海外メーカーが続々と日本にスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)を投入するなか、
日本メーカーもスマホの海外展開に本腰を入れ始めている。日本の電気製品をけん引してきた
パナソニックとソニーでは、傘下のパナソニックモバイルコミュニケーションズとソニー
モバイルコミュニケーションズ(日本法人はソニー・エリクソン・モバイルコミュニケー
ションズから3月8日に社名変更)が海外展開を担う。両社の幹部が語る今後の方針からは、
「グループ力」という共通項が浮かび上がってきた。両社が言うグループ力とはいったい
どのようなものなのか。

■欧州から海外を攻めるパナソニック

パナソニックモバイルは海外展開にあたり、スマホのブランドを「ELUGA(エルーガ)」に
決定し、防水と薄型の端末で勝負を挑む。海外展開でまずターゲットにしたのが欧州市場だ。
シャープが中国、NECカシオモバイルコミュニケーションズが米国を狙うなか、なぜ欧州に
設定したのか。パナソニックモバイルで海外戦略を担当する板倉太郎取締役は、「かつてGSM
端末を投入していた頃のつながりがわずかながら残っているところがある。そこから交渉を
始めている」と背景を語る。

パナソニックモバイルはかつて欧州や中国でGSM端末を販売していた。成績不振で撤退を
余儀なくされたが、再参入にあたってそのころのつながりを足がかりにしていく。ただし
海外メーカーとの競争で戦えるように、生産や流通では過去とは違った体制を組んでいる。

過去に海外展開していた時には、独自で中国やフィリピンなどに生産拠点を設けていたが、
今回は、「早期に円滑に海外進出を進めるために、グループ内で持つマレーシア工場を活用する。
不退転のつもりでやり直すつもり」(板倉氏)という。パナソニックモバイル単独ではなく、
パナソニックグループ内のコードレステレホンなどを通信事業者に納入している会社のインフラ
やマーケティング力、流通網を最大限に活用していく方針だ。

日本メーカーが海外進出する際に、製造を海外のメーカーに委託する「ODM(相手先ブランド
による設計・生産)」というやり方で、コスト競争力をつけたうえで世界に進出するといった
手法もある。実際にパナソニックモバイルでも、NTTドコモ向け「P-01D」ではODMを
使って製造を行っていた。

しかし、今回の世界進出第1弾となる「ELUGA」と、第2弾となる予定の「ELUGA 
POWER」はグループ内のマレーシア工場で生産する。その理由を板倉氏は「まずはスマホ
メーカーとしてのブランド価値を高めるため、最初の数モデルは自社開発、生産でやっていく。
世界的にパナソニックとELUGAが認知されればODMもあり得る」と説明する。

■ドイツで企画した端末を日本に逆輸入

日本メーカーが海外に進出するときには、日本向け商品の機能の一部を削って海外に持って
行くのがよくあるパターンだ。しかしパナソニックは「原則、グローバル向けに開発している。
(国内向けの流用では)海外での競争力が落ちてしまう」
ELUGAによく似たデザインのスマホは、日本ではNTTドコモ向けに「P-04D」
「ディズニーモバイル オンドコモP-05D」を、ソフトバンクモバイル向けに
「102P」を納入している。実はこれらはNFC(Near Field Commu
nications)対応の海外向け製品を、国内で普及している「FeliCa」に
載せ替えて日本向けに流用したものだ。「商品企画部隊をドイツに置いている。現地から
発信された企画で開発を進めている」(板倉氏)。グローバル端末を日本対応にするため
手を加えて、日本に逆輸入している格好だ。

かつて、背面がデジタルカメラそっくりのデザインとなる「ルミックスフォン」を欧州の
携帯電話会社の関係者に見せたときに、「我々はデジカメで電話したいとは思わない」と
酷評されたという。欧州市場に合うデザイン、本体カラーなどがあるため、欧州にターゲット
を絞った商品展開を進め、可能なものは日本にも導入する流れにしたようだ。

日本メーカーが海外に進出しようとすると、どうしても「防水、薄型」という技術力を
生かした商品訴求をしがちだ。このあたりはNECカシオとかぶるところが多い。
その点でパナソニックは、他の日本メーカーとの差異化のポイントに「グループ力」を掲げる。

「パナソニックグループは商品の幅が広く、多くのビジネスチャネルを持っている。
それぞれの業界に特化したアプリケーションやコンテンツを提供することで、(他社と)
差異化できるのではないか」(板倉氏)。流通業界や医療業界などとつながりのある
グループ会社と協力し、それぞれの法人の需要に見合ったアプリやソリューションを
組み合わせて展開するという方向性を模索する。

グループ力で他社を寄せ付けない強みを持つパナソニックならではの優位点だが、その一方で
グループが大きすぎる心配点もある。例えばこれからマイクロソフトが「Windows 8」
を出荷し、同OSをベースとしたタブレットが出てくれば、ノートパソコン部門は「レット
ノートタブレット」を積極的に売るだろう。将来、仮にパナソニックモバイルがタブレット
端末を扱うことがあれば、グループ内での衝突も予想される。

パナソニックに限らず、Windowsがパソコンにもタブレットにも対応すると、ノート
パソコンとスマホの両方の事業を抱えるメーカーは、扱いのバランスに悩むはずだ。
「そのあたりはグループ内で意見統一していきたい。バラバラに開発するのではなく、
全社で協力して効率的に開発を進めないといけないだろう」(板倉氏)

■スマホでもソニーらしさを訴える

ソニーも「グループ力」を試されようとしている。2月末にスペイン・バルセロナであった
「Mobile World Congress(MWC) 2012」に合わせて開催した
記者会見には、次期社長兼最高経営責任者(CEO)の平井一夫氏が登壇。ソニー・エリクソン
・モバイルコミュニケーションズを完全子会社化して、これからは「One Sony」として
勝負していくと公言した。

発表済みのフラッグシップモデルである「Xperia S(日本ではXperia NX)」
に加え、バルセロナでは「同P」と「同U」という新商品2機種を発表。これら3機種だけでなく、
米国向けにはLTE対応の「同ion」、日本向けには日本特有機能に対応した「同acro 
HD」を展開していく。
マホの大画面競争が過熱していくなか、ソニーモバイルは「S」をフラグシップとして
位置づけつつ、「ボリュームゾーンが狙えるハイエンド」として「P」を持ってきた。
さらに女性でも手に取りやすいサイズ感を実現したのが3.5インチの「U」というわけだ。
「我々のスマホも3周目に入ってきた。これらの製品が我々の次のステップであることが、
一番のメッセージ」(ソニーモバイルコミュニケーションズのHead of Product 
portfolio大澤斉氏)

ソニー・エリクソンからソニーモバイルに生まれ変わり、新しいXperiaシリーズからは
「ソニー」の社名ロゴを冠したスマホとする(ただし日本などは例外)。日本では「ソニー
・エリクソン=ソニー」という印象が強いが、海外でソニー・エリクソンとソニーは全く別の
イメージで浸透してきた。

そのため今後は、世界的にスマホでソニーらしさを訴求することが課題となってくる。
「ソニー・エリクソンからソニーモバイルにどう変わっていくかが求められている。
そんななか新製品のメッセージとして出したかったのが、ソニーが掲げてきたエンター
テインメント体験と、最善なスマホのデザインを提供することだった」(大澤氏)

基本的なコンセプトは従来と変わらないものの、過去のくぼみの曲面を強調したデザインから、
今回のシリーズでは丸みの曲面が印象的なデザインに仕上がっているなどの変更点がある。

■グループ内で「ユーザー体験」を統合

グーグルのOS「アンドロイド(Android)」を搭載したスマホは、画面サイズや
チップセットなどスペック競争が過熱しすぎて、メーカーは個性を発揮しにくくなりつつある。
そんななか、ソニーとして他社と差異化できるカギはやはりグループ力となる。

これまでは同じグループでも「遠慮」のようなものがあり、コンテンツ面などでの連携が
取れていなかった面もあるが、これからはソニーとしてスマホを舞台に戦うことになる。
「ソニーが持っているコンテンツ、サービス、デバイスが融合したものを消費者に届けられる
という期待を持っている。単なる(スマホという)『もの』を消費者に届けるではなく、
『体験』を届ける戦いに変わっていくはずだ」(大澤氏)

これまでソニー・エリクソンはソニーのコンテンツを「使わせてもらう」という感じだったが、
これからはソニーが主体となりスマホにコンテンツを積極的に押し出していく。これまでスマホ、
タブレット、アンドロイドをベースにしたウォークマンは、それぞれ異なった操作性になって
いたが、それもソニー一丸で改善していく。

「昨年から統合ユーザーエクスペリエンスの部署が立ち上がり、平井(次期社長)だけでなく
幹部が参画して議論をしている。いままでの反省を含めて、次は何を統合すべきかを話し合って
いる。そのアウトプットが今年中には出てくるのではないか」(大澤氏)

スマホユーザーが広がり、生活の中心にスマホが位置づけられるようになると、おそらくテレビ
やパソコンの役割も変わってくる。ソニーにとってはスマホのXperiaを普及させることが、
復活の近道のようにも感じられる。その環境をうまく作り出せるかどうかが、グループの頂点に
立つ平井次期社長には求められるだろう。


$シロップ_821とそよ風の語らい