毎日毎日、借金の話ばかり。かと思えば、大企業が次々に1万人規模のリストラ。カネもなければ、仕事もない。これが会社なら、
とっくに倒産だろう。ギリシャやイタリアの危機は対岸の火事ではない。残された時間は少ない。なんとかしなければ。
31年ぶりの貿易赤字に転落――1月25日、財務省は昨年1年間の日本の貿易収支が約2兆4900億円の赤字になったことを
発表した。資源にも国土にも恵まれない日本はいままで外国に商品やサービスを売りまくることで生き延びてきたが、「貿易立国」の座
から滑り落ちたことが明らかになった。
1月18日、韓国・ソウル市内に立つシェラトンウォーカーヒルホテルにトヨタ自動車の豊田章男社長が同社の戦略車「カムリ」で
乗りつけると、現場は沸いた。ホテルでは新型カムリの発表会が開催されていた。
韓国紙・中央日報によれば現地では豊田社長の登場が知らされていなかったという。「巨艦」トップのサプライズ訪韓――その背後
に「章男社長の焦りを感じる」というのは全国紙経済部記者だ。
「韓国での成否が、今後のトヨタを占う試金石になるからだ。カムリは米国で毎年30万台も売れる超人気車種。実は韓国で販売
する新型カムリは日本ではなく、米国工場で生産したものを輸出する。米国産カムリを海外で販売する最初のケースで、円高の直撃
を避ける狙いがあるのだが、これが失敗すればトヨタの海外戦略がつまずく可能性も否定できない。それだけに、章男社長は力が
入っていたのだろう」
経営者の顔に焦りが滲む。それはトヨタに限った話ではない。
1月初旬、米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)では、サムスンやLGが
液晶の「次」として期待されていた有機ELの55型テレビを年内に発売すると発表し、世界中のメディアのまばゆいフラッシュを浴びた。
日本メーカーの技術者も、「画像の美しさに圧倒された」と驚きを隠さなかった。中国勢の台頭も目覚ましく、ハイセンスなど家電大手
がインターネットに繋いで楽しめるスマートテレビを展示し、話題をさらった。
パナソニックの大坪文雄社長は同会場で「(有機ELテレビの発売を)2015年より早い段階にする」と語ったが、それは「後塵を拝した
日本勢の苦しい前倒し策に過ぎない」(電機業界担当の証券アナリスト)とみられた。
「同会場に現れたサムスン会長の李健熙氏に『先に進んだ国だと思っていたが、日本は少し力が落ちたようだ』と揶揄されたが、
返す言葉もないのが今の日本の実情だ」(前出・経済部記者)
■トヨタもソニーも格下げ
元サムスン電子常務で現在は東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員の吉川良三氏もこう言う。
「日本の経営者はこの期に及んで、まだ技術力があるからなんとかなると楽観しているからどうしようもない。経営の失敗を円高の
せいにする経営者も多いが、韓国企業もウォン安で電子部品などの輸入品価格が急上昇し、コスト高に悩んでいるのだから、
状況は同じと考えるべきです。
それに日本が誇っていた生産性にしても、韓国勢に大きく後れをとっている。特にトヨタが生み出した『カンバン方式』を後生大事に
しているが、この手段は今日のグローバル化時代においてはうまく適応できていない。韓国勢は日本のカンバン方式をIT技術を使って
生産過程にとりこみ、日本より効率良く、高い生産性でモノを作れるようになっている。お客が欲しいものをすぐに手元に運べるという
技術優位性ですでに日本は負けている」
かつて日本の輸出を牽引してきたトヨタ、パナソニック、ソニーといった大手自動車・電機メーカーが、いまや国際競争で苦戦を
強いられている。ウォークマン、斜めドラム式洗濯機、プリウスといった世界中で人々が買いに殺到していたヒット商品を、日本企業が
作れなくなって久しい。カルフォルニア大学教授のスティーブン・ヴォーゲル氏が言う。
「サムスンやLGといった韓国企業は日本に比べて国内市場が半分しかないので、世界に打って出るしか生き残る道はないという
覚悟を持って、官民一体となって早くから大胆な世界戦略に手をつけてきた。国内市場が小さいフィンランドも同じで、そこから携帯
大手ノキアなどの成功が生まれた。
対照的に日本企業は国内市場にばかり目を向けて、せっかくの技術力を活かしてこなかった。特に日本企業は半導体、ソーラー
パネル、リチウムイオン電池などの先端分野で有望な商品群を抱えていたが、巨大な国内市場があることに安心し、規制緩和や
大規模投資を怠ったことで、他国のメーカーに先を行かれてしまった」
堕ちた日本企業を、マーケットも冷酷に査定し始めた。1月19日、格付投資情報センターがトヨタ自動車を最上級のトリプルAから
引き下げる方向で見直すと発表して、市場関係者を驚かせたのもつかの間。その翌日には米格付け会社ムーディーズ・ジャパンが
ソニー、そしてパナソニック両社の格下げを発表し、日本企業が“格下げラッシュ”にあったのだ。
「ムーディーズによるソニーの格下げ理由を見ると、『同社の計画通りに2014年3月期までにテレビ事業を黒字化するのは難しい』
『拡大が続くスマートフォン市場におけるソニーの競争力は(中略)依然として弱い状態が続くと考えられている』などと書かれている。
パナソニックやトヨタについても同じく辛辣な言葉が並ぶが、こうした厳しい意見こそがいま、世界の共通見解となっている」
(ビジネス・ブレークスルー大学教授の田代秀敏氏)
■「新興衰退国」とバカにされて
日本企業の「終わりの始まり」に、世界は数年前から気づいていた。知らなかったのは日本人だけで、それがいま、「貿易赤字
ショック」に端を発して、やっと日本人の目に見える形で現れてきたのだ。
「一部の欧州メディアでは数年前から、日本を表現するにあたって『新興衰退国』なる言葉が使われている。世界の企業経営者を
対象とする弊社の調査でも、直接投資先としての日本の魅力度は世界で21位。世界3位の経済規模を考えると、極めて低い
評価だ。さらに前年度との変化でも、日本の魅力度が下がったと見る企業の方が多い」(米系大手コンサルティング会社A・T・
カーニー日本代表の梅澤高明氏)
日本の経営トップたちが「円高だから」「法人税が高い」と言い訳を並べている間に、世界はどんどん先に行っている。これでは
日本企業が浮上できるはずもない。
もちろん挽回のチャンスはあった。それをみすみす逃してきたことに、いまの「敗北」の原因がある。流通科学大学学長の石井淳蔵氏
が言う。
「日本企業に必要だったのは大胆な『業態転換』と『経営トップの変革』だが、これができなかった。参考になるのは米IBMで、
“お家芸”となるコンピューター事業を捨て、システム構築やコンサル業に切り替えて生き残った。これを主導したのがまったく別業界、
ビスケットを作るRJRナビスコから来たルイス・ガースナーという人物だった。
日本の電機メーカーも、テレビなどハード単品を売るのをやめて、システム主導の会社に生まれ変わるべきだったし、外から優秀な
経営者を呼んできて、『人は組織を超えられず、組織は業界を超えられず』の限界に挑戦すべきだった」
(中略)
韓国、中国と競り合って、「量」を追っても勝ち目はない。日本にしか作れない画期的な「質」を伴う製品を生み出すか、劇的な
業態転換を果たせなければ、その企業の先行きは暗い。それは、かつて世界に名を馳せた一流メーカーとて例外ではない。
全文は「週刊現代」誌面でご確認下さい。
