長い目で見た雇用ルールを作るべき | 木下英範のブログ

長い目で見た雇用ルールを作るべき

現在、日本の経済体制は資本主義を選択している。資本主義とは「資本主義というルール」に従って活動することである。だからルールを定めるための法律は欠かせない。このルールというのはみんながハッピーに活動を回し続けていくためのルールである。資本主義というのは「市場経済」+「ルール」といえる。


しかしルールを適用したとたんに市場には歪みが組み込まれることになる。必ずどこかにしわ寄せがいく。資本主義はゆがみと一体だ。だからできるだけゆがみを分散させ、小さくするようにルールを適用させていくのが望ましい。


たとえば経営者には解雇制約が課せられるが、これが強すぎると雇用市場の回転率や継続性が失われる。また弱すぎても搾取が横行し破綻してしまうだろう。市場は技術の発展や人間の思惑(おもわく)によって変化していく。だからルールも柔軟に対応していかなければならない。


ではルールは誰がどう決め、適用させていくのか。


法律は立法機関(国会)で作られる。法律を解釈し実際の社会事例に当てはめていくのは司法機関(裁判所)である。立法機関が作った法律の条文ではすべての事例について記述することはできないので、あくまでもガイドラインとして使用される。このガイドラインを参照しながら実際の事例に当てはめていくのは司法の役目である。


では実際の事件に対してどう法律を適用させていくのかというと、法律(の条文)を重視するのか判例を重視するのかに分かれる。現代の法律解釈は判例を重視する傾向にあると思う。したがって、ある判例が一度出てしまうと、それを参考にして以後同様な事例においては同様の判決が下る傾向がある。


しかし判例を次々と継承させていくと、法律判断者の思考にアンカリングができて時代の変化を見逃してしまう事態が生じる。それがたとえば、
「今から30年も前の東京高裁の判例によって、企業の解雇権は著しく制約され、業績が悪化しても従業員を実態的に抱え続けねばならないような社会制度になってしまっている」という事態だ。
このアンカリングを気づかせて、環境の変化に適応させるには法律を改正する必要がある。しかしこれは不況対策ではない。


たしかに不況のときには、限られた労働分配を広く薄く延ばして全員が生き延びるということが重要である。しかしその意味で正規雇用・非正規雇用というのは本質的には問題ではない。なぜならルールがうまく適用され、同一労働・同一賃金が成り立つ仕組みになっているならば、解雇しやすくなると同時に雇用しやすくなるからだ。


緊急時の応急処置的雇用対策と、通常時まで通用する本質的な雇用政策は分けて議論するべきだ。


文化が発展し、人々の持つスキルや価値観が多様化してきている。そしてこれからも多様化していくのは明らかだ。それなのに働き方が画一的では無駄や摩擦が生じ生産性が損なわれる。働き方も多様化させるのが望ましい。その意味で正規雇用・非正規雇用の意義を考えるのが正しい。正規雇用を増やすべきだ論と、非正規雇用を増やすべきだ論があるが、本質を忘れて、今のこの異常事態に合わせてルールを作ってしまうと後で後悔することになるだろう。


【参考文献】

竹中平蔵のポリシー・スクール──雇用は健全な三権分立から