世界経済は今、極めて重要な局面に入ってきている。おそらく、百年に一、二度あるか
ないかの大きな構造変化が起こってきているのだ。世界経済の中心が次第に、欧米から
中国、インドなどの新興市場国に移ってきている。
▼米欧沈み中印浮かぶ構造変化
経済歴史学者の故A・G・フランクはこの現象を「リオリエント」と呼んでいる。
つまり、再び世界経済の中心がオリエント、東洋に戻ってきているというわけだ。
数千年の長い歴史を振り返ってみると、そのほとんどの時期、中国とインドが世界経済の
中心だった。英経済学者の故アンガス・マディソンの推計によると、1820年の時点で
世界のGDPの29%は中国、16%はインドだった。つまり、19世紀の初めまでは、
中国とインドで世界のGDPのほぼ半分を占めていたのだ。
中国とインドを中心とするアジアが没落したのは19世紀半ば以降、欧米の植民地化に
よってだ。アヘン戦争で香港が割譲されたのが42年。インドがイギリス植民地になった
のが77年。19世紀半ばから20世紀は欧米の時代。第一次世界大戦まではイギリスを
中心とするヨーロッパの時代。第一次大戦から第二次大戦への移行期を経て第二次大戦後は
アメリカの時代になっていく。その流れが今や、徐々に逆転し始めているのだ。
リーマン・ショックと呼ばれる金融システムの崩壊で、アメリカは長期停滞の局面に入って
きている。2009年に大統領に就任したオバマ氏の財政・金融政策で何とか景気回復の
局面に入ってきたが、11年にはそれも息切れし、現在は二番底懸念が高まってきている。
最近までホワイトハウスの国家経済会議(NEC)議長だったローレンス・サマーズ氏は、
アメリカが「失われた10年」の時代に入ってきたと述べている。金融システム崩壊で
傷んだバランスシートがじわじわと影響し始め、いわゆるバランスシート不況に入ってきた
のだ。ちょうど1990年代の日本と似通った状況なので、アメリカ経済の「日本化」とも
呼ばれている。
▼円高よりドル・ユーロ安続く
片やヨーロッパ。ギリシャ危機、アイルランド危機は収まる気配をみせず、危機は、ポルト
ガル、スペイン、さらにはイタリアと南ヨーロッパ全域に広がりつつある。第二次大戦後、
ヨーロッパは順調に統合を進め、今や、欧州連合(EU)は27カ国にまで拡大、ユーロ圏も
17カ国に達している。その歯車がリーマン・ショックを契機に逆回転をし始めたのだ。
直ちにEUが解体するわけでも、ユーロ圏が縮小するわけでもないだろうが、ヨーロッパも
また、深刻な構造問題を抱えることになってしまったのだ。
こうした中で、大震災後、マイナス成長が続いているにもかかわらず、円が買われ、円ドル
・レートは70円台に突入。しばらくは80円台に戻ることは考えられない状況になっている。
円高というより、むしろドル安、ユーロ安。アメリカとヨーロッパの構造問題の解決の
見通しが立たない中で、円高はしばらくは続きそうだし、さらに加速する可能性すらある。
たしかに、日本経済の状況はよくないのだが、一応底を打って、景気はそれほど強くはない
ものの回復局面に入っている。他方、アメリカ、ヨーロッパはまだ底が見えない。むしろ、
中長期的に没落していく情勢にある。世界で大量にかつ自由に取引できる通貨はドル、ユーロ、
そして円のみ。欧米の没落を受けて、ドル安、ユーロ安が進み円高がもたらされているわけだ。
▼円高利点生かす逆転の発想を
この局面で、為替介入をしても効果はない。介入は連続的、執拗(しつよう)に行って市場の
流れを変えなくてはインパクトを持たない。だが、今の状況では、アメリカもヨーロッパも
ドル安、ユーロ安を容認し、日本による継続的介入を望んでいない。アメリカやヨーロッパが
反対しない範囲での時折の介入ではドルの売り場をつくるだけで、持続的効果は期待できない。
では、この円高局面で日本はどう動くべきなのか。円高にはたしかにデメリットもあるが、
メリットも少なくない。輸入にはプラスだし、海外でのM&Aにも有利だ。企業のグローバル化を、
円高を武器にして、この際、積極的に進めるべきだろう。日本経済の空洞化を心配する向きも
あるが、ことはそう単純な話ではない。
日本企業のグローバル化が進めば、日本からの素材や部品の輸出は増加する可能性が高い。
多くのアメリカの企業、また、韓国の企業などもグローバルに事業を展開しているが、
アメリカ経済や韓国経済は空洞化してはいない。
多くの日本企業はトヨタやパナソニックなどの巨大企業も含めて、まだまだ十分にグローバル化
してはいない。例えば、インド以西では、サムソンや現代はよく見るが、トヨタやパナソニックは
後塵(こうじん)を拝している。発想を転換して円高メリットを大いに利用し、日本企業のグロー
バル化を進めるべきときなのだろう。