円は債務危機の混乱からの逃避先として、選好され、円の対ドル相場が戦後最高値を更新、低迷する日本経済を一段と悪化させた。これは1995年のことである。17年前、過去最大の為替介入で円高に歯止めを掛けようとした政策当局者にとって、既視感(デジャブ)を覚えることだろう。当時は円相場は5カ月以内で約30%押し下げられた。当時と同様に、現在も円相場は戦後最高値近辺で推移している。欧州債務危機でリスク回避の買いを集めているためで、円高は東日本大震災からの復興の足を引っ張っている。
 唯一の違いは、今回は介入の効果がなさそうなことだ。95年当時は米国と欧州が円売り介入に同調してくれた結果、効果を上げたが、今回は米国が反対している。さらに、介入を難しくしているのは、世界最大の純債権国としての日本の地位だ。ギリシャのユーロ圏離脱懸念が浮上する中、円への投資は増している。HSBCホールディングスのシニア通貨アナリスト、ポール・マケル氏(香港在勤)は、「逃避先通貨の価値を下げるのは、日本の当局者にとって、非常に困難だ」と指摘。「『衝撃と畏怖』をもたらす断続的な動きは、ごく一時的にしか効果がない」と話した。
<単独介入>
昨年行われた単独介入は、持続的な効果がなかった。6日の東京市場の円相場は1ドル=79円11銭程度で、3月の今年最安値(84円18銭)を上回った。戦後最高値の75円35銭を付けた昨年10月31日、政府・日本銀行は、過去最大の約8兆円規模の円売り介入を実施。昨年1年間では、介入規模は14兆3000億円強に達した。
 逃避先通貨としての円の地位を高めることは、日本の対外純資産価値の増加につながる。ブルームバーグ・ニュースが財務省統計を基に集計したところによると、国内総生産(GDP)に占める比率は昨年12月末時点で54%と、94年末の13%から上昇している。また、GDPの2倍強もの公的債務を抱えながらも、日本は経常黒字を背景にして、国債消化を海外投資家に依存しないで済んでいる。
債券ファンド世界最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「基本的に円高圧力が強い環境が続く」と指摘。円高基調を反転させる「本当のゲームチェンジャーは、財務省の大規模介入と日銀による大規模な量的緩和策の連携に、円相場を押し下げるような宣言の組み合わせだ」と強調した。
<日銀の政策>
白川日銀総裁には、今年に入り国債購入を20兆円増額した資産買い入れ等基金をさらに積み増す意向を示す兆候はほとんど見られない。先週公表された4月27日の金融政策決定会合の議事要旨では、「消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるまでは、機械的に基金の増額を続けていくという誤解が一部にみられる」との言及があった。
 白川総裁は過度の金融緩和は資産価格バブルのリスクを高めると主張しており、先月31日の衆院の特別委員会では、為替相場を規定する大きな要因は、グローバルな投資家がどの程度リスクを取れるのか、取れないのかという評価だとの見解を表明。総裁は今月4日に都内で講演し、円高が日本経済に与える影響について「企業マインドに与える影響を含め日銀として注意深く見ている」と述べた。日銀は次回決定会合を14、15の両日に開く。
 安住淳財務相は主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁による5日の電話会議で、欧州危機を背景とした円高が日本経済に「非常に悪い影響を与えており、日本として危機感を持っている」と各国に説明。安住財務相が電話会議後に記者団に語ったところによると、財務相はG7が昨年合意した「為替市場における行動に関して緊密に協議し、適切に協力する」などとした方針の再確認を要請し、異論は出なかったという。