就職してほどなく父が死んだ



わたしにとって父とは深い愛と尊敬と嫌悪と侮蔑が綯交ぜになった存在で



父を思うときえも言えぬ感情が常につきまとう



幼い頃わたしは父が大好きだった



母が大好きな人だったから



そしてまたわたしは父に恋焦がれてもいた



ダイナミックで心が広く人を率いていく力があった

しなしなぜ父はあのように弱かったのだろう



母亡き後酒に溺れるようになった父は



わたしを生涯にわたって苦しめることになる継母と結婚をした



わたしにはじめに愛を与えた人は

わたしから最も愛を遠ざけたのだ



・・・・


継母は人を操ることに長けていた

家族も父の会社もいつのまにかこの継母が牛耳ることになる



姉はすぐに彼女と親しくなり



父は彼女と言い争ったあと必ず家をでて飲み歩くようになった



どんな場合でも彼女は自分を犠牲者だと言いはり



そばにいるものの居心地をわるくする



わたしは人が怒り狂う場面を見るのが苦痛で



家庭のそこ此処に埋まっている地雷をどうにかして誰も踏みませんようにと願ってすごしていた

こういった家庭のなかにいる子供は



自分が何を望んでいるかとか



あるいは何を感じているかといったことはどうでもいいことのように感じさせられる



恐怖の場面が日常化するなか



わたしは私自身へとつながる扉をひとつひとつ閉じていっていたのかもしれない



思春期の頃



わたしはどのような場面でも



決して泣くことのない少女へと育っていった



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