15. 愛情が不足すると‥‥‥    ( 2005年 8月14日 )

ペットですら愛情が足りないと異常行動にでるようです。
それが人間の子供だったら‥‥‥。
今回は子供たちの大好きな「うんこネタ」です。
大人は「うんこネタ」は、嫌いですか?
お盆の時期です。
ご家族で「愛」について分かち合ってみてはいかがですか?
三谷さんのエッセーは、愛にあふれていて個人的に大好きです。

朝日新聞     三谷幸喜の「ありふれた生活」  

試練で深まるペットへの愛

 映画撮影の日々が続いている。
夜、帰宅すると、まず翌日の撮影するシーンを台本でチェック。
そして深夜は脚本家に戻って原稿書き。いっぱいいっぱいである。
 妻は舞台が続いていて、毎日劇場へ通っている。
夫婦ともども忙しいというのは、珍しいことだ。
今までは、たまたまだったが、どちらかがハードな時は、
もう一方は緩やかなスケジュールだった。
 割りを食っているのが、我が家の動物たち。
ちょっとボケが入っている最年長のおとっつあん(猫)は、結構自由にやっているが、
他の三匹はここのところ、見るからに元気がない。
 人と暮らす動物たちにとって、飼い主とのコミュニケーションは
生きる上で欠かせないものだ。餌が、植木にとっての肥料だとすれば、
飼い主の愛情は、水のようなもの。毎日与えてあげなければ、いずれは枯れてしまう。
 家にいる時間が短いので、一緒にいられる時は、
出来るだけ彼らと遊ぶようにしている。それでも動物たちには足りないらしい。
クールに見えて実は一番の甘えん坊のオシマンベ(猫)は、食欲がなくなり、
最近よく残すようになった。ホイ(猫)は、僕が帰宅するとすぐ飛びついてきて、
腰を下ろす度に膝の上に乗ってくる。
むさぼるように僕から愛を吸収していくホイ。
 とび(犬)は、朝の散歩は僕と妻が交代で務めているが、
夜はペットシッターさんにお願いしている。
あんまり遊んであげられないので、愛情表現を、いけないと分かっていても、
お菓子をあげることで代用してしまう。お陰でとびは日に日に太っている。
 ある日、とびの顔が猛烈にウンチ臭い時があった。
顔を舐められた時、口の回りがやたら臭かった。
何かの病気ではないかと心配になった。
妻と二人でとびの口のまわりを何度も嗅いでみる。確かに口臭がきつくなっている。
とはいえ、元気は元気だし、臭いは時間が経つと消えたので、そのままにしておいた。
数日後、また突然ウンチ臭くなった。妻が嫌な推理を働かせた。
「これ、ひょっとしてウンチ食べてるんじゃない?」
 老猫のおとっつあんは、最近よくトイレ以外の場所でウンチをする。
お爺ちゃんだから仕方がないと諦めていたのだが、そういえばこのところ
あまり廊下でそれを見かけることがない。
ボケが治ったのかと思っていたのだが、何ととびが食べていたとは!
 そして遂に決定的瞬間を目撃。
おとっつあんの後を執拗に追ったとびは、彼が排便するや否や、
まるで熱々の焼き芋を食べるように、それをハフっと口に入れた。
 慌ててとびを捕まえ、無理矢理口を開けさせる。既に飲み込んだ後だった。
それがどんなにいけないことか、僕はとびに懇々と説明してやった。
今まで一度もなかったことだ。これも飼い主がいないストレスのせいなのか。
 なんだか無性にいじらしくなって、思わずとびを抱きしめてやった。
そして頬擦り。ウンチ臭さが愛おしかった。
 動物たちにとっての試練の夏は、まだまだ続く。