まがり角には精霊さん 第3話 異変発生 | この先通行規制中につきまして

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勝ったと思うなよ・・・!

「あー、なんか悪かったな・・・連れてきちまって。妹さんいるの知らなくてさ」

ピレカが頭を掻きながら詫びてくる。

「いや、人間の世界行けるのならいいよ。」

「うーん、基本的に仕事以外で行くのはなるべくやめといた方がいいんだがなぁ・・・で、妹の話聞かせて」

ピレカは唐突に態度を変えてきた

「妹は私より勉強も優秀だしスポーツ面も優秀だったし凄い人だったよ。自慢だった。メンタル面も強いし大丈夫だと思うけど、心配なんだ」

「ふぅん・・何かあたし悪人みたいだな。本当にごめん」

「どうせ私死んでるんでしょ?死んだら二度と会えないじゃん。生き永らえさせてくれただけで嬉しいよ。」

「よーし、じゃあ今日は特別に人間界で自由行動させてやるよ。3時間たったら強制送還だけど。じゃあ人間界へ送るぞ。あ、くれぐれも問題は起こすなよ」

「わかってる。」

「行くぞ・・・ん?」

急にピレカの表情が変わった。

「どうしたの?」

「人間界で異変が起こってる。」

異変?

もしや先ほどポルクスが言っていた「仕事」の事?

「異変については話してなかったか・・・異変っつーのは、その名の通り人間界に起こった異変、怪異現象と言ってもいいだろう。まぁそんなもんだ。この異変が発動するとまずいんだよなあ・・・普段あたしらは人間相手にドンパチやってるけど、異変は化物や精霊だの人間外の生物が相手だからなぁ。すまん由芽子、今日は妹さんや友達に合わせてやる事ができない。」

「ねぇ、私も一緒に連れてって」

「バカヤロー!異変はすげぇ危険なんだ!命を落としかねないんだぞ。新入りのお前が行ったら8割近くの確率で命を落としちまう!せっかくの命なんだから大切にしろ!」

先ほどまでのピレカとはあきらかに雰囲気が違う。

だが、由芽子も単なる好奇心で行きたがっているわけではなかった。

「私は精霊として生きていくの。だから、仕事を見ておかないといけない。お願い連れて行って。死んだらそれまでの存在だって思ってもらってもいいから」

「ダメったらダメ!それに、これは仕事といっても特別な仕事だ。何の参考にもならんぞ?」

「嫌とは言わせない。私も連れて行ってよ」

がんとして言う事を聞かない由芽子の目を見たピレカは、呆れた表情を浮かべた。

「隠れてろよ。」

どうやら、ついてくる許可を下ろしたようだ。

「うん」

こうして由芽子とピレカは異変が起こった人間界へと向かった。


数分間異次元空間を移動した後、人間界へと降り立つ。

「ん、ジャングルに来たぞ」

どこのジャングルかは分からないが、異変が起こっているのはこの地のようだ。

「気配を殺して進め。いいな」

「うん。」

二人は誰にも、動物にすら気取られないようにゆっくり動いていく。

「居たぞ。あれだ」

ピレカが前方にある木を指差す。

「え、あれが異変の正体?」

一見、それは何の変哲もない木だった。

「気をつけろよ。一瞬の油断が命取りだからな」

ピレカは険しい表情を浮かべている。

その木は吹き付ける風に揺れているだけで、特に怪しい点も見当たらない。

「あれのどこが危険なの?」

「お前はまだ『探知能力』が目覚めてないからわからないだろうが、あたしには分かる。あの木からは邪気がプンプン漂ってるんだ。」

探知能力というのは、物の気配を感じ取り、それが何かを判断する能力。精霊最大の能力といってもいいほど重要なものだった。

「気づかれた!」

突然ピレカが立ち上がり、バックステップを踏みながら木から遠ざかる。

「え?」

由芽子はその動きについて行けなかった。

おそるおそる前方を向く。

「ウォォォォォォォォアアアアアアアッッ」

巨大な木に、顔が生えている。腕が生えている。雄叫びをあげている。

「・・・・ッッッ!!!」

由芽子は絶叫を上げた。あまりの恐怖心に汗が思わずにじみ出る。

「由芽子!逃げろ!」

由芽子はそれを聞くととっさに判断能力を発揮し、ひたすら辺りを逃げ回った。

『大木の化物』は腕を振り上げ、木々をなぎ倒しながらピレカと由芽子に襲いかかってきた。

「なんて化物だ・・・これクラスは何年ぶりだろうか」

ピレカは焦りを見せていた。彼女らが人間界に滞在できるのは残り2時間40分。それまでにこの『大木の化物』を片付けないと、人里への侵攻を開始してしまう。

「ここがどこか分かりさえすれば、ある程度有利に戦えるんだけどなぁ・・・」

深いジャングルの中で、辺り一面が木木木。

『大木の化物』がなぎ倒した木の先にも木の海が広がっており、位置を掴めない。

「正々堂々ブッ殺すしかないみたいだなー」

そう言うとピレカは『大木の怪物』に突撃していった。

「うおおおおおおおおおおらっ!」

ピレカは『大木の怪物』の足元まで素早く移動すると、一気に空高くまでジャンプした。

「今ここで止まれ!『衝撃波』ッッ!」

ピレカは左手を『大木の怪物』の眼前でかざし、強烈な衝撃波を放った。

(すごい・・・)

茂みに隠れていた由芽子は、ピレカのパワーを見て憧れの念を抱いた。

(けど、今私には何もできない。)

「これじゃぁ・・・死なないよなぁ!?デカブツ!」

「ウォォォォォォォオアアアアアアアアッッ」

『大木の怪物』はすぐ起き上がると、巨体を活かした恐るべきパワーのなぎ払い攻撃を繰り返す。

内一発がピレカに命中し、その体を遠くまで吹き飛ばす。

「ぐあっ・・・」

木に背中を打ち付け、思わずピレカは吐血した。

「あたしが、負けてちゃ、いけないよな・・・」

それでも強い覚悟を胸に、ピレカは『大木の怪物』へと立ち向かう。