雨が激しく降っていた。


駅に向かう道の途中。


公園の前で、ふと足を止めた。


公園の真ん中に、おねえちゃんと弟に見える小さい子供がいた。


ひとつの傘を二人で分け合って、寄り添って立っていた。


弟は、しっかりとおねえちゃんの手を握りしめていた。


その手はとても力強くて、何かを我慢しているように見えた。


「泣いてもいいんだよ?」


おねえちゃんが、弟に言った。


弟は、何も言わないまま、首を横に大きく振った。


「どうして?」


弟は、また何も言わぬまま、首を横に大きく振った。


お姉ちゃんは、困ったように微笑むと、空を見上げた。


「雨が降ってるね」


そう言うと、弟も空を見た。


「雨はね、神様が泣いてるの。神様だってこんなに泣くんだもん。だから、泣いたっていいのよ?」


お姉ちゃんがそう言うと、弟の顔が少しゆがんだ。


「おねえちゃんは?」


弟が、ゆがんだ顔でおねえちゃんを見た。


おねえちゃんは、優しく微笑んで、弟の顔を見た。


「おねえちゃんはね、上手に泣けないの。だから、代わりに泣いてくれる?」


そう言われると、弟は「わっ」と涙を流し、おねえちゃんに抱きついた。


おねえちゃんは、弟の頭をなでながら、


「ありがとね」


と微笑んだ。


それを見届けて、また歩き出した。


心の中で、「ありがとう」とつぶやいた。



泣けてきた。


バスに揺られ、流れる外の景色を眺めるうちに、涙があふれ出た。


外の景色は変わるのに、自分は昔と何も変わらない。


とまったまま。


その、自分の情けなさに、涙があふれ出た。


涙のこらえ方すら分からないというほどに泣いた。


最後の悪あがきとして、サングラスをかけた。


でも、涙は隠れなかった。


その時、自分の頭を、何かが乱暴に触れた。


撫でるというよりは、かきむしるという感じ。


その方向を見ると、母親に抱っこされた、2歳ぐらいの赤ん坊だった。


不安そうな、心配そうな、そんな顔。


母親が、俺に「すいません」と無言で言い、頭を下げた。


それに、「いえいえ」と、無言で言い、頭を振ると、小さい手が自分の頭を叩いた。


ぽんぽん。


自分の心の中を、全て、見透かされたようだった。


なぜだか、すごくほっとした。


俺が、心の中で、


「大丈夫だよ。」


と言うと、赤ん坊が笑顔になった。


バスがとまり、赤ん坊は、俺に頭をさげる母親に抱かれ、降りていった。


サングラスをはずすと、少し、景色が変わって見えた。



「おい、トナカイ。」

「なんだよ。」

「なんだよ。じゃねぇよ。動けよ。」

「えっ、クリスマス明日っしょ?」

「だから、今日届けんだろうがよ。」

「めんどくせぇな~。」

「いいから行くぞ。」

「いいじゃねぇかよ。お前、チョイノリ持ってんだろ。」

「そんなサンタ、子供泣くぞ。」

「いいじゃんかよ。毎年間に合ってんだからよ。」

「バカ、おめぇ。今年から担当増えたぞ。」

「うそ!どこ?」

「とちぎとぐんま。」

「ざけんなよ。埼玉だけでも大変なのによ。」

「しょうがねぇだろ。吉田さんいないんだからよ。」

「うそ!よっちゃんいねぇの?」

「不況の波には逆らえねぇんだよ。」

「あ~、あの人、派遣だっけか。」

「な、だから行こうぜ。早くしねぇと正月なっちまうよ。」

「も~いーくつねーるーとー…。」

「やめろ。」

「じゃあ山下達郎にしようか?」

「いや、マライア・キャリー。」

「ははは。歌えねぇよ。」