
- アイデア・ハンター―ひらめきや才能に頼らない発想力の鍛え方/日本経済新聞出版社

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ぼくの評価





(アイデアを軸に歴史上の人物や経営者などを引用して深くまとめられている。革新的なサービスや製品、イノベーティブな組織作りを目指している人やベンチャー企業のリーダーにはおすすめの一冊)
本書は、ひらめきやアイデアについて深く掘り下げた一冊である。
アイデアに関する本はいくつかあるが、本書のメッセージは
「突き抜けたアイデアはつねにそれを探している者のところにやってくる」である。
アイデアはハンティング、つまり狩りに出ないと得られないという。
エジソンやディズニーが歴史に名を残し、アップルやピクサーがヒット作を生み出せたのもアイデアのヒントを常に探し続けていたからだ、というのが本書の主張である。
ハンティングには、様々なことに興味を示す好奇心と行動力が欠かせないという。
本書に出てくる人物は、歴史に名を残す著名人から存命の実業家、企業まで多岐にわたるが、これらの人物や企業に共通点が見られることを簡単なエピソードと共に紹介している。
主な登場人物を挙げてみよう。
ウォーレン・バフェット(投資家。バークシャー・ハサウェイ会長兼CEO)
ウォルト・ディズニー(ウォルト・ディズニー・カンパニー創業者。ミッキーマウスの生みの親)
ヘンリー・フォード(フォード・モーター創業者。自動車を大衆化させることに成功した大量生産を発明)
トーマス・エジソン(発明家。電球を発明したことなどで知られる。メモ魔として知られ、生涯で書き記したノートは一冊200ページのノートが2500冊にも及んだという)
アルバート・アインシュタイン(物理学において20世紀最高の功績を残したといわれる天才物理学者。一般相対性理論と特殊相対性理論はあまりにも有名)
ドクター・フレッシュ
サム・ウォルトン(世界最大の小売業者であるウォルマートの創業者)
クラレンス・バーズアイ(食における最も偉大な発明と言われる急速冷凍の発明者)
フィル・シラー(米アップル ワールドワイドプロダクトマーケティング担当上級副社長。iPodのクリックホイールの考案者といわれる)
グーグル(検索エンジン世界最大手)
ティム・オライリー(オライリー・メディア創設者。Web2.0提唱者)
マイルス・デイビス(通称「モダン・ジャズの帝王」)
ポール・エルデシュ(ハンガリー出身の天才数学者)
ロアール・アムンセン(ノルウェーの探検家。人類初の南極点到達に成功)
ジム・コック
ジャック・ヒューズ
ジャック・ドーシー(Twitter創業者。創業前は車両の配送会社を経営しており、そこからTwitterの構想を得たという)
リッツ・カールトン(世界展開しているホテルチェーン。利用客をとにかく観察し、データベース化していることで知られる)
エド・キャットムル(ピクサー社長)
トワイラ・サープ
スティーブ・ジョブズ(米アップル共同創業者。ピクサー元会長。先日自身が創業したアップルの時価総額が史上最高を更新した)
本書を読むとこれら著名人がもっと身近に感じることができるようになる。
アイデアとは発明、イノベーションなどを生み出す源泉であり、それは知的好奇心や驚きの探求であるという。
本書にこんな文章がある。
-本書48P3行目より-
好奇心旺盛な人物というのは、つねに驚きを求めている。そして、それを進んで受け入れ、何かを学ぼうとする。このような姿勢をもつと、ものの見方は大きく変わる。好奇心があれば、いろいろなことを当たり前だと思わなくなるからだ。ありふれたものであっても、そこに何か特別なものを見いだす。こうしてイノベーションの扉は開かれる。なぜなら、ある状況では当たり前のアイデアも、別の状況では特別なものになる可能性があるからだ。
-本書49P11行目より-
「好奇心旺盛で何事にも夢中になる人間には、神秘的なことが起こる。一風変わったひらめきからさまざまなことが結びつき、新たな洞察が生まれる。その結果、目の前のプロジェクトを改善、刷新し、わくわくするものに変える能力が飛躍的に高まるのだ」
わくわくする物や驚きを求める、これはアイデアや発明に欠かせない要素だという。
アイデアの源泉と言ってもいい。
発明やイノベーションの源泉はアイデアであり、アイデアの源泉はわくわくする心や驚きを求める好奇心だ、といえるだろう。
-本書47P5行目より-
仕事における知的好奇心とは、自分の仕事の改善につながりそうな事柄すべてに興味をもちつづけることを意味する。常識的に考えれば、頭のよい人ほど優れたアイデアを思いつきそうなものだ。だが私たちの経験では、組織にとってたしかに頭のよい人たちは大切だが、自分たちの賢さを過大評価しがちである。そこに好奇心という要素がなければ、自身の成功の方程式に固執し、もっと優れたアイデアのために狩りに出かけることをしない。要するに、彼らには好奇心が足りないのだ。
逆に好奇心があれば、特別頭がよくなくても十二分に挽回できる。アルバート・アインシュタインのような天才ですら、こんな心強い発言をしている。「私には特別な才能など何もない。ただ猛烈に好奇心が旺盛なだけだ」。これこそ、きわだった成功を収める人によく見られる、非常に顕著な特徴だ。
このようなことから仕事においても好奇心がいかに大切かがわかる。
では、ここからは本書が主張するアイデアハンターにとって欠かせない4つの要素を紹介しよう。
1.とことん興味をもつ
2.間口を広げる
3.トレーニングを欠かさない
4.しなやかさを保つ
1.とことん興味をもつ
興味をもつとは好奇心と同義と考えていいだろう。
好奇心についてはこれまでも述べてきた。
この章で印象に残った人物はウォーレン・バフェットだ。
バフェットは好奇心と探究心が旺盛で、アイデアを重視する人物だという。
-本書53P2行目-
「私はこれまで取り立てて頭がよいわけでも、まじめでもない人たちが大きな成功を手にするのを見てきた。ただ、彼らはみな〈学習マシン〉だった。そして毎晩床に就くときには、朝起きたときよりも少しだけ賢くなっていた。これは本当に大きな違いを生む。特に君たちのように、先の長い人たちの場合は」
(中略)
「強い興味を持てないことにおいては、そこそこうまくやれるようになるかもしれないが、決して秀でることはできない」
(中略)
バフェットは恩師であるコロンビア大学のベンジャミン・グラハムの教えをもとに、株価変動ではなく、収益や総資産といった指標が示す企業の本質的な価値に注目した。
-本書55P10行目-
・バフェットは実際の投資活動に費やすのと同じくらいの時間を、思考や学習に投じてきた。多少の誇張はあるが、マンガーによるとバフェットは、自分の時間の半分をイスに座って情報を読むこと、残りの半分を信頼する相手との対話に充てているという。
・バフェットのアイデア収集は徹底している。頭のよい人間と話をし、さまざまな研究をする。そこには定量的・定性的な研究から、どこかの書庫でほこりをかぶっているような資料をあさるなど、誰も思いつかないような分野を調べることまでが含まれている。彼の生活は、使えそうなアイデアにつながる情報収集を軸にまわっている。
・バフェットのアイデア探しは、目的が非常に明確だ。単にウォール・ストリート・ジャーナルを読むのではなく、だれよりも早くそれを入手する方法を編み出した。そうすることで、ほかの投資家よりも早くアイデアを手に入れることができるからだ。早い話、バフェットのアイデア探しの対象は、単にカネを儲ける方法ではなく、バリュー投資という目的に資するアイデアに絞られていた(おもにバフェットが探していたのは、ある会社の株価が過小評価されていることを示唆する情報だった)。
・ほかの優れたアイデアハンターと同じように、バフェットは進んで他人のアイデアを利用した。「凡人は模倣し、天才は盗む」と語ったとされるパブロ・ピカソと、おそらく同じ意見なのだろう。
2.間口を広げる
エジソンはまったく縁がなさそうな情報源にも興味を持つ人物だったという。
そして類推能力こそが発明のカギだと考えていたようだ。
事実彼は、伝達文が電報設備を通って伝わるのを見て、同じように電流が電線やフィラメントを通って伝わる仕組みを構想した。
これが電球の発明につながったとマイケル・ゲルブとサラ・ミラー・キャルディコットは著書Innovate Like Edisonに書いている。
ダイバーシティは人種、民族、教育、職業的バックグラウンド、年齢によって、その人が形成する考え方やアイデアが変わってくる。
こうしたアイデアの個性がイノベーションにつながる情報源の幅広さにつながるのである。
アクセンチュアの研究によると企業の収益性をはじめとするさまざまな指標において、多様性のある経営陣のほうが優れていることが長期間の比較により明らかになったという。
アクセンチュアによる2010年夏のレポートによると、「経営陣は多様な視点を理解し、重視し、それにもとづいて行動する必要がある。つねにこれまでのやり方を疑い、イノベーションを阻む集団思考に抗わなければならない」と、している。
それと本章でもうひとつ注目すべきは「弱い絆を利用する」ことだろう。
本書でいう弱い絆とは社会ネットワーク理論において、自分の生活とは直接的に接しないソーシャルグラフでいう「友達の友達」以上の外の輪の存在である。
これらを弱い絆と表現したこの理論は、イノベーションのヒントや重要な情報はこうした弱い絆からもたらされるというのだ。
強い絆の場合その人物の考え方をおおよそ理解している場合が多く、近い価値観の元に強い絆としている場合が多いからだ。
-本書86P4行目-
生理学者のロバート・ルート・バーンスタイン、芸術家のミシェル・ルート・バーンスタイン夫婦は共著書の中で「”類推する”というのは、二つ以上の異なる現象や現象群を見て、その内部の関係性や機能に共通点があるのを見抜くことだ」と定義している。二人は「独創と革新のための十三の思考ツール」の一つに、類推を含めている。ほかには、観察、統合、共感などがある。
3.トレーニングを欠かさない
世界最大の小売業者ウォルマートを創業したサム・ウォルトンは、競合店に足を運び、うろつくのを習慣にしていたそうだ。
従業員を捕まえ、質問攻めにする。
そしてウォルトンは競合店で学んだ使えそうなアイデアを自分の店でとにかく試していたという。
アイデアを探し、試してみる。失敗してもそこからなにか気づきを得て、アイデアをまた探す。
ウォルトンはこれを習慣化していたという。
-本書108P5行目-
日ごろの練習は絶対に欠かせない。なぜなら、アイデアはつねにそれを探す習慣のある者のところにやってくるからだ。それにもかかわらず、アイデアはひと握りの天才のところにしか舞い降りないと考えたり、逆に特別な刺激を与えたり準備などしなくても、どこからともなく降ってくるものだと思っている人は多い。いずれの考えにも多少の真実はあるが、優れたアイデアハンターの実例を完全に無視している。例えば、サム・ウォルトンの成功の要因は、独創的な天才だったことより、アイデアを探し続けていたことのほうが大きい。
(中略)
こうした能力を身につけた者は、ほかの人々と比べてブレークスルーのチャンスを手にする可能性が高い。アイザック・ニュートンが、リンゴが地面に落ちる(頭の上に落ちたという説もあるが)のを見たのは偶然だっただろう。だが、リンゴが落ちるのをみた科学者はニュートンが初めてではなかったはずだ。そこからニュートンが「運動の法則」を思いついたのは、準備を怠らず、つねに新たな発見に目を光らせていたからにほかならない。つまり〈狩り〉の態勢を整えていたのである。
4.しなやかさを保つ
-本書144P5行目-
ここで一つ、意外感のあるメッセージを言わせてほしい。「アイデアハントの目的は、必ずしもすばらしいアイデアをただちに手に入れることではない」と。むしろアイデアを起動し、それが広がりをもち、熟し、変形したり、またほかのアイデアとぶつかったり組み合わさったりすることで発展するように仕向けることが目的である。このようにして最高のアイデアが生まれるのだ。
ピクサーは新しい作品を生み出すにあたって重要なのは、優秀で才能あふれるチームはもちろんだが、アイデアではなく、アイデアフローにあるという。
ピクサーの創業者エド・キャットムルは、2008年9月のハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事で次のように述べている。
「一本の映画には、文字通り何万ものアイデアが詰め込まれている。脚本の一行一行、一つひとつのセリフまわし、キャラクターやセットや背景の設定、カメラの配置、色彩、照明、テンポといった一つひとつのアイデアがまとまって形になったものだ」という。
では、アイデアをどうやってフローの状態にしておくかといえば、それは価値のありそうなアイデアが飛び交う場所に身を置くことだという。
ピクサーの本社はそうした独創性やアイデアがフローとなり活発に飛び交う設計となっていることで有名だ。
設計は同社を創業したひとりである、アップル元CEO、そうあのスティーブ・ジョブズである。
社員の交流を促したいと考えたジョブズは、本社の中央にアトリウムを設けた。
完成した社屋を見て建築設計の概念からアトリウムは無駄遣いと考えた者もいたようだ。
しかし事実、ピクサーはその本社からたくさんのヒット作を生み出してきた。
会話が生まれやすく、アイデアの湧き出る可能性を最大限に高める設計となっていたのである。
そしてもうひとつ、この章で重要なことに触れている。
アイデアをいかにつぶすか、である。
しっかりとしたアイデアフローが生まれれば、アイデアはどんどん積み上がってくる。
これはプロジェクトやイノベーションの初期段階では、大原則としてアイデアは多ければ多いほどよい。
しかし問題の本質はそのアイデアを形にするために絞り込んでいく必要があることだ。
-本書168P4行目-
スタンフォード大学の経営科学・工学教授であるロバート・サットンは、スティーブ・ジョブズがカリフォルニア州サニーベールのヤフー本社を訪れたときの様子を書いている。ジョブズはヤフーの経営陣と話をするために招かれたのだ。(サットンは居合わせた経営陣の一人からこの話を聞いた)。会議のなかで、つまらないアイデアをどう排除するか、という話題が出た。するとジョブズはこう語ったという。「そんなのは簡単で、だれにだってできる。本当に難しいのはよいアイデアをつぶすことだ」。実際、それは避けては通れない。
ジョブズが言わんとしていたのは、アイデアを成功させるには関心(もしくは資源)をとことん集中することが不可欠で、そのような扱いのできるアイデアの数は限られている、ということだ。優れたアイデアの多くもボツにしなければならない。
「難しいのは、生き残ったアイデアがきちんと実行に移され、その可能性が最大限生かされるようにするために、心を鬼にして選定作業をすることだ」。サットンは「トップは優れたアイデアをもっと殺せ」と題したブログの記事にこう書いている。
この「殺す」という表現を少し変えたい。”もうおしまい”という印象が強すぎるからだ。すでに書いてきたとおり、古いアイデアはアイデアハンターにとって貴重な情報源になる場合もある。だから棚にしまっておくなど、どこかに保存しておく必要がある。きわだって革新的な会社は、意識的にそうした作業を行なっている。棚上げされたアイデアが復活し、別の機会にアイデアフローに戻ってくるケースはめずらしくない。
ただし、ジョブズやサットンの指摘は肝に銘じておいてほしい。ある段階まで来たら、よいアイデアもイノベーション・プロセスから排除しなければならない。さもないと、プロセス自体を台無しにしてしまう。さらに問題なのは、そうしたアイデアが最終製品まで残ってしまうケースだ。その場合、製品は多くの機能を盛り込みすぎた、焦点のぼやけたものになってしまう。
ここまでアイデアについて体系的にまとめられた書物は少ないだろう。
これらアイデアやイノベーションを重視する革新的な企業は、これまでの日本の企業にはあまり見られなかったことだ。
これからの企業に求められる力は革新力だと思う。
本書でも指摘しているとおり、優秀な人材も大事だが、アイデアを許容し、育て、製品やサービスへと導く革新的な組織が求められている。
そんな革新的なアイデンティティをいかに組織の中に組み込んでいくか。
そこを問われている時代なのである。
アップルのように企業文化そのものを革新に満ちた組織にするのは並大抵のことではないが、特定の部署を設けるところから始めてもいいとぼくは思う。
事実そうした企業は業績を伸ばし、そうでない企業は衰退している。
これは紛れも無い事実だ。
あなたの企業はどのくらい革新的なことを試みているだろう。
イノベーションを軸に今の仕事を見直してみるのもおもしろい。
日本から世界を驚かすような製品やサービスが生まれることを願って。





