東日本大震災から1年が経った。マグニチュード9の激震は、「1000年に1度」とも言われる巨大な津波を引き起こし、東北地方の太平洋側を中心に広域にわたって甚大な被害をもたらした。津波による死者と行方不明者は約2万人に上る。
 今後も地震だけでも首都圏直下型地震や東海・東南海・南海の3連動地震といった大規模地震の発生が予想されているほか、洪水や台風、火山の噴火などの自 然災害や感染症のパンデミック(世界的大流行)、テロと、社会経済に深刻な影響を及ぼすリスクが日本には山積している。にもかかわらず、震災から時間が経 過するとともに、危機意識が薄らぐ傾向が見え始めている。
 今回の連載では、東日本大震災がこの国に突きつけた課題を受けて、防災やリスクマネジメントの専門家に、日本で起こり得る災害のリスク、そして社会や企業、個人の備えはどうあるべきかを聞く。
 今回に登場するのは、東京大学地震研究所地震予知研究センターの平田直・センター長・教授。同教授らの研究チームは3月7日、東京湾北部地震が起こった 場合、想定される地震動の強さは従来、想定されてきた震度6強よりも高い震度7になるという衝撃的な研究結果を発表した。
 想定が変わって地震のリスクに対する見方は変わるのか。そして、防災や減災のあり方も見直さなければならないのか。平田教授に持論を語ってもらった。
(取材構成は、家入龍太=フリーライター)
(前回の2つの大震災を合わせた被害をもたらす巨大地震が襲来するから読む)
 今の地震学では「地震がいつ起こるか」については分からない。しかし、「100年に1度」なのか、「10年に1度」なのかといった地震が起こる頻度につ いては分かってきた。例えば、首都を含めた南関東で言えば、「マグニチュード(M)7クラスの地震が、30年以内に起こる確率は70%」。これが、政府の地震調査研究推進本部という省庁横断組織の評価である。
 この確率を計算する基になったのは、南関東の約150キロメートル四方の地域で過去の起きた地震のデータだ。1894年の明治東京地震から1987年の 千葉県東方沖地震まで、M7クラスの地震が5回も起きている。これだけの規模の地震が狭い範囲で100年に5回も集中して発生しているわけだ。これは、世 界でもまれなことである。
南関東は世界でもまれな地震多発地帯
 もちろん、「10年以内は30%」とか、「20年以内は60%」とか、期間に応じていろいろな表現ができる。なぜ30年確率を代表的に使っているのかと言うと、人間のライフサイクルに合った期間だからだ。
 家を買ったら30年は住むだろう。これまでは就職したら30年は同じ会社に勤めることが多かった。このように同じ生活が30年間くらいは続くことが多いことに着目したわけだ。
 その間に南関東でM7クラスの地震が起こる確率が70%であれ、90%であれ、その数値の違いにはさほど意味はなく、「ほぼ確実に起こる」と考えていい。
M7クラスと言えば、阪神・淡路大震災を招いた1995年兵庫県南部地震と同じだ。もし、発生場所が首都圏の直下だとしたら、国の中央防災会議では最悪1万1000人の死者と112兆円の経済被害が出ると予想している。
 関東地方に住んでいる人たちは、揺れを体感する有感地震は何度も経験している半面、何となく自分の生きているうちは大きな地震は起こらないだろうと楽観 的に思い込んでいるところがある。しかし、過去の地震の歴史を振り返れば、たまたま起きていないだけで運がよかっただけなのだ。
 阪神・淡路大震災についても、それ以前には「関西では大地震はない」と思い込んでいる人が多かったが、それは地球科学的には全くの誤解だった。終戦時の 前後では東海・東南海地震や三河地震、福井地震などがあったが、それからたかだか50年間ほど被害地震が発生しなかっただけ。にもかかわらず、地方自治体 の防災専門家ですらも、関西では大地震は起こらないと考えているきらいがあった。
東京は繰り返し地震が起きてきた場所という認識を
 一方、東日本大震災を招いた東北地方太平洋沖地震の規模はM9だった。M9クラスの地震は、これまで日本の近くでは起きていなかったと思われていた。し かし改めて歴史を振り返ると、869年の貞観地震による津波以後、およそ600年間隔で4回ほど巨大津波が東北地方の太平洋沿岸を襲っていたことが判明し ている。
 同じようなことは関東や西南日本にも言える。西南日本では東海・東南海・南海地震が少なくとも紀元1世紀から繰り返し生じてきたことが分かっている。関 東でも大正時代の関東大震災を招いた大正関東地震や江戸時代の元禄地震など、M8クラスの地震が150~200年間隔くらいで起こっている。
 M7クラスの地震のエネルギーは、M9の1000分の1、M8の大正関東地震の30分の1にとどまる。そのM7クラスでも東京の都心の直下で起これば、阪神・淡路大震災を上回る被害が出るだろう。
 日本の経済、政治や文化の中心地である東京で生活する人は、これまで繰り返し地震が起きてきた場所であることを認識し、それに備えるべきだ。いろいろと 誤解があったかもしれないが、首都圏に震災のリスクが高まっているという我々の警告が、そういう意識を少しでも高めることができたなら、意味はあったと思 う。
 東日本大震災で岩手県の三陸海岸地方は大きな津波の被害を受けたが、明治時代の明治三陸津波に比べて津波の高さが高かったにもかかわらず、犠牲者の数は 少なかった。つまり、これまでの明治や昭和の三陸津波などの経験で、住宅の高台移転などの防災対策が効果を発揮したと言える。備えることは重要なのだ。
 ところで、これも多くの人が誤解しているが、東日本大震災はまだ続いている。というのは、今でも仮設住宅で不便な生活を余儀なくされている人が大勢いるし、この震災を招いた自然現象としての地震の影響が続いているからだ。
 人が感じない余震は毎日たくさん発生しており、有感地震も時折起こっている。余震域の外側にある日本列島の内陸部にも影響を及ぼし、地震や地殻変動を発生させている。
 東日本大震災を招いた東北地方太平洋沖地震を境に、以前は東西に縮んでいた日本列島が、逆に大きく伸びた。その傾向は現在も続いている。長い間蓄積され たひずみエネルギーが完全に放出されてすっきりとしたわけでなく、まだ解放されていないエネルギーが徐々に放出され続けているのだ。
 動きの量も地震前は1年に1~2センチメートルだったのが、今でも1カ月で1~2センチの状態が続いている。北関東では1カ月に1センチくらい、南関東 では5ミリくらい伸び続けている。いまだに震災前の10倍近いスピードなのだ。そのために小さな地震が多く起こっている。
 こうした中、南関東では余震ではないが、日本列島の力のバランスが変わった結果、震災直後の半年間でM3~6クラスの地震が以前の6~7倍、それ以降も 3~4倍の頻度で起こっている。M7クラスが起こる頻度もそれだけ増える。いつ、起こってもおかしくないと我々は考えている。
木造家屋の耐震化で犠牲者を確実に減らせる
 我々の研究で、首都直下の地震の震源地となりうるフィリピン海プレート上面の深さがこれまでの想定よりも10キロくらい浅いことが分かり、想定される最大震度も6強から7へと変わった。ただし、これは最悪のシナリオとして出てきたものだ。
 震度6強でも立っていられないくらいの揺れであり、耐震化されていない建物は倒壊してしまう。1981年の新耐震設計基準が採用されて以降の建物は、人が亡くなるほどの壊れ方はしないだろう。

 これまで死者1万1000人、経済損失112兆円とされてきた想定は見直す必要があるかもしれないが、被害の大きさが従来の想定の何倍にもなることはないだろう。もともと、大きな被害が予測されているのだ。その備えを一刻も早く実行することが求められる。
 もっとも、防災や減災のメニューは既に出揃っている。見直すものは少ないかもしれない。例えば、首都圏には古い木造家屋が密集しているところがある。これらの家屋を耐震化、不燃化するだけで、死者の数は確実に減る。
 阪神・淡路大震災では、死者の85%は倒壊した建物による圧死だったが、耐震化された木造住宅は無事だった。これまで言われてきたような対策を、自分自身の問題としてしっかりやることが重要である。
家入 龍太(いえいり・りょうた)
建設ITジャーナリスト。京都大学大学院で耐震工学を研究し、日本鋼管(現・JFEホールディングス)で地震時の地盤液状化対策などに従事。




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