ユーロ圏最大の発行規模を持つイタリア国債が格下げされ、その価格下落や担保価値の喪失が、世界的に多大な影響を与えることが懸念されている。満期保有目的でも元本減免のリスクに備えて売却圧力が高まるほか、担保価値の喪失が起これば、欧州金融機関の資金繰りへの影響は大きく、世界経済にどういう事態が生じるか不安は大きい。
財政という最後の支え手を失った世界経済にとって、最大のリスクはイタリア国債の価格下落との指摘もあり、これを引き金に金融不安に足を突っ込むことに、日本の政策当局も強い懸念を抱いているもようだ。
<満期保有で損失は回避、元本減免リスク意識>
国際決済銀行(BIS)の与信統計によると、日本の金融機関のイタリア公的部門への与信残高は今年6月末現在で300億ドル程度。ユーロ圏では独、仏に次いで3番目の大きさとなっている。
国際金融の専門家は「価格下落があっても、満期保有が目的であれば、ギリシャのようにデフォルトで回収できないという懸念はほぼない」とし、資産価格下落による直接の被害は小さいと見ている。しかし「今の欧州の状況からみると、イタリアも債務元本減免の対象となるリスクは大きく、投資家は満期保有できなくなるだろう」(JPモルガン証券)との声もある。そうなれば、価格下落に拍車がかかり、財政状況はさらに悪化するという悪循環に陥ることが予想される。
欧州ソブリンリスク問題の影響から、様々な金融市場で相場変動が荒くなっている。日本の金融機関にとってはリスク管理が難しくなっているため、早めのポジションの調整が必要とも指摘されている。
白川方明日銀総裁もそうした状況を踏まえて「国際的な金融資本市場が不安定な状況にあるもとで、外貨建債券や株式など有価証券にかかるリスク管理が一層重要になっている」(9月29日信金大会あいさつで)と注意を促している。
<担保価値喪失なら金融機関の資金繰りに深刻な影響>
イタリア国債の価格が大きく下落すれば、それを担保に中央銀行やインターバンク市場などから資金調達している欧州金融機関の資金繰りにも大きな影響が出る。「金融不安のきっかけとして最大のリスク」とみる専門家もいる。特に、イタリア、フランスの金融機関にはその影響が甚大だ。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは5日、イタリア国債の格下げを受け、同国大手銀行2行の格付けを引き下げている。
OECD統計によれば、イタリア国債の発行残高(2010年現在)はユーロ圏最大の1兆5263億ユーロに上る。経済規模で勝るドイツの1.5倍の規模だ。
日本の政策当局からも、今回の欧州ソブリンリスクの最大の問題は、イタリア国債の価格下落で担保価値が喪失した場合の影響だと指摘する声もあがっている。過去にこれほどの規模の国債でそうした事例はないため、「経験したことがない事例だけに、どのような影響の広がりが出るのか見当もつかない」という。ギリシャと同様に金融機関の資金繰り悪化が実体経済に影響し、そのために税収が減少して財政事情をさらに悪化させるという負のスパイラルとなる可能性は高い。
<最後の担い手おらず、通貨安競争も>
日本の政策関係者は、こうした事態を避けるためにも、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の拡充を急ぎ、イタリア国債の買い入れに向け余裕を作るべきだとみている。JPモルガン証券の試算では、イタリアやスペインへのソブリンリスクの波及を回避するために国債を買い入れる資金や、欧州金融機関の資本注入のために必要な資金を合わせると、1.5─2.0兆ドル規模の資金が必要になるとみている。クレディスイス証券では、欧州以外の大手金融機関にも、厳しく見積もった場合、4000─5000億ドルの資本増強が必要とも試算している。
しかし一方で、市場の混乱が進んだ場合、今回は財政・金融政策の対応余力が小さく「最後の支え手」は誰もいないという不安定な状況にある。必要な資本注入の資金がすぐに賄える状況ではなさそうだ。
前出の国際金融関係者は、そういう意味で「リーマン時以上に深刻な面があり、不信感と絶望の中に沈むと、自国経済の回復のみを優先した、無意味な通貨安競争なども起きるかもしれない」と予想する。日本にとっては対岸の火事からの飛び火となろうが、円高、株安、そして輸出への影響を通じて実体経済面にも影響が波及する可能性が高まっている。