心理カウンセラーの風湖です。



 「私の父親はとても厳しくて怖い人でした。若い頃からすべてが正しくなければいけないと言い続けていた人でした。」



 ある50代の女性が、自分の子供の頃のことをこう振り返ってくださいました。



 「職業柄、時間を守ることはもちろん、いろいろなルールを守ることにとても厳しく、怒って怒鳴って…。少しの間違いも許さないという父親の雰囲気が、とても怖かったですね。」



 自分に厳しい人は、必ずと言っていいほど他人に対しても厳しくなります。
 ですから、その女性が子供の頃の家の中は、空気が凍りつくほど緊張感でいっぱいになっていたのだそうです。



 「そんな父親でしたから、良い成績を取ってきても、なにかで表彰されても、私は滅多に親から褒められたことはありませんでした。」



 さらにお酒を飲んでは怒鳴り、暴れ、たびたび暴力も受けたのだそうです。



 そのように育った子供が、どのように成長するのかというと、実は、「落ち込んだり有頂天になったりと、気分の起伏が激しい大人」になっていく場合が多いのです。




 人がなにかにつけてすぐに落ち込むのも、舞い上がって有頂天になるのも、すべて同じ心の状態から来ています。




 頑張らないと褒められない、努力しないと認めてもらえないという気持ちが、「自分は大したものである」「ちゃんとした人である」「なかなかの人物である」と、他人から思われたいということに必死になるのです。




 つまり、落ち込むのは、自分が「たいした人で、ちゃんとしている人」と思われたくてしたことに対して、さほどの評価を得られなかったから。




 そして、有頂天になるのは、「自分はしっかりした人だ」と思われたいとしたことに対して、「凄い」「素晴らしい」という賞賛を浴びるからです。



 ちゃんとした人、いろんなことが自分でキチンと全部出来る人のことを多分「正しい人」と言われるのかもしれませんが、もともと人間は、そんなに正しく生きることはできないのです。




 その女性は、ずっと生きづらさを感じていたのに、そのことに気づいていませんでした。
 起伏が激しいのは、自分の性格だと思っていたのです。




 ですから私は、そのことに気がついた時から、自分が「大したものではない」「ろくなものじゃない」「ちゃんとした人間ではない」と、思うようにしたほうがよいのではないかとアドバイスしました。



 するとその女性は、だんだん毎日生きることがとても楽になっていったそうなのです。



 人間は、神様ではありませんから不完全で不十分で未熟な存在です。
 なにをやっても完全には出来ませんし、失敗ばかりです。
 


 しかし、そういうものが積み重なって、人間があるのだと思います。



 すべてが思い通りにならない今の世の中です。
 自分は大したものじゃないと思うことができたら、正しいことをしていなくても、満足した日々を過ごせなくても、落ち込むことがなくなるのではないでしょうか。




 「ぐうたらしてるね。」
 と言われても、
 「確かにそうですね。」 
 と、笑顔で答えられる人は、人生が変わる瞬間の準備が整っている、ゆったりと余裕のある人なのではないかと思います。