起業より副業 - 日本に必要なのはリスクテイクではなくてリスク分散 | 木下英範のブログ

起業より副業 - 日本に必要なのはリスクテイクではなくてリスク分散

このグラフは日本における開業率、廃業率の推移である。



木下英範のブログ-開業率・廃業率
                           出典:「2009年版中小企業白書」(中小企業庁)


昭和60年ころから廃業率が開業率を上回り、その乖離幅はどんどん大きくなっている。経済成長に必要なのはイノベーションであり、それは会社を開業すると言うことであるから、これを見ても日本の現状は停滞していると言える。


これはまずいということで、政府は創業支援をしたり、ちまたでは起業セミナーが盛況である。しかし、こんなに雇用流動性が低い国で怖くて起業なんかできるものではない。会社を興してもつぶれたらもう就職はできない(少なくとも元の処遇では)。


会社という仕組みは資金調達や与信には役に立つ。しかし、それ以上の物ではない。会社というのは手段である。本当の目的とは、まだこの世にない商品を作りたい、良い物を世間に広めたい、というところにあるはずだ。それはなにも起業をしなくても、従業員として参加することで達成できることかも知れない。


会社というのは自分の夢や目的を達成するための手段に過ぎない。自分の商品や、やりたいことがないうちに起業を勧めるのは犯罪に近いと思う。そして会社というのはほとんどが失敗するものだ。経験のないサラリーマンや学生がいきなり起業したところでその失敗率はさらに高いだろう。


木村剛氏は起業を1.5mの谷を飛び越える行為だと表現した。これは非常にうまいたとえだと思う。慎重な人は谷の深さを測ったり、急に風が吹いてきたらどうしよう、と考えているうちに不安になり、飛べなくなってしまう。そのため起業には向いていない。一方バカな人(楽天的な人)は何も考えずに飛んでしまう。そして案外うまくいったりする。


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まあこれはその通りなのだが、それではただバカのように飛べばいいのだろうか?そうではない。確かに、楽観的な人の方が起業には向いている。オプティミズム無きところに真のイノベーションはない。しかし、会社というものはほとんどつぶれるものだ。成功する人がいる裏では膨大な人が失敗しているのだ。


谷の下に大量の死骸が転がっているのを見て、誰が谷を飛ぼうと思うだろうか?無理に起業を促すことは逆に恐怖心を植え付けてしまうことになりかねない。


「起業ではなく副業」を勧めるべきなのだ。本業があるのならば失敗しても大丈夫なのだから。


リスクの話をしよう。個別のリスクとリターンを分けることはできない。たとえば、ローリスク・ハイリターンを得ることはできない。しかしリスクの一部を切り出して、ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンを作り出すことはできる。リスクの分散である。ローリスク・ローリターンは本業、ハイリスク・ハイリターンは副業だ。


商売のコツは小さなテストだ。常にテストをして世間の反応を見る。まずは小さく売ってみることが大事。だいたいはうまくいかないが、その中で売れる物が出てくる。そうしたらそれを少しずつ大きく売ってみればよい。


副業ならば資本金なんていらない。事務所もいらない。登記する必要も、書類を作ってだれかに説明する必要もない。起業するのは儲かって人手と資金が足りなくなってからでいい。土日やアフター5にちょろちょろとやってみて、たまたま当たったらそれを本業にすればいい。しかし一人ではモチベーションが続かないこともあるだろう。その場合は副業仲間を見つければいい。業種を超えた協力をすることでそれぞれの得意分野を活かせる。


軌道に乗るまでは本業をやめてはいけない。投資の教科書はリスクを分散せよと言う。それに従って投資先を分散している人もいるだろう。ならばなぜ最もリスクが高いはずの本業を分散しないのか?


蛇足だがもっと言わせてもらえば、転職するときになぜ元の会社を辞める必要があるだろうか?一人が何社にも所属していいはずだ。そのほうが相乗効果を発揮できる。また、仕事には繁閑がある。仕事のない暇なときも会社に8時間いなければならないなんてナンセンスだ。仕事がないのに会社にいなければならないから無理に仕事を作り出す。必要のない書類回しや会議などの無駄な仕事が作られていく。


米国のイノベーションが活発なのは、高い雇用流動性によりリスク分散がされているためだ。日本でも雇用流動性を高める議論がされているが、文化に根付いたことなのでそう簡単ではない。雇用流動性なんか高めなくてもやり方はいろいろあるのだ。


「リスクを取れ!」と言ったところで誰がリスクを取る?リスクを取ると言うことは失敗も多くなるということだ。失敗したら責任を取ってくれるとでも言うのだろうか。米国では起業率も多いが、それに応じて廃業率も高いのだ。リスク分散をすることで人は自然にリスクを取れるようになるのである。


何も大きな会社を作って上場するだけが商売ではない。個人で小さく商売してみるのも小遣いにもなって楽しいものである。そのうち何かが大当たりするかも知れないのだし。


Googleを使おう。キーワードツールでテストをしよう。PPCを使おう。アフィリで商売の練習をしよう。セミナーに出席して副業仲間を見つけよう。全部ノーリスクでできる。


実はこうしたやり方をしている人は最近とても多いと思う。開業率・廃業率というのは登記した会社で統計を取っている。水面下で個人でやっている商売は表に出てこないだけで、それを含めると開業率は大変に多くなっているのではないだろうか。現状をそれほど悲観することもないだろう。


「セレンディピティの周りでウロウロしてエキスポージャーを高めるのだ。インターネットの時代といって田舎に引き込んでいてトンネル化してもだめ。カクテルパーティーにいそいそと出かけて議論に加わり、会話の中に突破口を見つけるのだ。」(ナシーム・ニコラス・タレブ)