目の前には、涙を流して、自分の状況を訴える、自分の生徒がいる。


家に帰りたくないという。


家に帰れば、いつも、両親がケンカをしていて、緊張がほぐれることがないという。


いつも、聞こえるのは、怒鳴り声ばかりらしい。


そのおかげで、怒鳴り声に過敏に反応するようになった。


隣のクラスの男性教諭の怒鳴り声が聞こえてきただけで、この子は異常なほど反応をしめす。


この小さな子供が、どれ程の苦しみに耐えているのか、俺には想像も出来ない。


俺の親は、ケンカなどすることなく、さっさと離婚した。


丁度、目の前の小さな子供と、同じ頃の話だ。


ただ、それがいいことなのか、悪いことなのか、目の前の涙を見てると、分からなくなってくる。


ただ、そのときは、自分なりに不幸のどん底にいた。


そんな俺を、救った言葉がある。


ある日、飢餓に苦しむ人々を取り扱ったドキュメンタリー番組で、カッコイイ俳優さんが言っていた言葉だ。


そのときの言葉を、俺は、この小さな子供にあげることにした。


「いいか。苦しいのは、お前だけじゃない。それは、分かっていような。」


小さな子供は、涙をぬぐって、こう言った。


「それを分かったら、お父さんとお母さんは、仲良くなるの?」





「ドカン!!」


隣の研究室から大きな爆発音がして、俺は慌てて駆け込んだ。


「大丈夫ですか!?」


部屋には黒い煙が充満してて、博士の姿は確認できなかった。


「たすけて~。」


かすかに聞こえた博士の声は、積みあがったガレキの中から聞こえていた。


俺は、急いでガレキをどかし、博士を救い出した。


「あいたたたた…。すまんのぅ…。」


博士はパタパタと自分の白衣をはたいた。


そして、部屋の様子を見て、


「あら~。こりゃ、またやっちゃったな~。」


と、つぶやいた。


博士というよりは発明家のこの人は、発明の過程でよくこれをやる。


おかげで研究室にはガレキの山があちこちにある。


「ついに要るな~。お片付けロボ。」


俺は、お片付けロボが出来るまでには山が6つは増えるだろうなと思った。


博士は、もうお片付けロボの設計図を書き始めている。


「これ、何の発明だったんですか?」


ガレキを片付けながら、博士に聞いた。博士は、もうそれには興味がないといった感じで答えた。


「あぁ…、それは、小型爆弾じゃよ。」


「ばくだん…。」


俺は、周りを見回してから、聞いてみた。


「これ、成功ですか?失敗ですか?」

「人は見かけによらない。」

俺はそれを強く感じながら、血だらけで地面に倒れていた。

となりには、俺と同じぐらい血だらけで、七三にメガネの男が倒れている。

成績優秀でスポーツ万能、街でも有名な優等生と、勉強嫌いでケンカ無敗の不良が、2人で倒れているのは異様な光景だっただろう。

「いてててて…。」

頭を押さえて、メガネが起き上がった。何となく悔しい気がして、俺は無言で状態を起こした。

「どんな鍛え方してんだよ、お前は。」

七三は、俺の2つ年上だ。

俺は「うるせぇ」とだけ答えた。

「でも、いい気晴らしになったわ。」

「気晴らし」という言葉が気になった。

俺の生き甲斐のケンカを気晴らしにされてムカつく気持ちと、この男の気晴らしに付き合えた喜びが混じって、複雑な気持ちになった。

こんな気持ちは初めてだった。

勉強もスポーツもできてケンカもつよい。

毎日ケンカしかしてこなかった自分とは、人間としての格みたいなもんが大分ちがうこの男を、尊敬していたのかもしれない。

「また、ケンカしてくれな。」

そう言って、七三メガネは去って行った。

俺は、ポケットから取り出し、火をつけて、大きく吸い込んだ。

超うまかった。