それは1777年の冬のことであります。28歳の若さで、すでに国家の中核
の仕事を担い、多忙を極めていたゲーテは、久方ぶりに、休暇で自分の時間をとることができました。
君主たちは廷臣と狩りに出かけました。今でいえば、高級なレジャーと言えよう。
しかし、ゲーテは静養や極楽などには目もくれず、悩める1人の若者に会って励ますために、決然と旅に出だのであります。
じつは、その青年は、手紙で何度もゲーテに悩みを訴えてきていました。
人間への深刻な不信や憎悪に悩み、人生を絶望している青年。時間ができたら、彼と直接、会って話し、立ち直らせたい・・ゲーテはそう心に期していたのであります。
行き先は、ドイツ中部のハールツ山脈の近くの町。ワイマールから遠い道のりでありました。道すがら、雹まで降ってきた。
しかし、「1人の人間のために!」。若きゲーテの歩みは誇り高かった。
ゲーテは真心を込めて青年にと語り合った。しかし、残念ながら、青年の頑なな、閉ざされた心には、ゲーテの励ましやアドバイスも受け入れられなかったようであります。
ゲーテはその後、青年の折りを、詩にこめてのこしている。
「愛の父よ、おんみの竪琴に
彼の耳に聞こえる音が
ひとつなりとあるならば、それをかき鳴らし
彼の心を慰めたまえ。
その雲れる目を晴らし、
沙漠にありて
渇ける者の傍らに
千の泉湧き出ずることに気づかせたまえ」
はるばる足を運んだゲーテの激励行は、徒労に終ったかのように見えた。
しかし、この励ましの旅は、200年を経た今もなお、「冬のハールツの旅」として
謳いつがれ、世界の良識の人々を励まし続けています。