間男和浩が来るまで、僕は、塔子の話しを聞いていた。


塔子は、随分前から、間男和浩の不貞を知っていた、と言った。


塔「私と出会った時も、和君(間男)の心は私にはありませんでした。…忘れられない人が居るって言ってましたから。

だけど、私は、それでも良かった。和君の淋しい気持ちの隙間に、私が無理矢理入ったんです。」


塔子は続ける。

「程なくして、私の妊娠がわかりました。私は、例え堕ろせと言われても、一人ででも産むつもりでした。でも…和君は、結婚しようと言ってくれました。それが、責任から来るものだったとしても、私は嬉しかった。」


両手で顔を覆い、塔子は泣いた。


「子供が産まれて、家も建て、幸せな時間が過ぎました。だけど…。あの人のスーツから、女性の香りがするようになって…。」


事務所の扉が、バン!と荒々しく開いた。


間男和浩の登場だ。


間男和「おい!呼びつけて、何のよう、…」


入り口に背を向けて座っていた塔子が振り返る。


間男和「な、ん…!? 塔子! お前が呼んだのかっ!おい!」


僕「いいや、ここへ来たのは、塔子さんの意志だよ。」


間男和「俺の妻の名前を気安く呼ぶな!!」


僕「…へぇ、お前は、俺の妻を、何て呼んでるんだよ?」


間男和「…くっ。」


僕「それに、俺の、って言うが、塔子さんは、モノじゃない。違うか?」


間男和「… 。」


前に、間男和浩から僕が言われた事を、そっくり返してあげた。性格悪い僕。


僕「塔子さんが、どんな気持ちで、ここへ来たかお前にわかるか?裏切られたのは、塔子さんも同じなのに、頭を下げて、お前の代わりに俺に謝ったんだぞ!」


間男和「それでも…、俺は、彩が。」


塔子「和君!和君…!」

泣きじゃくる。


僕「ここまで塔子さんを傷つけても、お前は、彩と別れないと言うのか?」


間男和「俺は…。俺は。」


僕「塔子さんや、子供が不幸になっても構わないんだな?」


間男和「… 。」


僕「はっきり言えよ!俺に言った事と同じ事を、塔子さんに教えてやれよ!」


間男和「…俺は、彩をアイシテ…。」


間男和浩が言うのを遮って、

僕「そうか。なら、これを塔子さんに見てもらう。塔子さんには、知る権利がある。」


塔子の目の前に、僕のノートパソコンの画面を向けた。


あんっ、あん…。はぁはぁ。

和君っ!気持ち…いい!はぁ。あっ。

彩、いいよ、彩…


妻の部屋で見つけた、二人の情事の動画だ。


間男和「やめろっ!やめろよ!」

パソコンを取り上げようとする。


僕はそれを制しながら、

「何故だ?どうせお前は、全てを捨てるんだろう?手間が省けるだけじゃないか。」


塔子は手で顔を覆い嗚咽していたが、突然立ち上がり、間男和浩に抱きついた。


塔子「お願い!和君!戻って…。戻って来て。」


間男和「塔子…。」


僕「どうする?お前が、彩と、もうこれ以上関わらなければ、全てを忘れてやってもいい。

だが、彩と一緒になるなんて寝言を、まだ言うのであれば、俺はお前を、とことん追い込むよ。

その過程で、お前の家族がどんなに傷つこうが、俺の知った事っちゃない!」


間男和「お前…。」


僕「お前らのおかげで、俺も成長したさ。」


塔子「…ねぇ、和君。一緒に帰ろう?」

小さく震えながら、間男和浩にしがみつく。


僕「決めろよ。ただな、彩と一緒になったって、お前に幸せなんか訪れない。断言してやる。いつかは彩に捨てられて、一人で朽ち果てる。それでもいいなら、今すぐ塔子さんを捨てろ!」


間男和「塔子…。」



二人が僕の事務所を出て行く後ろ姿を、僕は見送る。


間男和浩は、結局、家族の元に戻る事を選んだ。

これ以上、彩に関わらない事を誓って。


不倫という甘美な蜜に毒された頭でも、彩との行く末に、明るい未来がない事がわかったようだ。


バイバイ!間男和浩!


今日は、僕が、主演男優賞だ!