野田佳彦首相が11月11日夜、首相官邸で記者会見し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加の方針を明らかにした。
また日本時間の14日朝、米国ハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPP交渉参加を表明した。

日本の参加表明で他の国々も動き、タイミングはよかった
官邸での記者会見で野田首相は「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」というややこしい表現を使ったが、
日本がTPP交渉に参加することを決めたのは大変よいことだと思う。
反対派は、TPP交渉参加国はアメリカ、オーストラリアを除けば小さな国ばかりで貿易拡大のメリットが少ないというような反対理由を述べている。
しかし、日本の交渉参加表明に続いてカナダ、メキシコも参加を表明したことにより、
TPPは世界の国内総生産(GDP)の40%をカバーする規模に拡大する可能性がある。
タイミングから言えば、日本の参加表明によって他の国々が動いたことになり、よかったのではないか。
それにしても野田首相の国会での答弁は歯切れが悪い。

野田首相の歯切れの悪さは党内反対派への配慮
15日の参院予算委員会で自民党の山本一太氏が「交渉に参加しない選択肢もあるのか」と迫ったのに対して、
「国益を損ねてまで交渉に参加することはない」と言ったり、「協議に入ることと交渉参加を前提としないというのは矛盾しない」と言ったりして、
山本氏から「二枚舌外交だ」と突っ込まれる場面もあった。
野田首相のこれらの発言はもっぱら党内の反対派を意識したものだ。
山田正彦前農水相や鹿野道彦農水相など「TPP慎重派」と称する反対派への配慮があるために、歯切れが悪くなっているのである。
今回のTPP交渉参加をめぐる問題の中で、その存在理由がなくなったのが自民党である。
なぜ、あれほど反対するのか。自民党の国会議員201人のうち、166人以上が反対にまわり、結局、党として反対の立場をとった。
「自民党って一体何だ?」と問いたい。

党利党略ばかりの自民党、その存在意義はない
いやしくも、長期にわたって政権の座にあった自民党が党利党略のみで動いている。
民主党に対して、ただ「反対」と言うだけである。
与党に「反対、反対」としか言わないのなら、共産党と同じではないか。自民党の存在意義はない。
自民党の反対派の中には「TPP参加は時期尚早である」と言う議員もいるが、「では、いつならよいのか」と聞きたい。
時期尚早とは、反対のための弁解に過ぎない。
先日、自民党三役の一人に「私のテレビ番組に出てほしい」と頼んだ。
出演を承諾してくれたため、テーマはTPPであると伝え、「あなたはTPPに賛成でしょう」「そうだ」、「では、番組で賛成意見を言ってくれ」と話を進めると、
「いや田原さん、それは無理だ」と断った。
彼はこんなことを言っていた。
「TPP賛成と言ったとたんに、自民党内で袋叩きにあう。番組で賛成と言うのは無理だ」
私は何人かの自民党議員に聞いてみたが、ほとんどが「自民党内で賛成とは、とても言えない」と語っていた。
つまり自民党は国益ではなく、単に党利党略だけを考えているのである。
そんな体たらくだから、自民党の存在意義は失われた、と言うのである。
若い世代に「TPP反対」の声が多いのはなぜか
14日夜、文化放送の番組「田原総一朗オフレコ!スペシャル」(テーマはTPP)で大田弘子さん(政策研究大学院大学副学長)をゲストに招き、TPPについて話し合った。
大田さんはTPP賛成派である。
番組はニコニコ生放送でも同時放送され、同生放送で「TPPに賛成か、反対か」のアンケート調査を行った。
驚いたことに、その結果は、反対が74%にも上り、賛成はわずか26%だった。圧倒的に反対意見が多い。
日本経済新聞の世論調査(10月28~30実施)によると、TPPに「参加すべきだ」が45%、「すべきでない」が32%。
朝日新聞の世論調査(11月12、13日実施)でも「賛成」46%、「反対」28%となり、賛成派のほうが上回っている。
ニコニコ生放送の調査回答者はインターネットの利用者で、若者が多い。
私は、「大人が決めることはよくないこと」という若者たちの反体制の声ではないかと思っている。

若者のTPP反対は裕福な年寄り世代へのアンチテーゼ
チュニジアやエジプト、リビアで独裁政権を倒す革命が起きた。
米ニューヨークのウォール街で始まった反格差デモがアメリカ各地、世界へと広がった。
こうした革命や反格差デモの中心に若者の存在があり、それと同じように、若い世代の「TPP反対」は現体制を作り上げてきた年寄り世代へのアンチテーゼではないか。
「年寄り世代が富を独占し、若い自分たちには何もない。就職すらできない」という反発が、アンケート結果に表れているのではないかと思う。
15~24歳の若年層の失業率は世界的に高い。ユーロ圏で約20%、ギリシャやスペインでは40%を超える。
アメリカでも約18%に上り、いずれの国でも若年層の失業率は全体の2倍以上に達している。
日本でも完全失業率は全体の4.1%に対して若年層は7.2%と高い(総務省統計局「労働力調査」平成23年9月分より)。
若い人たちを「TPPとは何か、よくわかっていないくせに」と批判することは簡単だ。
しかし、若い世代が「TPP反対」で大多数を占めるのは、実は深刻な現象なのである。
私はここに「尊皇攘夷」を見る。
開国を迫る外国人を排撃する幕末の思想だが、内にこもり、国際化から目を背ける現在の若者の姿勢は「尊皇攘夷」に似ているからだ。

条件闘争をにらんで反対する農業団体
前回の本連載「日本は戦略的にTPPや『ASEAN+6』を議論せよ」でも述べたが、日本の農業は、TPPに参加しようがしまいが、その将来が見えない。
農業就業者の高齢化が年々進み、その平均年齢は2009年で65.3歳、2010年には65.8歳となり、企業の定年よりも6歳も上回っている。
あと何年かすれば70歳を超えるような事態になり、農業は崩壊に追い込まれる。それは日本の農業に魅力がなく、若い後継者が出てこないからだ。
今こそ農業改革が必要であり、その意味ではTPP交渉参加は農業にとってよい機会になるかもしれない。にもかかわらず、農業団体は「反対、反対」の大合唱である。
しかし、農業団体の本音は反対ではない。確かに、関税が撤廃されれば海外から農産物がたくさん入ってくるだろう。日本の農業は当然、ダメージを受ける。
それに対して反対と言いつつ、実は「いくら補償金を出してくれるのか」という条件闘争に入っているのである。
2011年度の第4次補正予算では、農業対策費が組み込まれることがほぼ決まっており、その金額をめぐってのやり取りなのである。
こうした流れの中で、TPP交渉参加に反対する農業団体の動きと、若い世代の強烈な反対が私には大変気になる。