金の円借款部門の戦略性のなさを煽る事によって、旧輸銀が持つ競争力を全面に押し出し、国際協力銀行の分離解体論を退けるエビデンスともなります。
この構造にメスを入れたのが、賛否両論ありますが小泉政権であり、竹中平蔵であり、経済財政諮問会議となるわけです。民間に出来る事は民間に、どうしても民間には手に負えない部分を官が司る、所謂、小さな政府というやつですね。もう一度繰り返しておきますが、小泉政権や竹中さんが行った事が正しかったのかどうかが言いたいわけではありません。ある視座に立つと、こういうストーリーにも見えてくると言いたいだけなのであります。
つづく。