長く国内の映画興行をけん引してきたスタジオジブリ。
一方で近年は10年公開の『借りぐらしのアリエッティ』を手がけた米林宏昌監督など、
ジブリの未来を担う存在にも注目が集まっている。
昨年公開された『コクリコ坂から』を手がけた宮崎吾朗監督もその1人。
父・宮崎駿やスタジオジブリのイメージからの解放を目指し、吾朗氏の模索は続く。

興行収入44.6億円(観客動員355万人)を記録し、11年の日本映画興行ランキングの首位となった
『コクリコ坂から』が6月20日にDVD・BD化される。
昭和38年の高校生の初恋を描き、昭和という時代を前面に押し出すなど、
スタジオジブリの作品としては異色の仕上がりで、2作目の監督作となった宮崎吾朗氏の“個性”が焼きつけられている。

「この作品を手がけたことで、ようやく監督としての立ち位置が分かりました。
もっとも最初は、お膳に載せられたものに対して、どこから手をつけたらいいか分からない状態でした。
それは、やはり脚本を宮崎駿が手がけたことも影響していたと思います」(宮崎吾朗氏/以下同)

脚本は素晴らしいが作品はダメだと言われたくないあまり、過剰に意識してしまったのだという。

「近過去が舞台なので、その時代を完璧に調べ上げることが、まず先に立ってしまいました。
本当は、その時代を生きた少女の心や思いを把握することが大事だったのです。
それに気づいたのは絵コンテを半分ぐらい描いたときです。
もう一度脚本を読み直し、仕切り直すようにプロデューサーから言われました」

思い至ったのは父の脚本をなぞらないようにすることだった。
自分なりのアプローチで昭和の時代を懸命に生きた少女の世界に入っていくことが肝要だと気づいたのだと語る。

「この話は、親子や血のつながりの“宿命”のストーリーだと解釈しました。世代が繋がっていくことは生命をリレーしていくこと。
思いを順繰りに手渡していくことです。なにより次の世代に手渡していくことが大事なのだと気づきました」

父と同じことはできない自分なりの世界を構築する

そのテーマは宮崎駿が息子、吾朗にアニメーションという表現手段を手渡していくことに通じるだろう。

「今までは自分の置かれた立場から逃げたい気持ちの方が強かったのですが、
この作品を体験してからは宿命に立ち向かうしかないと思うようになりました。
父と同じことはできません。能力も違うし、育った時代や価値観も異なります。
宮崎駿的な大上段に振りかぶった世界ではない、自分なりの世界を構築していくことができないかと、今は考えています」

本作では宮崎吾朗監督の個性がキャスティング、音楽などにも色濃く表れている。

「音楽の武部聡志さんは名曲「上を向いて歩こう」の挿入が決まった時点で、
この曲を尊重するスタンスで作曲してくれました」

今後もコンスタントに作っていくという点はプロデューサーとも一致しており、
さらに「ジブリ的ではない、宮崎吾朗の世界」を目指すようにアドバイスを受けているという。

「宮崎駿、スタジオジブリのイメージから解き放たれたときに何が生まれるのか。
次作はちょっと野蛮な少年のお話にしたいと思っています。
自分探しなどしない、良い子でもない、逞しい少年の在り方を映像化したいのです。
日本がどうなる的な視点や、大所に立つわけではない、日常的、等身大の少年の視点です」

次回作も原作モノになる可能性があるとも話す。構想を徐々に固めつつあり、
「3作目が勝負」と力を込める宮崎吾朗監督。
間違いなく、ジブリだけなく、次代の日本映画を背負う存在の1 人と言えるだろう。