左右の脳が抑制し合う神経回路メカニズムを解明
-最新の研究手法で半世紀の謎がついに明らかに-

右手でボールを触ったのに、左手で触ったと感じては困ります。
このような困ったことにならないために左右の脳が抑制し合う「半球間抑制」という神経現象があります。
これは、1962年に日本の生理学者らが世界に先駆けて発見したものでした。
しかし、秒進分歩といわれる科学の世界でも、それを確認する手法が確立されず、
高精度な測定装置もなく、詳細なメカニズムは解明されないままでした。

私たちの体では、右半身の感覚情報は左大脳半球の新皮質に、左半身の感覚情報は右大脳半球の新皮質に伝えられます。
左右の大脳新皮質は脳梁とよばれる情報の道でつながり、情報のやり取りをしながら巧みに混乱を防いでいます。
もし、両方の大脳が同じように手や足の感覚を受け取ってしまったら、とてもスムーズに動けません。
つまり、左右どちらかの大脳が遠慮して「どうぞ」と道を譲るわけです。よくできていますね。

脳科学総合研究センターの若手研究者がこの謎解きに挑戦しました。
より自然な神経活動を観察するためラットを生きたままの状態にして独自の実験装置や
手法も駆使し多角的に検証しました。その結果、一方の大脳新皮質に情報が届くと、
興奮性の情報が脳梁を通ってもう一方の大脳新皮質に伝わり、その表層に存在する
抑制性の神経細胞を活性化して抑制性神経伝達物質(GABA)を放出します。
GABAは大脳新皮質の5層錐体細胞の樹状突起に作用して神経活動が抑制される-という
一連の流れを神経細胞レベルで解き明かしました。

今回の研究成果は、左右の脳の情報のやり取りの仕組み解明に道筋をつけたもので、
脳の障害による運動や感覚のまひ、言語障害などのリハビリテーション医学分野へ
基礎的な知見を示せると期待できます。また、独自に開発した研究手法は、これまで
できなかった複雑な神経細胞の活動の観察を可能にするもので、単一神経細胞レベル、
あるいはネットワークレベルでの観察ができるようになります。

しかし、どうして左手の情報が右の大脳半球へ行くのでしょうか?不思議です。

[発表者]
脳科学総合研究センター 行動神経生理学研究チーム 村山正宜チームリーダー