栃木の有名な陶器の益子焼は、粘土の粒子が粗いため、重くて割れやすい。しかし、醸し出されるその重厚さが、他に類を見ない魅力を生み出す。陶器に不向きといわれた粗い粒子の可能性を信じた先達の努力があって、益子焼が誕生したといえる▼大正時代、活動写真(映画)の弁士として名を馳せた徳川夢声。他の弁士に比べ、決して多弁ではなかった。だが、夢声は、凝縮された表現によって物語の魅力を最大に引き出し、「弁士業をまさに芸術の域にまで高めた」(都築政昭著『シネマがやってきた!』小学館)▼素材の可能性を見つけ、育もうとする心。対象の魅力を引き立て、花開かせる知恵。芸術の世界に限った話ではあるまい▼谷底に横たわる見事な長松、闇に包まれた錦の着物。どちらも、人に見られようと、見られまいと、その真価は変わらない。要は、それに気づき、見いだす人がいるかどうかだ▼人材育成のポイントは相手を褒めること、といわれる。誰にでも、伸ばせば光る長所がある。求められるのは、励ます側の慧眼だろう。その眼力は、相手の可能性を信じ、見いだし、育む情熱によって養われることを忘れまい。