ひょっとしたら涙を流しているかもしれない。自らの不甲斐なさに。

望月さあやというのはそういう人だ。

 

本人も表立って言っているわけでもないし、公式に何かアナウンスされたわけでもないから、あんまりそのことを言われるのも本人の気に召さないところはあるだろうが、とはいえ実際にライブを見ている客からすれば、全く誤魔化せていない、誰にでもわかるくらいにバレているのだから、ここに書いてみたってかまいやしないだろう。

もっちゃんはちょっと体調を崩している。特に昨日の定期公演「あけさい」VOL.4はなんとかステージはこなした、というくらいに崩している(流行病、ということではない。検査済みと聞いている)。

 

普段は曲ごとに表情をコロコロとよく変える、顔での演技も彼女の持ち味の一つだが、昨日は彼女がいっぱいいっぱいの時によく浮かべる、目を細めた笑顔が張り付いたような表情のまま、多くの時間を過ごしていた。

そして、MCに入るとだいたいは急いでステージから姿を消し、しばらくして戻ってくる、そんなことを繰り返していた。

それでもなんとか最後までステージに立ち続け、特典会も用意してもらった椅子に座りながらではあるが、券を持った客がいなくなるまでしっかりこなし、そして他のメンバーに先駆けて退場していった。

 

昔から、ステージに対する責任感とでもいうのか、ステージに立ち十全にパフォーマンスを行うことについて、強すぎるくらいの拘りを持つ人だ。

だからこそ、まずはどのような形でも、曲がりなりにもステージに最初から最後まで立ち続けられた、そのことに最低限の安堵はしているだろうし、そのような形でしかパフォーマンスが出来なかったことについて、それを客に見せてしまったことについて、自分を責めすぎるくらいに責めているだろうし、悔しくてたまらないのだろう。

 

生きていれば体調がいい時も悪い時もある、均せば3日に1回くらいはライブのある生活をしていれば、たまたま体調が悪い日もある、ステージに立つのがままならない日もある。たとえば夜中に遊び惚けてその結果体調を崩した、なんて話であれば別であろうが、そうでもなければ全く仕方ないし、勿論誰も責める人などいやしないのだが、もっちゃんはそんな自分をおそらく許さない。

昨日などは最初から最後まで曲がりなりにもステージに立っていた、それだけで本当によく頑張った、と言ってあげたい気持ちはこちらは山々なのだが。

安くないチケット代(「あけさい」は1,000円で入れるため、まあ安いのだが)を払って、時間を作って、自分を見に来てくれている、そんな客に対して自分の100%を見せられない、心配すらさせてしまう、他のメンバーや運営にも気を使わせてしまう、いろいろサポートしてもらってしまう、そんな自分は許せないだろう。

 

そんな思いを全く持たなくていいわけではないだろうが、どうにもそのような時に自分に対して厳しすぎる。

しかし望月さあやはいつでもどこでもステージに対して真っ直ぐすぎる人であり、熱すぎるくらいの情熱を持つ人であり、何を言っても彼女がそう思うことは変えられない、それもまたわかっている。

 

このような日は特典会に行けば、こちらも当然ながら少しくらいは体調不良について触れる。そうすると、まず謝ってくる。こんな姿を見せてしまって申し訳ないと、泣きそうな顔で謝ってくる。

こんな日や、たとえば他の日で、自分やグループが十全にしっかりとパフォーマンスをすることが出来なかった、そのように彼女が思った日は、まず謝ってくる。あまりにもステージに対し、クソ真面目なのだ。

そんなもっちゃんをまた、心底信用できるとは思う。そのような人だから推しているのだろうとは思う。こちらができることなど、せいぜいは次のライブまでに回復を願うこと、あとは心配を全くしないわけではないにしても、し過ぎないようにするくらいだ。心配をされることにもまた申し訳ないと思ってしまう、もっちゃんだから。

 

昨日はそんなもっちゃんを、周りのメンバーがよくサポートしていた。

こういう時にまず頼りになる、上手く立ち回ってくれるのは、やはりアイドルとして前歴のあるみねちゃんなのだが、昨日もMCをもっちゃんの代わりによく回しながら、ステージ脇に目線を送り、あるいはステージからはけてよく状況確認をしに行き、もっちゃんの回復を待つようにMCを適度に伸ばし、対応していた。

曲中ももっちゃんのソロパートでは一緒に歌って支えていた。普段であれば勿論もっちゃんが一人でやるところではある。今日はそうやって行こうと事前に取り決めていたのだろう。

一番目立って上記の動きが見えたのはみねちゃんだが、他のメンバーも同様に、状況を逐一確認しながら、もっちゃん自身とも目を合わせたりして気を使いながら、臨機応変に上手くもっちゃんを支え、だからと言って極力それを感じさせないようにしながら、楽しく、しっかりひとさいのライブをしていた。

 

ちゃんとグループになって来たなあ、そんなことを思っていた。

ステージに立つだけで本当にいっぱいいっぱいだった新兵を2人も抱えていたデビュー時のステージと比べ、ずいぶんと逞しくなったものだとしみじみ感じていた。

他のメンバーのことを気にかけながら、それでもしっかり客のほうを向いてライブができる。新兵だった2人、ともかもみーあんも立派に初心者は卒業だろう。

お互いを見ながら、状況を感じ、それに合わせて適切に対応しながらライブができる。アイドルとして上手くなっている証拠だろうし、互いの関係性が出来上がって来た証拠でもあるだろう。

ひとさいというグループが、ただの個の集まりでない、「グループ」になって来たな、そんな気がした。他のメンバーの体調不良など、当然しないに越したことはない経験だが、未来永劫避けられるものでもなく、そしてこのようなアクシデントを乗り越えて得られるもの、稼げる経験値もあるだろう。

そしてもっちゃん推しとしては、もちろんただただありがたい。しっかり支えてくれて嬉しい。もっちゃんはもう一人じゃない、こうやってしっかり支えてくれる仲間がいる。

 

アイドルのライブにおけるコールというのは、本質的にはやはり応援であると思う。

野球場やサッカー場などで応援歌を歌う、選手の名を叫ぶ。そうやって応援する。選手を、チームを勇気づける。声を出すという行為によって、俺たちは一緒に戦っているんだ、俺たちがついているぞ、さあ頑張れ、そんな気持ちを表現する。それと同じ部分というのが核ではないかな、そう思っている。別にアイドルはステージ上で明確に敵、相手と戦っているわけではないが。

 

この意味のほかに、そのアイドルの名前を叫ぶことによって好意を伝えるということもあるだろうし、お決まりの文句をタイミングをはかりながら客が一体となって叫ぶ、そのこと自体が特に地下アイドルのライブでの楽しみ方でもあるということも、また事実ではあるのだが。

それでも僕は本質的には、応援であると思う(異論は認める、というか、ほとんど異論ばかりかもしれないが)。

 

あけさいは客側の声出しが可能な公演となっている。

コロナ以後、一時的には声出しは完全に不可能となり、今でもまだ声を出せるライブのほうが少ないくらいで、だからかつてはすべてのライブで馬鹿みたいに叫びまくっていた僕もかつての感覚はまだ取り戻せていない。

また、コロナ後に結成されたグループであるひとさいは、まだ確立されたコールというものもあまりなく、正直手探りでやっている。かつてのようにすべてのライブが声出し可能であるなら、勝手にコールなんてものは現場で構築されていって、何を考えずとも勝手に叫ぶようになっていくのだが。

あけさいを重ねながら、なんとかこの期間でついてしまった錆を落とすように、毎回汗をかいて声を出している。少しはまともに声を出せるようになってきた、声を出して楽しめるようになってきた気がする。

 

楽しいライブであれば勝手に声出しも気合が入る、勝手にエンジンがかかるのだが、昨日の大変そうなもっちゃんを見ても、やっぱり気合が入った。まさしく応援の意味である。

昨日はまずその意味で気合が入り、そして、ステージ上でもっちゃんが中心になって周りをメンバーがぐるっと囲み、全員が胸の前で指で四角を作った瞬間、さらにエンジンがかかった感触があった。つまりはLevel.1だ。

もっちゃんが中心の曲や、ダンスの激しい曲は軒並み外したセットリストになるかと勝手に思っていたのだが、この曲を、ああ、やるか、もっちゃん、頑張るかあ、そう思った瞬間、さらに自分の中でのギヤが1段上がった気がした。

もっちゃんの意識が飛びそうになるならコールでたたき起こしてやる、そんなわけのわからないことを思いながら、腕をぶん回し必死にもっちゃんの名前を叫んでいた。もっちゃんが最後まで持ちますように、少しでもいいライブが出来ますように、頑張ろうぜ、楽しもうぜ、そんな思いを駆け巡らせながら。

 

まったく勝手な思いである。

かつて、もっちゃんの前世、あすとろでもっちゃんが体調不良でライブを休んだ時などは、もっちゃんのパートを代わりにやってくれるメンバーの名前をライブで叫んでいたりして、そんな僕の様子を見てもっちゃんは「私が休んでいるときのほうが楽しそう」などと言っていたものだ(そんなわけあるかよ、馬鹿なことを言うなと真っ向から否定したし、当たり前だが推しのいないライブがいるライブより楽しいわけはない)。

それも勝手に、推しの代わりにやってくれるメンバーに対して、全力の感謝と応援の意味を込めてやっていた。

本当にまったく勝手な思いだ。

 

昨日感じたことをつらつらと書いた。

あけさいはあと3度もある。楽しい空間があと3度ある。どうか楽しくなってほしいし楽しく過ごしたい。まあ、それだけだ。