第一話
『物語の始まり(ゲームスタート)』
俺は薄暗い部屋で目覚めた。
「いてててて……」
頭を軽く打ったようで、少しクラクラする。
それもすぐに回復してくれたので、辺りを見回した。
「ここ……何処だ?」
ここが何処なのか検討もつかない。辺りは暗くて何も見えないほどだが、足元が軽く見えたから、目を凝らして床を覗き込んだ。
足元の床には爪と同じくらいの大きさで、字がズラリと並んでいる。不気味に思うくらいびっしりと。
「床は石碑か? 字は漢字……いや、古代文字、昔の文明で使われていた文字かな」
そこに書かれていたのは高校生になったばかりの俺が習っていない文字ばかりだった。
しかし、俺は中学の時こんな字を歴史の教科書で見たことがある。
「確か……漢字の元になった甲骨文字だったかな? ……でも微妙に違う気がする」
甲骨文字なら、中学生の時に暇だったので解読したことがあるから、頑張れば読めるだろう。
でも、今はそんなことをしている場合ではないな。ここに書かれた文字をすべて解読するには時間がかかりすぎる。
「俺はなにをしていたんだろう……」
まずはそこが大事なことだな。
気を失うまでの記憶を思い出してみる。
「そうだ! 俺は今日発売になったパソコンの
八割程度は思い出した。
まず、実を言うと俺こと
小学生の頃は、運動好きで勉強もかなり出来ていた方だが、中学に入りスポーツはどれも簡単すぎてすぐ飽きてしまい、勉強も毎回満点近くを取ってしまいつまらなくなったのだ。
中学に上がると小学生時代のちやほやはなくなり、完全に俺は天才として周りから見られていた。さらに、髪の毛が茶髪ということで喧嘩をふっかけられてばかりだったので友達もろくにいなかった。
そんな俺に話しかけてきた男が、一緒に『楽園』を買いに行った新庄修人だ。
修人は完全に『オタク』と言っていいほどで、普通なら天才の俺と絡むのもおかしいのだが、何故かやたらと俺に絡んできて、ぱそこんげーむと呼ばれているものを進めてきた。
断る理由も特になかったので仕方なくパソコン研究部に行って、パソコンを貸してもらい、そのげーむをプレイしてみた。
最初は適当にしていたが、すぐにそのげーむにはまってしまい、一日もかからずクリアしてしまったほどだ。
俺も修人と同じでバカだったんだろうな。今ではよく断らなかったなと思う。
話がそれたが、その後は……その帰り道で我慢できなかった俺と修人は開封して説明書を読んでいた。
最後のページがノリみたいなもので貼り付けられていたから、中を見るために剥がしたはずだ。
そこで俺の記憶は途切れた。
「……って百パーセントその説明書に貼り付けられていた最後のページのせいだろ!!」
怪しいとは思ってたんだ。新品を購入したのに説明書が貼り付けられているはずがないからな。それがもし欠陥品ならわかるけど。
「EIは壊れてないかな」
俺は右の袖を肘まで捲る。そこには小型の機械端末、EIがついていた。
EIとは略称であり、本当はエレクトロン・インフォメーションと言い、電子情報と呼ばれる機械端末だ。
名前の通り、膨大な量の情報をこの端末一つでほとんど見ることができる。国家機密や個人情報などはブロックされる場合が多い。
簡単に言えば、パソコンを小さくしてブレスレットにしたものだと思ってくれたら想像できるだろう。
大抵の人はどちらかの腕に装着するブレスレットみたいなもので、俺も右腕に着けている。
どうでもいいことだが、これはずっと操作をしている時に、着けている方の腕が吊りそうになるから、空中での使用はあまりしたくない。
しかし、そんなことも言ってられないので、空中で腕を平にしたままピッ、ピッと左手で軽く操作してみた。
「良かった、壊れてないみたいだ」
不幸中の幸いか、EIは壊れていなかった。
これには位置情報をどこにいても強い電波で受信するという優れた機能もついている。その機能を使えば、俺の現在地がわかるはずだ。
再びEIを操作して、位置情報がわかる画面までしたのだがそこに映し出されたのは、
「
画面いっぱいという大きなエラーの三文字だった。
おかしい。いや、普通のEIなら特別おかしなことはない。稀にたくさんの人が同時に同じ操作をすれば、一度エラーと出ることもある。
だが、俺の所有しているものは改造を施してあって必ずエラーが表示されることはないのだ。
何度やってみてもエラーとしか出てこない。これは
「ようこそ、
俺がEIの故障を直していると、突然背後から声をかけられた。
敵か? 俺はゆっくりと振り向きながら戦闘態勢にはいった。
「身構えなくても大丈夫ですよ。それにしても今の反応……やはり逸材ですね」
暗さで顔が見えないが、声の高さからして女だろう。
「お前誰だ?」
「
彼女が自己紹介するのと同時にボッと明かりがついた。その光はライトや提灯などではない。炎だ。彼女の手の上に火の球が出来ている。
俺はさらに警戒心を強めた。この女なかなかできるぞ。
明かりがついたことによって彼女の容姿が見えてきた。顔は幼く背がかなり小さいので年齢は俺より年下だろう。口調から想像していた人とは正反対だ。
……警戒する必要あるか?
「大丈夫です。私は戦闘用の人間ではないので安心してください」
「……わかった。後、知り合ったばっかだけど、いくつか質問していいか?」
「えぇ、私に答えられるのならいいですよ」
「まず、ここがどこか知ってるか? 俺のEIで位置情報がつかめないんだが……。それと俺がなんでここにいるか知らないか?」
彼女は持ってきていたろうそくに作り出した火を灯して語りだした。
「ここは
そこで一度言葉をきり、今度はさっきよりゆっくり言い放った。
「そしてあなたは楽園のたった一人のプレーヤーに選ばれました」