会社とは
人は一人では生きられない。いや、なんとか生きていけるかもしれないが、今のような暮らしはできない。一人の人間はその他大勢の人間に助けられて生きている。それは今日の夕飯がどういうプロセスで腹に収まったかを考えればわかる。人は他人に助けられて生きていると同時に、他人を助けている。自分の作り出した価値と、他人の作り出した価値を交換して、効率の良い社会を形成している。
ではどうやって、自分の価値を他人と交換するのか。それは「会社」を通して行うのが一番効率がいい。会社は個人の価値を集めて、意味のある大きな価値を作ったり、その価値を広く社会に提供するのに都合がいい。会社は「個人の価値」を「社会の価値」に変換する装置だといえる。そして自分の作った製品を誰かがお金と交換してくれる。見知らぬ誰かとも価値の交換を可能にする。
「個人」 価値→ 「会社」 価値→ 「社会」
「個人」 ←お金 「会社」 ←お金 「社会」
では、会社がなくては社会に価値を提供できないのか。そんなことはない。会社などない大昔から、人々は互いに価値を提供しあって暮らしてきた。真に理想論を言えば、会社などいらないと思っている。本当に気の合う仲間が集まり、その事業に価値を見出しているならば、それが結束となるのだから、わざわざ会社などという枠を作らなくてもいいのである。登記に手数料はかかるし、財務諸表を作らなければならないし、維持費もかかる。めんどくさいだけである。
それでも会社を作る意味はある。それはなにか。2つある。
1つ目は、税金の徴収である。会社登記なんてめんどくさいから、各自が自由勝手に商売を営めばいいではないか。ひとつ問題がある。税金の徴収ができないのだ。残念ながら、現在の資本主義ではそれほど完璧なシステムではない。完全自由経済の元では、資本家に富が集中し、持たざるものはますます貧乏になってしまう。だから共同体は税金を徴収し、富の分配を行う。会社登記し、税務署に会社の存在を知らせ、利益の一部を共同体(政府)に収めなければならない。個人で収めてもいいのだが、会社を作ったほうが税金が安くなるし、払いやすくなる。政府にとっても徴収しやすいほうが便利であるから、個人事業よりも法人のほうが税金を安くしている。
2つ目は、資金調達である。事業を行うに当たって資金が必要になるときがある。借入金にしても株主資本にしても、どちらも投資家を必要とする。そのために、事業側の身分を証明しなくてはならない。会社を登記することは公的機関に身分を証明してもらうことである。それでやっと投資家は安心して資金の提供ができる。
この2つはある程度の規模になると有効になってくる。利益が1000万以下で、大規模な資金調達を行わないような、小規模事業の場合は、個人事業か、LLC、LLPを選択したほうがコストがかからない。
会社は資本主義の子であり、非常に便利なものだが、所詮誰かが考えたものであり、ただの箱である。しかし、その奥にある、「気の合う仲間が集まり、価値のある仕事をする」という本質は会社ができるずっと以前からあった人間の欲求であるから、そのことを忘れないようにしたい。