30代になって和食のうまさが身に染みてきた。最近の記者(31)のお気に入りは納豆。
独特のネバネバに大豆のうまみが絡んで、ご飯にかけると幸せを感じる。
これまではとりたてて意識していなかったが、大の納豆党には、こだわりのかき混ぜ回数や
隠し味があるようだ。

納豆好きの食通、北大路魯山人は「不精(ぶしょう)をしないで、また手間を惜しまず、
極力練りかえすべきである」と著書に記している。記者も食の巨人にならい、その道を進もう。

納豆2パックをおわんに出し、箸でこねこね混ぜる。豆と豆がくっついていた最初の状態から、
10回ほどで豆がほぐれて糸を引くようになる。20回で糸が太くなり、ネバネバしてくる。
この段階では口に含むと豆のゴロゴロした食感が目立つ。50回で泡がひとつひとつの豆に行き渡った。
いつも食べるのはこれくらいの状態で、慣れた味だ。

さらに回数を増やせば、おいしくなるのか。100回、泡が増えて全体的に白っぽくなってきた。
豆を持ち上げてもなかなか糸が切れない。口に運ぶとネバネバが舌にからみ、うまみが増した。
150回では、さらに泡立ち、ふんわりまろやか。200回を超えると泡にとろみが加わる。

300回混ぜた納豆は、クリーミーな泡に豆が包まれた。箸にまとわりついて糸が切れない。
口の中に広がったネバネバと豆のホクホク感が合わさった濃厚な味わい。ほのかに甘い。

いつもの50回ではかすかな苦みがあったんだなと発見した。ネバネバが十分でないと、
うまみの広がりが少ない。手間を惜しまないことの大切さを実感した。

◆1千回は泡多く、逆に食べにくい

「混ぜ続ければどこまでおいしくなるのだろう」
 
500回、700回と混ぜ進めたが泡は少し増えただけ。味も300回と、さほど変わらない。
1千回、泡が多すぎて逆にネバネバ食べにくくなってきた。

まだ行くぞ。3千回を超えると、豆がつぶれ始めたのが分かった。豆と豆がぶつかり、
破片が泡に吸い込まれていく。5千回に到達した時点では、白い泡の占める面積が豆よりも
目立つようになった。

一気にペースト状になっていったのは7千回を超えたあたりから。原形をとどめた豆はほとんどない。
とりかかって3時間、1万回に到達した納豆は、まるで生キャラメルのような姿になった。
泡のざらざらした食感が舌に絡み、豆とは感じない。においや味は納豆だが、うまさとはほど遠く、
明らかに混ぜ過ぎ。
たくさん混ぜても味が大きく変わるわけではない」。納豆大手のミツカングループ本社に聞くと、
こんな答えが返ってきた。

納豆のうまみ成分はアミノ酸。かき混ぜると増えるという明確なデータはないという。
変わるのは食感。ネバネバが増せば、舌に触れる面積が広がりうまみが伝わりやすくなる。
ただそれも多すぎると豆の食感が損なわれるので、バランスこそが大切という。
結論としてマイベスト混ぜ回数は300回に決定した。

◆砂糖を入れるとネバネバに威力

普段はタレやからしを入れるだけ。しかし、入れる調味料を変えたら、納豆の味を構成する要素の
「粘り」と「におい」が変化するはずだ。次は合わせる調味料との相性を探った。

まずは「納豆の粘りも、においも強い」調味料のグループ。納豆らしさを好むマニアックな人に
ぜひ薦めたいと思ったのが砂糖だ。東北地方ではよくある食べ方というが、納豆をPRする
全国納豆協同組合連合会(東京都台東区)によると、ポリグルタミン酸などネバネバの成分が、
糖と結びついて威力を増すのだという。納豆1パックに小さじ1杯入れたが、甘いというほどではない。

「粘りも、においも弱い」のは液状で納豆本来のにおいを和らげる調味料群、ビギナー向けだ。
納豆連合会によると、納豆のアルカリ性の臭気は、酢など酸性のものを加えると中和できるという。
また油分はにおいを包み込んで抑える。

合うのは同じ発酵食品の味噌やトウバンジャンだ。納豆の風味とケンカせず、ほどよくにおいを打ち消す。
発酵系のおかず、キムチや野沢菜などの漬物と一緒に食べたい。ただ、ポン酢やおろしニンニクは、
においが強すぎる。オリーブ油は味がイマイチだった。

次いで「粘りは強いが、においは弱い」グループ。粉末タイプで水分が減るためネバネバになるが、
調味料自体の強い香りが目立つものだ。ひと味違う納豆料理の創作派に向く食べ方といえるだろう。
この創作派グループの一押しはカレー粉。カレーライスに納豆を入れるとおいしいが、
ぴりっとした風味はパンに載せても酒のつまみにもいい。

最後の「粘り弱、におい強」はタレやしょうゆなどスタンダード。いろいろな味を試した後、
やはり安心感があり、最後に戻ってくるのはここだろう。

計29種類を試した中で一押しの「カレー粉入り」を納豆嫌いの編集委員(50)に味見してもらった。
眉間にしわを寄せながらも述べた感想は「嫌いな私でも少しは食べられるかな」。手応えを感じた。


$シロップ_821とそよ風の語らい

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