4. 視点を変える  その1  ( 2005年 5月29日 )

SYPプログラムでは視点を変えることをテーマの一つにしています。
今回は、クイズ形式でお届けします。
なぜ、配達人は「助けてくれ」と意思表示をしなかったのか?
配達人の視点を、読み進めている途中で共有できましたか?
「○○○○○」の中の答えは次回に発表します。

  「狭い箱」の悲哀

 この街には欠かせないエレベーターと出前配達人。
大都会の住と食を支えるこの二つは密接にかかわる。
今月初め、ブロンクス地区のビルに
出前を届けた35歳の中国人配達人が姿を消した。
駅のそばに立つ38階建てのツインタワーの外に
配達用の自転車を止めてあり、周辺で何かが起きたのは明らかだった。
過去に中国人の配達人が殺された事件があり、ニューヨーク市警は捜査を始めた。
 扉を壊された住人もいたというから、入念な捜索だったようだ。
彼が見つかったのは80時間後。3階と4階の間のエレベーターの中だった。
 動いていないエレベーターを、なぜ疑わないのか。
警察の広報担当は「以前から運転停止していたと聞いていた」と話す。
ビルの警備員は「警報ボタンが鳴るのに、なぜ押さなかったのか」といぶかる。
配達人は助けを求めて叫んだというが、英語はほとんどできなかったらしい。
 報道によれば、救出後、彼は再び姿を消した。
彼は別の意味で街に欠くことのできない人たちの仲間だった。○○○○○だ。
当局が取り締まりを強めても、街の生活を底辺で支える彼らは、50万人にも膨れている。
見つけてほしいけど、見つかりたくない。
狭い箱の中の心境は、想像に難くない。
                      
                      朝日新聞 特派員メモ ニューヨーク 江木慎吾