警察を出たら
無言の渡辺に手を引かれて
タクシーに乗せられた
学校に行くんかと思ったけど
ついたのは渡辺の家で
何も言わず中に入れて
ソファーに座らせた

「渡辺…」

「傷手当てするから」

「別にええから」

「アカン、言うこと聞きなさい」

脱脂綿に消毒液を浸して
俺の口に付ける
消毒液がしみて少し顔が歪む
渡辺はそんな様子を察して
さらに優しくつけて
薬を塗って絆創膏を貼った

「これでよし
学校にはさっき連絡入れたから
誤解やったし悪かったのは相手やって」

「そうか…」

「なぁなんで黙ってたん?」

「アイツの方が未来あるやん?」

「未来?」

「俺なんかどうせ学校辞めるし
とくに何かあるわけちゃう
でもあいつはイジメがなければ
秀英っていうエリート高で
輝けるやろ…だから」

「アホちゃう?」

「え?ちょっ…」

渡辺は突然泣き出した

「アホ、アホー!
なんで一番に自分考えへんの?
なんで他の人なん?
何よりなんでそんなに自分を
大切にせぇへんのよ…」

訳がわからへん
なんでコイツが泣くんや
なんでこんなに怒るねん

「渡辺に関係…」

「あるやろ!
担任の先生やねんから!」

「…」

何でこんなにこの人は真っ直ぐなのか
俺がひねくれすぎてるからか
よく分からへん
でも少なくとも
目の前で俺の為に泣いてくれてるのは
悪い気はしなかった
涙綺麗やなって
そう思って頬に触れる

「お前がなんで泣くねん」

「分からへんけど
悔しいやんか!」

「ホンマに泣き虫
教師なんか?」

「教師やで」

「…お前らしいな」

「え?」

「お前にはずっとそういてほしい
他の先公と違う…」

「山本くん…」

「いつからこんなにひねくれたんか
俺にもよく分からへんねん
お前は俺に
一人が嫌いで寂しがりや
とか言うてたけど
ホンマにそんなことないねん
俺はたぶん感情がなくなってん」

「…」

「母親が出ていったとき
泣きながら止めても
笑ってバイバーイとか
父親が出ていく時も
俺の顔軽く見て無表情
けっこうメンタル来るやろ?」

「うん…」

「だから
悪いけど渡辺が
どれだけ俺に向き合ってくれても
俺は信じることはできひん」

「うんええよ」

「え?」

「私が山本くんを100%信じる」

「は?」

「世界中の人が
山本くんを悪者やって言うても
山本くんが違うっていうなら
私は違うって思うから
私が山本くんの存在を肯定する」

「…」

「だからな山本くん
安心して…うわ」

ギューーーッ

「山本くん…?」

「悪い…今だけ許して」

渡辺は何も言わず
抱きついた俺の背中に
腕を回した
俺はその暖かさが心地よくて
目を閉じた