心理カウンセラーの風湖です。
「私の息子は高校を卒業した後、プロボクサーを目指して毎日練習に明け暮れていたのですが、プロになるための試合が近くなり、そのプレッシャーからか、精神的に弱ってしまいました。
もうすぐ試合なのにジムにも行かず、どこかに姿を消してしまったり、何日も眠れなかったりするようです。」
ある、50代の母親から、こんな相談を受けました。
「こんなことでは試合に勝てません。一体、どうすれば良いのでしょう?」
お話を聞かせていただくと、その息子さんはもともとはプロボクサーになりたかったわけではなく、大学受験に2度失敗してしまい、大学進学を諦めて一度は就職したらしいのです。
しかし半年も経たないうちに自分から会社を辞めて「プロボクサーになりたい。」と言い出したので、家族で応援することにしたのだとか。
息子さんは、子供の頃から運動は好きで、サッカーをやっていたらしいのですが、中学三年生の頃に試合のレギュラーから外されてからは、すっかり元気がなくなってしまい、それからは口数も少なくなっていき、家で閉じこもることが多くなってしまったらしいのです。
そんな息子さんを見て、お母さんは「なんでも上手くいかなくなると途中で投げ出す、中途半端な息子」という評価をしているようでした。
人はもともと、争うことや競うこと、戦うことをして勝つことを求めてはいません。
特にその息子さんは、性格的にはかなり優しく、平和を望む人だったのではないかなと思います。
その彼が、スポーツにしろ受験にしろ、ずっと争うことや競うことをやり続けてきた結果、挫折ばかりを経験し、そんな自分に自信を付けたいと、強いボクサーに憧れたのかもしれません。
しかし、いつからか「試合に勝つこと」が目指す目標ではなかったことに気づいたけれど、誰にも相談出来なかったのではないか。と私は思うのです。
「私は、息子がなんにでも飽きっぽく、続けられない性格だから、逃げてばかりで情けないと思っていました。ですからつい、争って勝つことを息子に強要していました。」
と、そのお母さんが言ったので、
「息子さんは、なんとかしてお母さんに認めてもらいたかったのですね。
だから、今まで必死に頑張ってきたのかもしれないですね。」
と、言うと、「そうかもしれませんね。」とうなずいていました。
まったく違う基準のものを比べたり、競争させたり、評価したりすることは、無理なことです。
何かに勝って、誰かより優れているからといって、他のどんな人よりも優秀だとは言い切れません。
人にはそれぞれ個性や持ち味があって、比べることなどできないのです。
自分が理想とする人格になるために自己研鑽をするのなら良いのです。
しかし、自分が理想とする人格や生き方、考え方を自己研鑽を積むのは、「自分の中の問題」ですから、他人と争ったり比べたりすることではありません。
人にはそれぞれ個性があるのですから、争って勝つことには何の意味もないのです。
すべての人にはそれぞれの良さがあります。
ですから、比べられないのです。
そして、比べる必要も無いのです。