心理カウンセラーの風湖です。

 ある20歳のプロレスラーの女性が、テレビ番組で見せたキャラクターの性格を本気にしてしまった視聴者からのSNSによる誹謗中傷をきっかけに、自らの命を絶ってしまったというニュースは本当に衝撃を受けました。

 「言いたい事があるのなら面と向かって言えば良いのに、わざわざSNSを使って相手を攻撃するなんて、卑怯な人のする事だ。」と、あるコメンテーターの方はおっしゃっていました。

 それは本当に正論なのですが、人間はそれがなかなか出来ません。噂話や悪口が無くならないのは、もしかしたら人間が他の動物に比べて、非常に高度な生物であるからに他ならないからではないでしょうか。

 人間の脳には、言語野という言葉を司る機関が存在しています。それは、人間だけに備わった機能です。人間だけが言葉を操って生活しているのです。

 他の動物達のように、人間には鋭い爪も、鋭い牙も備わっていませんから、自分の感情がコントロール出来なくなった時には、言葉を使って相手を攻撃するしか無いのです。

 ですから言葉は、武器になります。
 今回のように、使い方によっては相手を殺してしまう事も出来る物だから恐ろしいのです。

 心理学でも、言語が人間の思考に重要な役割を持っているという事は、私も認めていますし、常にみなさんに伝えています。

 以前、私のカウンセリングを受けてくださった若い女性から「面と向かって友人と話をしている時には優しく冷静に対応出来るのですが、メール上ではついケンカ口調になってしまいます。」という相談を受けた事もあります。

 それは良く理解出来ます。本来、人間は社会性の備わった生き物ですから、「建前」と「本音」とを無意識的に常に使い分けてコミュニケーションを取っているのですね。

 では、どちらが本当の自分なのでしょうか。

 相手を目の前にして気遣う「社会性を重んじた自分」でしょうか。それとも、思いついた事を平然と言える、「希薄なメール上での自分」でしょうか。

 そもそも人は、他人からの目線が気になる生物です。相手から良い人に思われたいと思えば、「良い人を演じる。」事も、容易に出来ます。ですから、犬や猫のように、面と向かって嫌いな相手に威嚇したりすぐに攻撃を仕掛けたりはしません。

 こう考えると、メールでの言動が(私が相談を受けた女性の主張するように)真の意味で「本音」なのかも怪しくなります。

 人の脳は本来、「意識や心の感情を生み出すところ」と考えてしまいますが、本来はそうではないのです。

 人間の脳は、ただ単に外部の情報を入力、処理して適切な行動を起こす、「入出力変換装置」です。

 つまり、餌ならば近寄り、毒ならば逃げると言った生命にとって大切な反射行動を生み出す装置でしかありません。

 しかし、ストレスや不安感に行動を左右されてしまう弱い私達人間は、自分の生命を守るために自分のネガティブな感情に合わせて言葉を使う方法を知ってしまいました。

 いわゆる、「抽象ラベリングの誤解」もそうです。

 「あの人は時間にルーズだから、また今日も遅刻して来た。」
「彼は優柔不断だから、とても頼りない」
「あの女優は嫌なキャラばかりを演じるから、きっと意地悪ね。」

 などの表現がそれです。

 言語によるラベル付けは便利です。それだけでもう「分かった気」になるからです。

 そして屋根や壁に守られている空間では、誰かから攻撃される事も無く、嫌われることのないSNSによって安心して言葉を安易に武器にしていまうのですね。

 私達人間に備わった、高い能力である「言葉」を、武器にするのではなく、相手を癒す「薬」にするように考えながら使って欲しいなと私は強く願っています。