心理カウンセラーの風湖です。
昨日、心理セミナーに参加してくださった方々の中に、20歳の若い男性がいらっしゃいました。
彼はフィリピンからの留学生なのですが、彼は私のセミナーが終了した後に、私のところに歩み寄って来て、こう言いました。
「私の両親は私が生まれてすぐに離婚をしました。ですから、母は仕事が忙しく、私は祖父に育てられました。
私は母の愛情を感じた事はありません。そのせいで私の性格も人見知りで暗く、あまり友達も出来ません。」
つまり、「親が忙しく、愛情を注がれた記憶が無いから、自分の性格がネガティブな考え方になってしまった。どのように気持ちを切り替えたら、これから楽しく生きられるのか。」と、悩みを打ち明けてくれたのです。
このように、「現在の自分の状況は、誰かのせいだ、あるいは、過去の環境のせいだ。」と、原因を自分以外の何かに転嫁させることを「原因論」と言います。
アドラー心理学以前の、心理学における理論です。
「親が悪いから。」
「こういう境遇だから。」
言い訳をして責任転嫁をすると、その一瞬は気持ちが楽になります。
親が悪い、上司が悪い、社会が悪い。
だから自分は悪くない。
そういう事にすれば、気持ちは一瞬スッと楽になるでしょう。
しかし、誰かのせいにしていても、問題は一向に解決に向かいません。気持ちも楽になりませんよね。
ですから彼のように、ずっと長い時間悩み続ける事になってしまうのです。
「では、あなたは自分がかわいそうだと思いますか?」
と、私が聴くと、彼はびっくりしたような顔で、
「かわいそう?そうですね。他人から見ればかわいそうかもしれません。」
と、答えました。
彼は、未来の扉はもうすでに開いていて、新しい何かが自分を待っている事に気付いていないのですね。
いつまでも鍵の閉まった過去の扉をジッと見つめ、幼い子供の頃のまま、心の中で何かを叫びながら、そして涙を拭いてくれる母親の姿を待ち続け、そこにポツンと佇んでいるかのようでした。
遺伝や親の育て方を恨んでも何一つ変わらないでしょう。
世の中には、自分が生まれてすぐに両親に捨てられたり、事故などで育成者が亡くなられたりして児童養護施設でずっと育って来た方々もたくさんいらっしゃいます。
それでも、明るく自分の人生を楽しみ、自分を大切に育んでくださった施設の職員さんに感謝して、両親の愛を感じた事の無い自分が、だからこそ何を社会へ与えられるのかを考えながら、前向きに生きていらっしゃる方も大勢いらっしゃるのです。
過去を受け入れ、自分が何をどうするのかが問題であって、理解のない親や上司に責任転嫁しても、問題は解決しません。
自分自身の考え方や行動を変えていくしかないのです。
人は誰でも一つ以上はネガティブな思い出を持っているものなのです。
ただ、自分や周りの方々のために見せないようにしているだけなのではないかと思います。
もちろんその彼も、慣れない日本という国で、今までずっとその悩んでいる姿を他人に見せないようにして来たのだと思います。
しかし、何も動かずに、自分から行動せずに、いつまで待っていても、自分の人生を助けてくださる方はやって来ません。
自分から動いて、今の状況を、そして気持ちを変えていくしかないのですね。
例えば、虫歯が痛い時に、痛み止めをもらっても、虫歯は治りませんよね。
歯科医院を怖がるのではなく、積極的に自分の虫歯の治療のために行動しなければ、痛いのを我慢しながら生きていかなければなりません。
しかも、時間が経てば経つほど治りは遅くなってしまうかもしれません。
「同じような境遇の子供達を救ってあげられるカウンセラーになって下さい。それが出来るのは、その子の気持ちがわかる、あなただけなのですから。」
そのように私が彼に向かって前向きになるようにアドバイスをすると、彼は、ニッコリと笑って、「ハイ!」と、明るく返事をして帰って行きました。
育った環境は、単なる材料でしかありません。
その方がその材料を使って、これからもずっと生きにくい未来を作って行くのか、または逆に、どのように未来を生きやすいように、そして自分の経験を生かして誰に貢献できるかは彼が決めれば良いのです。
若く、悩める世界中の人達が、過去に怯える事をせずに将来の明るい夢を見て、前向きに生きていく事のお手伝いが出来るように、これからも信頼されるカウンセラーを目指して行きたいと改めて考えました。