1リットルの涙

~特別じゃないただ特別な病気に選ばれてしまった少女の記録~


どうして病気は私を選んだのだろう
将来を想像するとまた別の涙がこぼれる
お母さん 私は何のために生きているの


人間ってさ欲張りな生き物だと思わない
動物も植物も生まれた時から自分の寿命知ってるんだよな
人間だけだよ欲張って余分に生きようとするのは


私の父はお豆腐屋さんです。
父は、おじいちゃんがやっていた、お豆腐屋さんを次ぐのが嫌で違う仕事に着いたんです。
最初は市役所に勤めてたんですけどデスクワークが向いてなかったみたいで、辞めてからは色んな仕事についたそうです。あきっぽいのか何をやっても長続きしなくって、でも父は手作りで腕時計を作ってくれたり、ちょとださいけどブラウスを縫ってくれたり、それに結構、料理も上手だし・・・父はそうやって遠回りをしたけどでも何一つ無駄なことなんてなにもなくて、遠回りをしたからこそ、お豆腐屋さんになろうと思ったんです。だから寄り道をしたり遠回りしてもいいんじゃないかなって。

焦らずに色んなことに挑戦して夢中になったりして…

皆で無駄なことするのも悪くないんじゃないかな
だって私達にはまだまだ時間があるんだから

『花ならつぼみの私の人生、この青春の始まりを、悔いの無いように大切にしたい』



遠慮しないで食えよ。俺たちこうやってずっと生きてきたんだからな。
人間と犬ってのは5万年前から一緒に生きてきたんだって
人間が狩りをして生きてた頃
猛獣が近づくと犬が鳴いて危険を知らせてくれたんだよ
だから人間は安心して眠ることができた
その代わり人間は犬に食べ物を与えた
そうやって持ちつ持たれつ生きてきたってわけ

『お母さん、私の心のなかにいつも私を信じてくれているお母さんがいる。
これからもよろしくお願いします。心配ばかりかけちゃってごめんね』



ときどき自分の体が自分のものじゃないみたいに感じる
私一体どうなっちゃうんだろう


そんな古いカセットの捨てちゃえば
やーだね
そんなに医者になりたいの
やっっぱあれじゃん生きてるからには人の役に立ちたいじゃん
マジ調子悪いなあ
だから捨てちゃえば

やだよ
俺はものにもひとにもすえながーく優し男なの
おいお前何処が悪いここか?ここか?


アクアリウムの観察記録
すげえよな適度な生き物がいて適度な水草があって 
バランスがとれたアクアリウムってそれ自体で自活できる
こんなに小さくても一つの生態系がなんだよ

あ この間麻生くんのお父さんに病院であったよ
優しそうな人だね
麻生くんも将来はお医者さんになるの?

おれ医者とか向いてないから
だいたいさ人が死のうが生きようがどうでもいいじゃん
適当に死んで適当に生まれてそうやって自然ってバランスがとれてるんだし
人間だって同じだよ 別に無理して生き延びなくてもさ

そうかな
そんな風に簡単に割り切れるもんなのかな
生きるとか死ぬとかバランス取るとかそういう仕組とか
はいそうですかってそんなふうに人は簡単にわりきれないよ

そういうのは人間のエゴ

じゃあ麻生くんは自分の大切な人が病気になったり死んだりしても、それでいいっていえんの?

今日さ答えがでんの
きかなきゃいけないこと逃げずにちゃんと聞こうと思って
でもそれ聞いたらあたし変わっちゃうかもしれない
今が最後なんだ このあたしでいられるのも

お母さん
私がんばるから だから大丈夫だよ

そうね水野先生がおっしゃったように希望持ってやってこうね
難しい病気だけどできることは、いっぱいあるんだから
亜也が頑張ってるうちに特効薬や治療法が見つかるかもしれない ねっ

でもやっぱ解かんないよ なんで私なの
ねえ なんで どうして病気は私を選んだの
ねえお母さん わたし まだ15だよ
こんなのってないよひどいよ
神様は不公平だよ

病気はどうして私を選んだのだろう
運命なんて言葉ではかたづけられないよ

昨日と同じ景色を見て
昨日と同じ道を歩いているのに
私の世界はまるで変わってしまった
きっともう あんな風には笑えない
昨日までの私は、もう何処にもいない


こんなふうに少しずつ何かができなくなっていくの
目を閉じて次の日がくるのがこわい
朝が来て悪くなってると思うかもしれないのがこわい
時間がたつのがこわい

亜也 学校でなんかあった?

今日ね河本先輩に花火大会誘われちゃった。先輩の誕生日にも動物園行こうって。
どうやって断ったらいいかな
だって私 病気になっちゃったでしょ。だから先輩にも迷惑かけちゃうかも。

そんなのおかしいよ。亜也は神様は不公平だって言ったけど不公平なことしようとしてるの亜也なんじゃないの?
高校生だもん、好きな人と一緒に、花火大会くらい行くでしょ?
好きな人と一緒に誕生日を過ごしたいって思うでしょ?
それって誰もが普通に思う事だよね。
病気のせいにして出来ること自分から投げ出すなんて神様は不公平だって言った亜也がやることなの?
言ったよね 頑張るって お母さんにそう言ってくれたよね


皇帝ペンギンって子育てする夫婦は絶対に浮気しないんだって
オスが卵を温めている間、メスは餌を探しに出るんだけど
その間、どんなに腹減っても、吹雪にさらされても、ずーっと卵守って待ってんだよ
動物の親ってすげえよな

私ね歩けなくなちゃうんだって
言葉もだんだん発音がはっきりしなくなって
何言ってるか分かんなくなっちゃうんだって
最後には寝たきりになって

喋ることも食べることも
できなくなっちゃうんだって

麻生くん前に言ったよね
人間だけが欲張って余分に生きようとするって
やっぱりよくばりかな?無理に生きようとするのは間違ってるかな?

過去に戻りたい
タイムマシン作って過去に戻りたいよ


タイムマシンを作って過去に戻りたい

こんな病気でなかったら恋だって出来るでしょうに
誰かにすがりつきたくてたまらないのです


悔しくて情けなかった
自分一人で苦しめばいいのに
否応なしに周りの人までひっぱりこんでしまう


亜也もう謝るのやめよう
病気になったの亜也のせいじゃないでしょう?
誰だって病気になったら
家族の皆が助けるの当たり前じゃない

もっと堂々としてていいんじゃない?

世の中には色んな人がいるわ

亜也みたいに足が不自由な人
目が不自由な人

例えばひろきみたいにスポーツが得意なひともいれば
あこみたいに絵が得意な人

お父さんみたいに、お豆腐を作ってる人もいる

社会ってそんなふうにいろんなひとがいてなりたってるもんでしょ

ねえ亜也、身体者障害者手帳って聞いたことがある?

その手帳はね身体障害者福祉法に基いて交付されるものなの
その法律に書いてあるのはね「すべての身体障害者は自ら進んでその障害を克服し、その有する能力を活用することにより社会経済活動に参加することができるように
努めなければならない」

「努めなければならない」

亜也は努力することを社会から求められてるの
障害者手帳は亜也が社会の一員であることの証明なの

私「ごめんね」じゃなくって「ありがとう」って言葉を大切にする


もうあの日に帰りたいなんていいません
今の自分を認めて生きていきます


そろそろ寒い季節になる
私もおもいっきり走って体を暖めたい
でも、また少し歩きにくくなった


同情って人の悲しみや苦しさを自分の事と同じように思うことでしょ
きっと亜也の病気になって今いろんな人の視線を感じてると思うの

偏見や差別の視線に負けないで欲しい
乗り越えて欲しい

でもね 中には本当に思いやりをもった視線もあると思うの
それはちゃんと解る子でいてほしい
難しいことかもしれないけどね


心ない視線に傷つくこともあるけれど
同じくらい優しい視線があることもわかった

だから 私は逃げたりしない
そうすれば いつかきっと


車イスを使う生活になっても友達は全然変わらない
友達っていいな いつまでも一緒にいたい


人の役に立てる仕事がしたいな
マザーテレサかよ



私、毎朝、着替えに30分以上もかかるんです。
でも誰も助けてくれません。ここでは自分でやれる事は自分でやる事になってるから
いくら時間があっても足りないんですけど…。でもその分、時間の大切さが解るように。なったんです。
病気の事も本当に受け入れるようになれたのはここに来てからです。
確かにここの世界は外の世界に比べたら小さいけど、なくしたものばっかりじゃないですよ。

病気になったのは不幸じゃないです不便なだけ。



正直、養護学校の生徒だという自覚はまだないけれど
頑張ろう。今日からここが私の居場所なんだから。


でもどうして水槽にぶつからないで、こんなに上手く泳げるんだろう
イルカの声
声?
人間の耳には聞こえない超音波を出して跳ね返ってきた音で
周りにある物の位置を確かめてんの

その声を使って遠くにいる仲間のイルカと絵話してるらしい

ふーん私達には聞こえない秘密のおしゃべりか
聞こえないかな
人間も遠くにいる人とそんな風にしゃべれたらいいのにね


話すときに大切なのは伝えたいっていうこちら側の気持ちと
受け取りたいっていう相手側の気持ちなんだ
伝えることをあきらめちゃいけない

聞く気持ちがある人には必ず伝わるから


わたしねずっと思ってたんだ
何で亜也姉なのって わたしじゃなくて
何でだれにでも優しい亜也姉なのって
神様は意地悪だから亜也姉みたいな人を病気にしたのかな
だったら私が健康でいることにも何か意味があるのかな
私、亜也姉の代わりに東高卒業したい
亜也姉のかなわなかった夢だから
わたしなんかが亜也姉のためにできること今はこれくらいしかないんだけどね
できることあるのにしないでボーッとしてるなんて、そんなの私、絶対嫌だから


朝の光
この学校の玄関前に壁がたっている
その壁の上に朝の光が白んでみえる

いつかは見上げてそっとため息を付いた壁だ
この壁は私自身の障害
泣こうがわめこうが消えることはない

けれど この陽のあたる瞬間が、この壁にもあったじゃないか
だったら私にだって

見つけだそう 見つけに行こう

足を止めて今を生きよう
いつか失ったとしても
あきらめた夢は誰かに委ねたっていいじゃないか


人は過去にいきるものにあらず
今できることをやればいいのです


マ行、ワ行、パ行が、ン行が言い難くなってきた
声にならず空気だけが抜けていく
だから相手に通じない

最近、ひとりごとが多くなった
以前は嫌だったけど、口の練習になるから大いにやろう。
しゃべることに変わりはない。



人の役にたつ仕事がしたいと言っていたのに
日を追うごとに人の助けを借りることが多くなって
思い悩んでるようです


みんなの心は素直に心に染みる。
でもね、お母さん過ごしやすい場所が欲しい訳じゃないの
これから先、どう生きていくか そのことを考えていたの

今の私は、ただ皆の世話になるばかり
足がふらつく言葉がうまくはなせない
それでも自分の体だから自分があきらめちゃいけないんだ
私にだって私なりの未来があるはず



どうして人間は歩くのかな
人が人らしくものを考えるのは
もしかしたら歩いてる時なのかも

だって恋人同士も歩きながら 将来のこと語り合うでしょ



麻生くんへ
面と向かっては言えなそうだから手紙を書きます。
いつも側にいてくれてありがとう。励ましてくれてありがとう。
自分の夢を見つけて生き生きと輝いている麻生くんを見ると私も嬉しくなります。
いろんなことを学んで、いろんな人と出会って
あなたはこれからも、ずっとずっと生きていく
あなたの未来は無限に広がっている
でも私は違います
私に残された未来は「何とかして生きる」それだけ
たったそのことだけ この差はどうしようもありません。
毎日、自分と戦っています。悩んで苦しんで、その気持を抑えこむので精一杯です。
正直に言います。麻生くんといるとつらいです。
あんなこともしたいこんなこともしたい
もしも健康だったらできるのにと思ってしまうんです。
麻生くんといるとかなわない大きな夢を描いてしまうんです。
もちろん麻生くんのせいじゃありません。
でも、うらやましくて情けなくてどうしても今の自分がみじめになってしまうんです。
そんなんじゃ前を向いて生きていけないから。
色々してくれてありがとう。
こんなあたしのこと好きって言ってくれてありがとう。
何も返せないでごめんなさい。もう逢えません。


現実があまりにも残酷で きびしすぎて
夢さえ与えてくれない
将来を想像すると また別の涙がこぼれる

私はなんのために生きているの

わたしはどこへ行けばいい?
何も答えてくれないけど
書けば気持ちだけでも晴れてくる

求めているんだよ救いの手を
だけど届かないし 逢えもしない
ただ暗闇に向かって 吠える私の声が響くだけ


生きていていいのか?
おまえがいなくなっても何一つ残りはしない。なのに…
愛ーただそれにすがって生きている自分のなんと悲しいことよ




ひと
人間らしく生きたいと思うの
人間って何だ?
「二本足でたって火を使う動物」
と日本史では習った。

しかし、それでは車イスを使う人は人間じゃないのか?
と考えると
そうじゃない 人は日本足でたてなくても人間である限り人間なのだ

人間は心を持っている 思いやりがある


私が泣く
わたしが泣くと みんなの気が滅入る
わたしがなくと わたしは疲れる 気まずくなる
いいことなんて一つもないのに泣く?
どうして?
自分を支えるものがない
本当なら仕事にしろ趣味にしろ、とことんまで追求したい


花びらが一枚一枚開いていく
花も一度にぱっと咲くわけじゃないんだ
昨日が今日にちゃんと繋がっている事が解って 嬉しかった

お母さんわたしなんのために生きているの?

子育てって思い込みから出発してる部分があると思いませんか
わたし…つらさは代わってあげられなくても、亜也の気持ちわかっているつもりでした。
怒られちゃうかもしれないですけど亜也の日記読み返したんです。
どうして亜也なんだろうってわたしがめそめそしている間に、あの子一人で格闘して
自分を励ます言葉、一生懸命探していたんです。

親が子供を育てているなんて、おこがましいのかもしれませんね。
きっと毎日、子供達にわたしのほうが育てられているんです。


死んじゃいたいと思ってました。わたしも亜也さんと同じ病気です。
先生に治らないと言われた時は、いっぱい泣きました。
上手く歩けなくなって、学校でもじろじろ見られて、つきあっていた彼氏も離れていきました。

何で私がこんなめにあうのって、毎日毎日お母さんにあたっていました。
でも亜也さんの文章を読んで、つらいのは私だけじゃないんだと思いました。
私は病気になってから、うつむいて地面ばかり見ていたことにきづきました。
亜也さんみたいに強くなりたい。これからはつらくていっぱい泣いても、その分ちゃんと前に進みたい。
亜也さんのお陰でそう思えました。

麻生くん 私 歩けなくなっちゃった でも 役にたてたんだ



子育てって思い込みから出発している部分があると重いませんか?
私…つらさは代わってあげられなくても亜也の気持ちわかっているつもりでした。
怒られちゃうかもしれないですけど亜也の日記読み返したんです。
どうして亜也なんだろうって私がめそめそしている間に、あのこ一人で格闘して
自分を励ます言葉一生懸命探していたんです。
親が子供を育てているなんておこがましいのかもしれないですね。
私のほうが育てられてるんです。

あせるな よくばるな あきらめるな みんな一歩づつ
歩いてるんだから

自分だけが苦しいんじゃない 分かってもらえない方も 分かってあげられないほうも
両方とも気の毒なんだ

いいじゃないか転んだって また起き上がればいいんだから
転んだついでに空を見上げれば、青い空が今日も限りなく広がって微笑んでいる


でもね亜也、あなたのおかげで沢山の人が生きることについて考えてくれたのよ。
普通に過ごす毎日が嬉しくてあったかいもんなんだって思ってくれたよのよ。
近くにいる誰かの優しさに気づいてくれたのよ。

同じ病気に苦しむ人達がひとりじゃないって思ってくれたよ

あなたがいっぱいいっぱい涙を流したことは そこから生まれたあなたの言葉たちは
沢山の人の心に届いたよ