目の前には、涙を流して、自分の状況を訴える、自分の生徒がいる。
家に帰りたくないという。
家に帰れば、いつも、両親がケンカをしていて、緊張がほぐれることがないという。
いつも、聞こえるのは、怒鳴り声ばかりらしい。
そのおかげで、怒鳴り声に過敏に反応するようになった。
隣のクラスの男性教諭の怒鳴り声が聞こえてきただけで、この子は異常なほど反応をしめす。
この小さな子供が、どれ程の苦しみに耐えているのか、俺には想像も出来ない。
俺の親は、ケンカなどすることなく、さっさと離婚した。
丁度、目の前の小さな子供と、同じ頃の話だ。
ただ、それがいいことなのか、悪いことなのか、目の前の涙を見てると、分からなくなってくる。
ただ、そのときは、自分なりに不幸のどん底にいた。
そんな俺を、救った言葉がある。
ある日、飢餓に苦しむ人々を取り扱ったドキュメンタリー番組で、カッコイイ俳優さんが言っていた言葉だ。
そのときの言葉を、俺は、この小さな子供にあげることにした。
「いいか。苦しいのは、お前だけじゃない。それは、分かっていような。」
小さな子供は、涙をぬぐって、こう言った。
「それを分かったら、お父さんとお母さんは、仲良くなるの?」