心理カウンセラーの風湖です。
私の担当する心理カウンセリングに長年通って来てくださっているある男性がいらっしゃいます。
彼は、30歳の男性です。映像クリエイターで、いわゆる世界中の映画やドラマなどの配信の企画からプロデュースし、公開までする仕事をしていましたが、2年以上前にある悩みからうつ病になり、その治療にはかなり長く時間が経過してしまいましたから、現在まで全く社会生活が出来なくなってしまっていました。
私ともずいぶん長くカウンセリングを通してお話をさせていただいていたのですが、ある日、その彼がいつものように私のカウンセリングルームに入って来た途端、今まで見せた事の無いような笑顔で私にこう話してくださいました。
「先生、実は報告があります。元いた職場の上司から連絡をいただき、少しずつでもいいから仕事に復帰してほしいと言われたのです。まずは夏くらいから試験的に短時間で。そのあと様子を見ながらいつか完全に仕事に戻って欲しいと。」
私は驚きました。彼が社会復帰が出来るようになるまではまだ時間がかかると思っていたからです。
彼は、今まで見た事のないような笑顔で、私に感謝しますと言って下さいました。
それまでの睡眠障害や、食欲減退、運動不足などもだんだん良くなって来たというのです。
それでも、まだまだうつ病を完全に克服したかどうかはわかりません。気持ちが前向きになったからと言って無理をしてはいけないのです。しかし、彼の表情からはそれまで無かったやる気が感じられましたし、目の輝きが戻って来た様な気がして、私はその彼の長年の頑張りに対して尊敬し、感動しました。
私がカウンセリングの仕事をしていて、本当に嬉しいと思う瞬間は、このようなクライアントさんの表情が見られた時なのです。
ところで、2013年にオックスフォード大学の人工知能知能研究者マイケル・A・オズボーン准教授らが「雇用の未来」という論文を発表しました。
この論文によると、これから20年以内に調査した702種の仕事のうち役半分が人工知能に取って代わられるというのです。
その中でもメンタルヘルス・カウンセラーは「なくならない仕事」の上から数えて第25位なのだそうです。そして、仕事が無くなる可能性は0.48%なのだそうです。
ところが、最近の発表では、そのカウンセラーでさえも人間がやる必要はなくなる可能性があるとも指摘されているのです。
何故なら、人工知能カウンセラーは感情がないと想定されるからなのだそうです。
カウンセリング中に貧乏ゆすりをしない、時計をチラチラ見ない、こちらの話にいつまでも真剣に耳を傾けてくれるとかの理由からなのですね。
とくに精神疾患の患者さんには、そういう細かな言動も気になる人も少なくありません。
人工知能のカウンセラーならばそうした人間同士の違和感を最小限に減らす事も出来ますから、すでに精神科医のなかには、「人工知能カウンセラーの方が治療効果は高いだろう。」と考えている人もいるというのです。
別の視点から見ると、意外な仕事がロボットでも出来てしまう事を知って驚きます。
しかし私は、「人間らしさ」がもたらすコミュニケーションのストレスも、悪い側面だけではなく、やっぱり人を成長させるプロセスには必要なのではないかと思うのです。
マイナス要素を上手くプラスに適用させて、その人の糧に出来る事も脳の特性だからです。
「カウンセラリングの時にいつも1番心地よい言葉をかけてくれる」イコール「良いカウンセラー」だとは必ずしも言えません。
最初に話に出した彼のように、心から喜びを感じたり、尊敬したり、感動する、感謝する、謝罪するなどの湧き立つ思いを感じる事は、人工知能には不可能だと思います。
逆に言えば、「ついイライラしてしまう」とか、「ちょっとした言葉にムッとする」とか、「面倒だから後にする」と言った、相手の「人間らしさ」を感じられるからこそ、その相手の姿から学ぶ事も多いような気がします。
私は今まで、「動物に出来ないが人間には出来る。」事を「人間の能力」だと考えて来ましたが、これからは人工知能に出来ない事と比較して人間らしさを判断するように方向転換していかなくてはならないのだと思うのです。
それと同時に、私のライフワークである、心理カウンセリングも、もっと人間ならではの泥臭さが湧き出るような、五感を駆使した感動的な仕事にしていきたいと思うのです。
私は、長い時間をかけて自分のうつ病と向き合い、少しずつ自分の人生を作り上げて行こうとしていらっしゃる皆さんを尊敬し、これからもずっと応援していくつもりです。