「なくしたものは大きいけど、得たものもある。それは人のやさしさです」。大震災で被災した友の声が心に残る▼どの街にも、家族や家を失いながら、他者のために尽くす〝無名の英雄〟がいた。これは、マスコミが海外の声として引用するように、「日本人だから」できることなのか。略奪や暴動が起きるのが普通なのか▼そうではない。人間は大災害の時、助け合い、自分をなげうってでも人に尽くすようにできている。それを立証した本が、静かな注目を集めている。『災害ユートピア』(高月園子訳、亜紀書房)。1985年のメキシコ大地震、2001年の「9・11」テロ、05年のハリケーン「カトリーナ」――大災害を検証し、ふだんの秩序が失われた時、すばやく自然発生的に、相互扶助の共同体が立ち上がることを描き出した▼つまり、人間にとって、「自分だけは助かりたい」という利己心よりも、「人とつながりたい」という思いの方が、より本質的な欲求なのだ。そして、東日本大震災の被災者の方々は、この人間という存在の素晴らしさを身をもって示してくれた▼支え、励まし合う温かな社会を築きたい。