株価は予測できるか - システム屋的見解
バリュー投資でも短期投資でも、テクニカル分析でもファンダメンタル分析でも、あらゆる参加者があらゆる方法を持って株式市場を予測する手段を日夜探しています。株式相場、ひいては将来の企業価値を予測することはできるのでしょうか。
システム開発者の立場から言わせていただくと、株式相場を正確に予測することは不可能に見えます。それは観測者が観測対象に影響を与えてしまうという「観測のパラドックス」が存在するからです。
もし、ある程度正確な予測ができるシステムが完成したとします。すると必ず誰かがそれを使って投資します。すると最初は多少儲かるかもしれません。そこでこの投資家は次第に投資金額を増やしていくでしょう。すると自らの売買が市場に影響を与えるようになります。すると最初の計算式ではうまく予測ができなくなっていきます。つまり、自分が相場に与える影響をシステムにフィードバックしなくてはならないのです。
それではとフィードバック機能を追加したシステムを完成させたとします。
そのシステムに従って売買を繰り返すと、今度はその新システムが相場に影響を与えるようになります。するとまたその新システムの影響をフィードバックしなくてはならない。と、いうように永遠に再帰処理が繰り返され、そこから抜け出せない無限ループに陥ってしまうのです。
もうひとつの観点から考えます。仮に100%予測のできるシステムを完成させたとしましょう。これを使って市場に参加した場合、やがて必ず周りの目を引きます。システムの存在は遅かれ早かれ市場参加者に気づかれます。100%当たるわけですから誰もがまねをして売買してくるでしょう。すると予測的中率は100%ではなくなってきます。もしシステムがある銘柄を「売り」だと判断したとしましょう。しかし、システムが売りだと判断した銘柄を誰が買うでしょうか。そのまま買い手が見つからず底値まで下がるでしょう。よくても、間違って買いを入れてしまった誰かの超低価格で確定するでしょう。「買い」と判断した場合も同様です。誰がそんな銘柄を手放すでしょうか。
完璧なシステムだったはずが、最終的には自分がババを引くことになります。このように、少なくともプログラミング理論ではこの問題を解決できません(と自分は思います)。したがって世にある(またはこれから現れるであろう)相場予測システムを全面的に信頼することは避けるべきです。自分が人間的に犯す大チョンボを防止するといった程度の目的に使用すべきだと思います。
未来予測というのは、「予測結果が現実に影響を与えない」という前提があって初めて実現できるのです。しかし予測結果を現実で使用できない、となるとその予測には意味があるでしょうか。予測結果を知るということ自体、すでに現実に影響を与えています。このパラドックスがあるために未来は予測不可能というわけです。