「ヨーロッパがはじければ、アメリカに火の粉が飛ぶ。アメリカがダメになれば次は中国だ。いまは1930年代に似ているな。何が起きるか?戦争だよ」
「金融庁の官僚に、『数ヵ月で1ドル=100円台に暴落することもあるから気をつけろ』って言っておいた。役人は『まさか』って言ってたけど、『お前らは甘い』って言ってやったよ。メガバンクが2、3行潰れるかも知れんぞ!」
民主党の仙谷由人政調会長代行はオフレコで、世界経済の先行きについてこう言った。陰の総理が放った恐るべき予言。これが現実となるかのように、ギリシャの財政問題を契機に広まる欧州経済危機は、日に日に深刻さを増している。
10月に入るとついにフランス・ベルギー系銀行のデクシアが破綻、「第2のリーマンショックが幕を開ける」と世界中が震え上がった。デクシアは資産規模が欧州銀行の中でトップ20に入る大手行。ギリシャという小国の問題が、巨大金融機関が潰れる金融危機に発展し、欧州危機は第2ステージの危険水域に入った。
「ギリシャだけでなく、ポルトガル、スペイン、イタリアといった南欧諸国の国債が市場から危険視され始めた。これを大量に保有する欧銀の株が売り浴びせられ、安値に落ち込んでいる。欧銀はズルズルと危機の底へ突き落とされる、歯止めがきかない隘路に入り込んだ。デクシアより危険だと思われていた銀行はたくさんあり、いつ倒れてもおかしくない。今回の破綻劇はほんの序章に過ぎない」(欧州政府関係者)
EUでは銀行破綻を回避するため、銀行の安全性を調べるストレステストを実施。今年7月に8行が不合格とされていた一方で、デクシアは合格の太鼓判を受けていた。合格行でも破綻する---となれば他行はもっと危ないのではとマーケットは疑念を深めている。そしてヘッジファンドなどの投機筋は「第2のデクシア」探しをスタート、すでにいくつもの会社が名指しされ始めているのだ。
これまで「ユーロ」という幻想で覆い隠されていた欧州経済の実態は相当に傷んでいる。最たるものがユーロ危機の発端を作ったギリシャにほかならない。その惨状を見てみよう---。
ギリシャ・アテネ空港を降りると、異様な光景が目に入ってくる。
空港近くに立ち並ぶのは大豪邸ばかり。空港から中心街に移動すれば、走っているのはベンツ、BMWなどの高級車が目立つ。財政破綻寸前の国で、どうしてこんなリッチな生活が可能なのか。
理由は簡単。ギリシャでは税金を納めない〝脱税者〟がとてつもなく多いからだ。政府は厳しく取り締まる方針を打ち出しているが、「税務署や税関の職員もストをやっている」(在ギリシャの日本人駐在員)。集める側も払う側も〝機能不全〟に陥っている。
アテネ市内に入ると、別の〝活況〟が見られる。
議会や財務省は抗議行動をしている人たちで賑わい、中にはテントを張って泊まり込んでいる者もいる。財政緊縮策の煽りを受ける公務員労組が主導、年金カットに反対する年金受給者らも加わって、デモやストが頻発している。
公共交通機関の従業員、タクシー業界を規制緩和する法案に反対しているドライバーによるストも発生、おかげで交通はマヒ。EUとIMF(国際通貨基金)の調査団が財政再建の進捗具合を見極めるためにアテネ入りした際は、協議会場である財務省を公務員労組が封鎖する暴挙もあった。
さらに「デモやストライキの動きがぱたりと止まった時があったが、それは7月の夏休みのシーズンだった。休みはきっちりとってバカンスに出かけ、休みが終われば再びストを始める」(同前)という。ろくに働きもしないのに国民は税を納めることを拒否、さらにデモやストで〝利権〟を守ろうと必死になっているということ。こんな国がもつはずがない。
実は、ヨーロッパにはギリシャと同じような国がたくさんある。
たとえばスペイン。目下、若年層の失業率が50%近い大不況にある。失業者は当然のように税金をほとんど納めない一方、失業保険の支払いが増えるので財政は逼迫。すでにカハと呼ばれる貯蓄銀行が経営破綻した上、公的管理下に置かれる地域金融機関も出ている。
「スペインはセスナ機しか離発着しないような空港周辺の土地を開発するなど不動産バブルが沸騰。すでにバブルは崩壊したが、後始末ができていない。不動産の担保価値が下がり続け、銀行の不良債権がいまも膨らみ続けている」(経済評論家の山崎元氏)
累積債務が雪だるま式に膨れ上がっているイタリアでは、財政緊縮策に反対する人々がゼネストを実行するなど〝ギリシャ化〟が目下進行中。財政赤字の額に算入漏れがあったことを発表したポルトガルは、「財政統計に間違いがあった」として危機に陥ったギリシャの〝来た道〟をそっくりそのまま歩いている。
「イタリアの産業はブランド品にしても車にしても高付加価値製品が多い。そのため経済の裾野が狭く、成長性にも乏しい。'80年代の最悪期は脱したものの、まだ債務残高は多く、財政赤字が問題になるときにはいつも名が挙がってしまう。ポルトガルも観光以外に核になる産業がなく、リーマンショックのずっと前からすでに財政状況は悪く、良くなるという見通しもない」(みずほ総研シニアエコノミストの山本康雄氏)
ユーロという傘の下に入ることで得た大量のカネを無駄な公共事業や中身のない不動産投資に使い荒らし、バブルを演出。挙げ句の果てに自国が危なくなれば、ドイツ、フランスなどに泣きつく。
「ユーロの二大大国」はとんでもない重荷を背負ったとほとほと後悔していることだろう。
「そもそもユーロ圏の問題は、通貨だけ統合して財政を統合しないという中途半端な状態できたことの弊害が吹き出しているもの。ドイツはマルク時代より安いユーロを武器に経済を拡大できたが、ギリシャは通貨が高くなったため落ち込んだ。こうした格差を是正するには財政も一体化する必要があるが、それができていない。結果的にギリシャのような経済弱者国は財政が立ち行かなくなるのは当然だ。ユーロ内の財政の一体化など抜本的な手を打たない限り、ギリシャの財政問題は収まらず、いずれユーロは崩壊の道を突き進むしかない」(富士通総研上席主任研究員の米山秀隆氏)
2000年代初頭、国際機関や政策当局者らの間で「ユーロ化」というテーマが活発に議論されていた時期がある。ユーロ化とは新興国が弱い自国通貨を捨てて、信用力の高いユーロを自国の法定通貨として利用すること。ユーロ諸国との交易が急増していた中東諸国を中心に語られ、中にはロシアや中国も含めてユーロ・シフトが起こる可能性を指摘する専門家もいた。それほど「ユーロの力」を信じている国が多かったということだ。
あれから約10年。中東諸国はユーロ化などかつてのこと、オイルマネーの力で世界を席巻、産油国圏での共通通貨を模索し始めている。同じく中国も自国通貨・元が米ドルに代わる世界の基軸通貨として期待されるほどの経済大国に成り上がった。通貨の力は国家の力そのもの。ユーロは世界で最も危険な通貨に堕ちた。
とはいえユーロ崩壊だけは避けたいのが各国のホンネ。〝問題児〟を見捨てれば、火の粉が自らに降りかかってくるからだ。各国は総動員で必死の手当てを続けているが、ここに「民意」という大敵が立ちはだかる。
「50代から年金をもらえるギリシャを、60代からしかもらえないドイツの税金で助けるのは納得できない」
「働かない国のやつらのために、真面目に働いている国の税金を投入するのはおかしい」
支援策をめぐる議会が開かれるたび、〝優等生〟国家の国民はこうした声を張り上げる。現にスロバキアではEFSF(欧州金融安定基金)拡充策が議会でいったん否決される事態も起きた(その後、与野党合意)。ドイツでもメルケル首相が国内世論をどう納得させるか〝綱渡り〟を続けている。
日米の例を見ればわかるとおり、不良債権を処理するには結局、巨額の財政出動しかない。いまのところどうにか手当てはできているが、それが一瞬でも遅れれば、アリの一穴からマーケットに食い破られる。そのトリガーを引くのは世論の反発なのか、議会の紛糾なのか。いずれも「明日起こるかもしれない」事態であることに違いはない。
仮に欧州の銀行、国家が破綻すれば食い止める力があるのは米国しかないが、その惨状も極まっている。
米国の中心街ではかつてない「新現象」が起きている。ニューヨークの一等地に続々と開店しているのは激安店。「99セントピザ」が流行し、「1ドル均一ショップ」が大繁盛している。リーマンショック前にはクレジットカードで手当たり次第に買い物していた米国人が、今では8割が1ドルショップを利用している。
スーパーに行けば、ストアブランドがずらりと並ぶ。日本でいう低価格が売りの「プライベートブランド」のこと。売り場を見れば2ドル程度で売られる『デルモンテ』の缶詰は余っている一方、1ドル30セントほどのストアブランドは売りきれてなくなっていた。
「先日ソーホーに行ったら、日本のユニクロが大繁盛、6ドルほどのTシャツやブラウスが飛ぶように売れていた。高級ブランドの並ぶ5番街にあるユニクロも同じく活況な一方でこれまで中流階級が殺到していた『アルマーニエクスチェンジ』は閑古鳥だった。120ドルするジャケットは売れなくなっている。数年前まで日曜日に行くと並ばないと買えないブランドだったんですが」(在米ジャーナリストの肥田美佐子氏)
米国の不況は歯止めがきかず、底なし沼に沈むようにズルズルと悪化の一途をたどっている。その実態を紹介しよう。
●米国では99週間以上失業し、失業保険をもらえない状態になっている人が「99ers」と呼ばれている。米国労働省の調べでは200万人以上が99ers。しかも現在21の州で99週間まで失業保険が出ているが、来年からは議会が動かない限り、その期間は26週間となるためこれからさらに追い込まれる人が急増する。
●米国国勢調査の最新データで、首都ワシントンDCがあるコロンビア特別区の貧困率が19・9%とミシシッピ、ルイジアナに次いで高いことがわかった。11万人が貧困ライン以下の生活を送っており、子供の貧困率は30・4%とミシシッピに次いで高い。米国の首都が発展途上国状態だ。
●ディープ・ポバティー(超貧困)の問題も深刻。センター・オン・バジェット・アンド・ポリシー・プライオリティーズの国勢調査では、米国の39州とコロンビア地区で、この4年の間に超貧困が急増。彼らは貧困線の半分以下の収入で暮らしている。2010年は米国人の6・7%が超貧困で、これは政府が1975年に調査を開始して以来最悪となった。子供に限れば10人に一人が超貧困状態だ。
さらにウォール街を中心にデモが頻発、貧困層を中心に不満が爆発寸前に高まっている。
「デモの参加者の多くはリーマンショック後に失業した人たち。公的資金で助けてもらったウォール街の金融マンが相変わらずすごい報酬をもらっていることへの不満が噴出している。こうしたデモに共和党の大統領選の候補者たちも便乗しており、仮にギリシャ問題をきっかけにしたショックが起きて米国に波及しても、'08年のような救済策が取りにくい。欧州問題が巨大危機に発展すれば、ショックが連鎖する構造になっている」(東短リサーチチーフエコノミストの加藤出氏)
自国の貧困を救うのに精一杯で、仮に欧州に助けを求められてもとてもムリ。恐慌になっても自国の金融機関を支援することすら覚束ない。要は欧米が一体となって危機の火薬庫となってしまった。
象徴するようにフランスを代表する経済誌『レクスパンシオン』は「世界の終わり」と題して、世界経済の減速を予測。『ニューヨーク・タイムズ』紙も「ユーロ圏、死への旅」と題されたポール・クルーグマン教授(ノーベル経済学賞受賞)の寄稿文を掲載、「ユーロの崩壊は世界に大きなダメージを与えかねない」と警鐘を鳴らし始めた。
では世界経済はこれからどうなってしまうのか。
「日本で起きた金融危機では、長銀、日債銀が潰れてから、ほかの大手行が必死に不良債権の処理を実施、りそな銀に公的資金が注入されたところで市場は落ち着きを取り戻した。米国発の金融危機でも絶対に潰せないと思っていたリーマンが潰れて初めて、〝あく抜き感〟が出て公的資金注入という抜本策が打てた」(BNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏)
欧州行の多くは不良債権の処理をせず、決算も黒字を続けている。財政危機国も〝泣き〟をみないでどうにかやり過ごそうとしているが、もうマーケットも世論も許さない。結局、どこかが〝スケープゴート〟となって破綻しなければ金融危機の連鎖は終わらない。
「もちろん〝餌食〟は大きくなければ意味がない。
欧州はいま二つの選択肢しか持たない。一つはズルズルと危険行・危険国家を助けながら、不安定な市場を泳ぎ続ける。もちろんこの策をとれば、いまの〝恐慌相場〟が何年も続くことになる。もう一つは巨大銀行・危険国家を生贄に差し出し、早めに〝その後〟に向けて動き出す。これは第2のリーマンショックを引き起こすことにほかならない。いずれも茨の道には違いないが」(欧州銀幹部)
第2のリーマンショックとなれば、不動産バブルが弾け、バタバタと銀行が潰れていった日本の'90年代が、写し絵のように再現されることになる。もちろん日本もダメージから逃れることはできない。
リーマンショック時は世界的に株式相場が暴落、破綻先を組み入れていた投資信託も基準価格が下落、新規購入や解約の停止が起きた。ドルも急落したためFXをやっていた個人投資家が大打撃を受け、外貨預金に資金を貯めこんだ中高年も巨大な含み損を抱えた。リスク回避するマーケットが格付けの低い債券から逃避、金利が急上昇した。
虎の子で投資していた国債、投資信託、外貨預金も軒並みクラッシュするということ。ではわれわれはどうやって資産を守っていけばいいのか。
また、世界大恐慌へ一直線に転落することになりますので、今はなんとか持ち堪えさせ、時を稼ぎたいとなっているのです。
ヨーロッパ巨大銀行の破たんが迫っている中、ヨーロッパ首脳はどのような政治決着を見せるでしょうか?
26日の首脳会議に世界中の注目が集まっていますが、ここで合意に失敗すれば、即、世界金融崩壊へ一気に進むことになります。
常識的には、老練な政治家たちが集まりますので26日の首脳会議が物分かれになるような事態はあり得ませんが、各国首脳が自国大事を貫けば、可能性としてはないことはなく、警戒は必要だと言えます。