中国の「9.7%成長」に目を奪われると…
4月14日(木)に発表された中国の第1四半期(1~3月)GDP統計関連で、大方のメディアは「前年同期比実質9.7%成長」という数字をヘッドラインに持ってきました。
この数字を見ると、2011年の中国政府による成長目標は8%成長ですから、景気は非常に順調に見えます。しかしながら、今回初めて発表された「前期比実質成長率」の数字(2.1%成長)、従前から発表されている「四半期名目GDP」、GDPの前日に発表された「マネーサプライ」、「銀行融資残高」等、また各種物価統計等を総合的にチェックしてみると、どうも数字に整合性がとれておらず、中国経済の本当の現状は「高成長持続」には程遠い可能性が否定できません。
実質2.1%成長、名目2.4%成長、消費者物価1.2%上昇…?
第1四半期の数字でもっとも疑問に思われるのは、今回始めて発表された「前期比実質成長率2.1%」です。筆者にはこれが高すぎるように思われるのです。
従前から発表されている「四半期名目GDP」をベースに季節調整後の「前期比名目成長率」を推計すると2.4%になります。そうすると、総合的な物価を示す「GDPデフレーター」は前期比0.3%となります。しかしながら、第1四半期の「消費者物価指数」は1.2%上がっています。理屈の上では、「GDPには消費以外に、投資や輸出・輸入等、中国の場合だと消費よりも大きな規模になっている項目が含まれるので、消費者物価よりもGDPデフレーター上昇率がおとなしくなることはありうる」のですが、どうも他の物価指数の動きを考えるとそこまで差が出ることは考えにくい状況です。
こうした「中国の統計の信頼性」については、昔から様々に言われていますが、額面どおりにすべてをそのまま受け取ってはいけないというのは、現在でも変わっていないと筆者は思っています。実は今回始めて発表された「前期比実質GDP成長率」も季節調整がなされているかどうか、政府は明らかにしていません。ですから、そうした「よくわからない数字」を基に議論をすること自体がどこまで意味のあることなのか、難しい部分が多々あります。
中国当局者が「GDPの数字はファンタジー」と認めたことすらあります。GDPというのは、国の経済全体の動きを把握しようとするものですので、ある程度大きな国ではどうしても推計に推計を重ねる必要があり、整合性が取れないのも仕方ない部分もありますが、中国の場合は人口も面積も莫大で、しかも「正確な統計をとり、それを公にする」という文化も伝統もない(あるいは極々最近になってようやく始めた)ような国ですから、確かにファンタジーに近いものとして扱ったほうが良いと思います。
市場は正直。この情報で日経平均は10%以上近い下げ。その後回復
金融市場は正直です。この会見から2時間の間に、日経平均株価は9,000円そこそこから8,200円付近まで一気に10%近く下げました。既に会見前の時点で前日の終値から6%以上下げていたにもかかわらずです。
その後、現地で懸命に働く方々の尽力で、放射線量はなんとか作業ができるレベルにまで戻り、それとともに市場も落ち着きを取り戻しました。結局それから1週間後の22日(火)までには9,600円台まで回復しています。底値から見ると約17%の上昇です。
この間、報道では、「外国人が続々と出国している」、「外国政府が自国民に対して退避勧告を出している」、「外国の原子力専門機関が日本政府よりも深刻な見方をしている」と様々な悲観的な情報が流れましたが、市場は正直です。政府、東京電力、自衛隊、消防、警察、米軍、発電所メーカーが協力してなんとか冷却に向けて様々な策を講じているのを市場は評価し、「最悪の事態」が回避されることを織り込みつつあります。
「ファンタジー」だからこそ「推理」が不可欠
ただ、中国はすでに世界第2の経済大国で、その状況がある程度正確に把握できないことには、世界経済全体の動きを予測できなくなっています。したがって、投資のプロとしては、統計数字がある程度「ファンタジー」であることを認めたうえで、何が起きているのか状況証拠を積み重ね、「推理」することが大切です。
「スタグフレーション」の可能性大
ここから先は筆者の「推理」ですが、中国はおそらく引き締めを本格化させるのが遅れたために今非常に舵取りの難しい状況に陥っているものと思われます。
中国は2008年のリーマン・ブラザーズ破綻後、世界経済が急縮小する中でいち早くかなりの大規模な景気対策を発動し、銀行に貸し出しを激増させることを命じました。これにより「中国は世界を救った」と一部でいわれるほどに素早い景気の立ち直りを見せましたが、同時に無理な貸出増加が不動産バブル等様々な歪を生みました。
中国当局は2009年末から引き締めに入りましたが、当初は非常に「小出し」な引き締めであったため大きな効果がなく、また2010年秋に米国がQE2を発動したことで為替相場をほぼ米ドルにペッグしている中国はその緩和効果をもろに受け、結局インフレの進行に悩まされるようになりました。
このインフレを抑えるために、当局は引き締めを本格化させ始めましたが、そのタイミングはもはや「遅すぎ」であったため、現在は必要以上に急な引き締めが必要になってしまった感じです。それにより、おそらく、ここ数ヶ月は景気がかなり減速してきており、にもかかわらず商品価格の上昇がつづいていることから、インフレは収まらないという、「スタグフレーション状態」になっているものと思われます。
中国当局としては、これ以上インフレが進めば社会不安が起きますので、なんとかして止めたいところです。しかしながらそれには、景気を急速に悪化させるか、あまり良くない状態を長く続けるか、もはや二つに一つしかなくなっています。要するに、引き締めを継続するしか、もはや手はないのです。
そして、仮にそうなれば、中国は世界第2の経済大国です。ここが減速すれば、商品市場には確実の負の影響があるでしょうし、中国関連で大きな利益を上げてきた先進諸国の多国籍企業への影響等を通じて、世界経済全体に冷や水をかけることになる可能性大です。
そして、中国当局がその状況を読みきれず、過度に引き締めを行えば、多くのプロが「その可能性は低い」といい続けている「中国経済のハード・ランディング」シナリオも無視できなくなっています。筆者の目から見ると、その可能性はどんどん高まっているように見えてなりません。
4月14日(木)に発表された中国の第1四半期(1~3月)GDP統計関連で、大方のメディアは「前年同期比実質9.7%成長」という数字をヘッドラインに持ってきました。
この数字を見ると、2011年の中国政府による成長目標は8%成長ですから、景気は非常に順調に見えます。しかしながら、今回初めて発表された「前期比実質成長率」の数字(2.1%成長)、従前から発表されている「四半期名目GDP」、GDPの前日に発表された「マネーサプライ」、「銀行融資残高」等、また各種物価統計等を総合的にチェックしてみると、どうも数字に整合性がとれておらず、中国経済の本当の現状は「高成長持続」には程遠い可能性が否定できません。
実質2.1%成長、名目2.4%成長、消費者物価1.2%上昇…?
第1四半期の数字でもっとも疑問に思われるのは、今回始めて発表された「前期比実質成長率2.1%」です。筆者にはこれが高すぎるように思われるのです。
従前から発表されている「四半期名目GDP」をベースに季節調整後の「前期比名目成長率」を推計すると2.4%になります。そうすると、総合的な物価を示す「GDPデフレーター」は前期比0.3%となります。しかしながら、第1四半期の「消費者物価指数」は1.2%上がっています。理屈の上では、「GDPには消費以外に、投資や輸出・輸入等、中国の場合だと消費よりも大きな規模になっている項目が含まれるので、消費者物価よりもGDPデフレーター上昇率がおとなしくなることはありうる」のですが、どうも他の物価指数の動きを考えるとそこまで差が出ることは考えにくい状況です。
こうした「中国の統計の信頼性」については、昔から様々に言われていますが、額面どおりにすべてをそのまま受け取ってはいけないというのは、現在でも変わっていないと筆者は思っています。実は今回始めて発表された「前期比実質GDP成長率」も季節調整がなされているかどうか、政府は明らかにしていません。ですから、そうした「よくわからない数字」を基に議論をすること自体がどこまで意味のあることなのか、難しい部分が多々あります。
中国当局者が「GDPの数字はファンタジー」と認めたことすらあります。GDPというのは、国の経済全体の動きを把握しようとするものですので、ある程度大きな国ではどうしても推計に推計を重ねる必要があり、整合性が取れないのも仕方ない部分もありますが、中国の場合は人口も面積も莫大で、しかも「正確な統計をとり、それを公にする」という文化も伝統もない(あるいは極々最近になってようやく始めた)ような国ですから、確かにファンタジーに近いものとして扱ったほうが良いと思います。
市場は正直。この情報で日経平均は10%以上近い下げ。その後回復
金融市場は正直です。この会見から2時間の間に、日経平均株価は9,000円そこそこから8,200円付近まで一気に10%近く下げました。既に会見前の時点で前日の終値から6%以上下げていたにもかかわらずです。
その後、現地で懸命に働く方々の尽力で、放射線量はなんとか作業ができるレベルにまで戻り、それとともに市場も落ち着きを取り戻しました。結局それから1週間後の22日(火)までには9,600円台まで回復しています。底値から見ると約17%の上昇です。
この間、報道では、「外国人が続々と出国している」、「外国政府が自国民に対して退避勧告を出している」、「外国の原子力専門機関が日本政府よりも深刻な見方をしている」と様々な悲観的な情報が流れましたが、市場は正直です。政府、東京電力、自衛隊、消防、警察、米軍、発電所メーカーが協力してなんとか冷却に向けて様々な策を講じているのを市場は評価し、「最悪の事態」が回避されることを織り込みつつあります。
「ファンタジー」だからこそ「推理」が不可欠
ただ、中国はすでに世界第2の経済大国で、その状況がある程度正確に把握できないことには、世界経済全体の動きを予測できなくなっています。したがって、投資のプロとしては、統計数字がある程度「ファンタジー」であることを認めたうえで、何が起きているのか状況証拠を積み重ね、「推理」することが大切です。
「スタグフレーション」の可能性大
ここから先は筆者の「推理」ですが、中国はおそらく引き締めを本格化させるのが遅れたために今非常に舵取りの難しい状況に陥っているものと思われます。
中国は2008年のリーマン・ブラザーズ破綻後、世界経済が急縮小する中でいち早くかなりの大規模な景気対策を発動し、銀行に貸し出しを激増させることを命じました。これにより「中国は世界を救った」と一部でいわれるほどに素早い景気の立ち直りを見せましたが、同時に無理な貸出増加が不動産バブル等様々な歪を生みました。
中国当局は2009年末から引き締めに入りましたが、当初は非常に「小出し」な引き締めであったため大きな効果がなく、また2010年秋に米国がQE2を発動したことで為替相場をほぼ米ドルにペッグしている中国はその緩和効果をもろに受け、結局インフレの進行に悩まされるようになりました。
このインフレを抑えるために、当局は引き締めを本格化させ始めましたが、そのタイミングはもはや「遅すぎ」であったため、現在は必要以上に急な引き締めが必要になってしまった感じです。それにより、おそらく、ここ数ヶ月は景気がかなり減速してきており、にもかかわらず商品価格の上昇がつづいていることから、インフレは収まらないという、「スタグフレーション状態」になっているものと思われます。
中国当局としては、これ以上インフレが進めば社会不安が起きますので、なんとかして止めたいところです。しかしながらそれには、景気を急速に悪化させるか、あまり良くない状態を長く続けるか、もはや二つに一つしかなくなっています。要するに、引き締めを継続するしか、もはや手はないのです。
そして、仮にそうなれば、中国は世界第2の経済大国です。ここが減速すれば、商品市場には確実の負の影響があるでしょうし、中国関連で大きな利益を上げてきた先進諸国の多国籍企業への影響等を通じて、世界経済全体に冷や水をかけることになる可能性大です。
そして、中国当局がその状況を読みきれず、過度に引き締めを行えば、多くのプロが「その可能性は低い」といい続けている「中国経済のハード・ランディング」シナリオも無視できなくなっています。筆者の目から見ると、その可能性はどんどん高まっているように見えてなりません。