七月号同様、プロの画家「私」を主人公とした『開花』『耳石』『爪先』が掲載されている。
いずれも小沢信二さんによる絵をともなう表題を含め、各2節6ページの短編。
『開花』 技倆を見切っていたように感じていた、8歳年長の画家の個展で、
その変化に動揺する「私」。言葉を吐き出していた「私」の絵。
駅に向かわずに彷徨い、縁台で夜顔の開花を待つ老女と出会う。
おもわず描いたスケッチに「うまいもんだね、ほんとうに」
と言われる。
老女の孫が、「私」の前で、縄跳びを始める。
修練してできるようになった50回を披露したかったようだ。
『耳石』 ときに食べきれぬほどの量のカレーを2~3日かけて作る「私」。
残った分は棄てる。
冷凍すると、次にカレーをつくるまで、間があいてしまうからだ。
作ってるとき、「私」は絵のことを忘れている。
カウンター式の料亭などで、荒れた食事をすることもある。
「耳石」は甘鯛を頭から囓って取り出した脳内の白い石だ。
三軒目のバーで女装のママに言われる、
「仕事の悩みなど人生の悩みの半分以下」と。
酔って帰宅し、翌朝目覚めると、
描いた絵を包丁で切り裂こうとして、結局、そうしなかったようだ。
ポケットの底の耳石がキャンバスのように見えた。
『爪先』 個展が開かれるとき、
「私」は画商の吉野に言われるままに、客たちに応対する。
そんなとき、合っていないわけではない靴の、爪先に、違和感を覚える。
個展での会話で何かを感じ、
購入の礼としてその作品の素描2枚を贈った老婦人が、
これはいただけないと、返却に来る。
作品では白い彫刻のように見える骨の素描、刺激が強すぎると述べ、
でも、樹木の幹の方は素敵だと、婦人は言う。
彼女は歌人であるようで、作品集を置き、樹木の素描のみ持ち帰る。
「私」は老婦人の歌集を開こうとしてやめ、本棚に収める。
爪先の違和感はもう感じなくなっていた。
短編の粗筋を紹介して、意味があるとも思えませんが・・・。