心理カウンセラーの風湖です。



 絵本作家のやなせたかしさんが描いた「アンパンマン」は、子供達にとても人気がありますよね。



 アンパンマンには、ジャムおじさんや、バタコさん、カレーパンマンやしょくぱんまんなど、たくさんの仲間がいます。



 しかし、私が小さな頃に読んだ絵本の「アンパンマン」という作品は、今の明るいアンパンマンとはとはまるで違うお話だったような記憶があります。



 皆さんの中にも、とても懐かしいその絵本を読んだことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。



 確かその作品のアンパンマンは、ごく普通の人間で、顔がアンパンではありませんでした。
 1969年に発表されたその童話は、今の作品と区別するために、当時のアンパンマンは「初代アンパンマン」と、呼ばれているのだそうです。  



 初代アンパンマンは、ただ「空を飛べるだけ」の人間でした。
 そして、貧しい人や戦争中の国で飢えている子供の前に現れ、自分で焼いたアンパンを配っていたのです。



 お腹がかなり出ている中年男のアンパンマン。
 家族も仲間もいない、とても孤独な大人の男性のキャラクターでした。




 背中のマントはボロボロで、助けたはずの子供達からバカにされたり、「アンパンより、ソフトクリームの方が良かったなぁ。」などと言われてしまいます。



 それでも彼は、いつか世界に平和が訪れると自分に言い聞かせ、雨の日も風の日もアンパンを配り続けるのです。



 しかしあるとき、彼は、軍隊に敵軍の飛行機と間違われてしまい、撃ち落とされてしまうのです。
 しかも、彼の死は誰にも知られず、悲しんでくれる人もいませんでした。



 初代アンパンマンの最期は、悲惨で、救いがなく、とても寂しいものなのです。



 アンパンマンの作者、やなせたかしさんは、「アンパンマンの遺言」という自著の中で、
 「正義のための戦いなんてどこにもない」
 と言っています。



 そして、本当の正義とは、「献身」と「愛」であり、世界を救うのは、ヒーローではなく普通の人達だとも述べているのです。



 今も昔も、戦いを起こしている世界のリーダー達は、自分達が間違っているなんてこれっぽっちも思わないのではないでしょうか。



 人間は、自分達の正義を貫くために戦争を起こしているのだと、信じて疑いません。
 どんな人でも、私達はすべて、「自分が正しい」と思うから、行動に移すのです。



 しかし、争いや戦いの根源になっているもの、憎しみの根源になっているものは、正義という概念なのではないかと、やなせたかしさんは言っているのです。



 私達が、普段生活している中でもふつふつと沸き起こる、敵意や憎しみの根源には、実は「正義感」や、「使命感」というものが、とても大きく関わっているのではないかと、私も思います。



 人間関係においても、家族間においても、たとえどんな理由であれ、正当な怒りなど、この世には存在しません。



 それは、自分への怒りであっても同じです。
 


 その感情を緩ませて、「愛」と「献身」の心で、普通の人でも世界を救える、本物のヒーロー魂を持つことを心がけて生きていきたいと思っています。