ビジネススキル向上のための書評ブログ -3ページ目

ビジネススキル向上のための書評ブログ

日々の読書で感じたITやテクノロジー、経済などビジネスに関する様々なジャンルの書物を独自の観点で評価していく書評ブログです。

第80回となる今回は、アイデアを生み出し続けるフレームワークについて考えるこちら


アイデア・ハンター―ひらめきや才能に頼らない発想力の鍛え方/日本経済新聞出版社
¥1,680
Amazon.co.jp

ぼくの評価☆☆☆☆☆☆
(アイデアを軸に歴史上の人物や経営者などを引用して深くまとめられている。革新的なサービスや製品、イノベーティブな組織作りを目指している人やベンチャー企業のリーダーにはおすすめの一冊)


本書は、ひらめきやアイデアについて深く掘り下げた一冊である。

アイデアに関する本はいくつかあるが、本書のメッセージは
「突き抜けたアイデアはつねにそれを探している者のところにやってくる」である。

アイデアはハンティング、つまり狩りに出ないと得られないという。
エジソンディズニーが歴史に名を残し、アップルピクサーがヒット作を生み出せたのもアイデアのヒントを常に探し続けていたからだ、というのが本書の主張である。

ハンティングには、様々なことに興味を示す好奇心と行動力が欠かせないという。
本書に出てくる人物は、歴史に名を残す著名人から存命の実業家、企業まで多岐にわたるが、これらの人物や企業に共通点が見られることを簡単なエピソードと共に紹介している。

主な登場人物を挙げてみよう。


ウォーレン・バフェット(投資家。バークシャー・ハサウェイ会長兼CEO)
ウォルト・ディズニーウォルト・ディズニー・カンパニー創業者。ミッキーマウスの生みの親)
ヘンリー・フォードフォード・モーター創業者。自動車を大衆化させることに成功した大量生産を発明)
トーマス・エジソン(発明家。電球を発明したことなどで知られる。メモ魔として知られ、生涯で書き記したノートは一冊200ページのノートが2500冊にも及んだという)
アルバート・アインシュタイン(物理学において20世紀最高の功績を残したといわれる天才物理学者。一般相対性理論と特殊相対性理論はあまりにも有名)
ドクター・フレッシュ
サム・ウォルトン(世界最大の小売業者であるウォルマートの創業者)
クラレンス・バーズアイ(食における最も偉大な発明と言われる急速冷凍の発明者)
フィル・シラー(米アップル ワールドワイドプロダクトマーケティング担当上級副社長。iPodクリックホイールの考案者といわれる)
グーグル(検索エンジン世界最大手)
ティム・オライリー(オライリー・メディア創設者。Web2.0提唱者)
マイルス・デイビス(通称「モダン・ジャズの帝王」)
ポール・エルデシュ(ハンガリー出身の天才数学者)
ロアール・アムンセン(ノルウェーの探検家。人類初の南極点到達に成功)
ジム・コック
ジャック・ヒューズ
ジャック・ドーシーTwitter創業者。創業前は車両の配送会社を経営しており、そこからTwitterの構想を得たという)
リッツ・カールトン(世界展開しているホテルチェーン。利用客をとにかく観察し、データベース化していることで知られる)
エド・キャットムルピクサー社長)
トワイラ・サープ
スティーブ・ジョブズ(米アップル共同創業者。ピクサー元会長。先日自身が創業したアップルの時価総額が史上最高を更新した)


本書を読むとこれら著名人がもっと身近に感じることができるようになる。

アイデアとは発明、イノベーションなどを生み出す源泉であり、それは知的好奇心や驚きの探求であるという。
本書にこんな文章がある。


-本書48P3行目より-
好奇心旺盛な人物というのは、つねに驚きを求めている。そして、それを進んで受け入れ、何かを学ぼうとする。このような姿勢をもつと、ものの見方は大きく変わる。好奇心があれば、いろいろなことを当たり前だと思わなくなるからだ。ありふれたものであっても、そこに何か特別なものを見いだす。こうしてイノベーションの扉は開かれる。なぜなら、ある状況では当たり前のアイデアも、別の状況では特別なものになる可能性があるからだ。


-本書49P11行目より-
「好奇心旺盛で何事にも夢中になる人間には、神秘的なことが起こる。一風変わったひらめきからさまざまなことが結びつき、新たな洞察が生まれる。その結果、目の前のプロジェクトを改善、刷新し、わくわくするものに変える能力が飛躍的に高まるのだ」


わくわくする物や驚きを求める、これはアイデアや発明に欠かせない要素だという。
アイデアの源泉と言ってもいい。
発明やイノベーションの源泉はアイデアであり、アイデアの源泉はわくわくする心や驚きを求める好奇心だ、といえるだろう。


-本書47P5行目より-
仕事における知的好奇心とは、自分の仕事の改善につながりそうな事柄すべてに興味をもちつづけることを意味する。常識的に考えれば、頭のよい人ほど優れたアイデアを思いつきそうなものだ。だが私たちの経験では、組織にとってたしかに頭のよい人たちは大切だが、自分たちの賢さを過大評価しがちである。そこに好奇心という要素がなければ、自身の成功の方程式に固執し、もっと優れたアイデアのために狩りに出かけることをしない。要するに、彼らには好奇心が足りないのだ。
 逆に好奇心があれば、特別頭がよくなくても十二分に挽回できる。アルバート・アインシュタインのような天才ですら、こんな心強い発言をしている。「私には特別な才能など何もない。ただ猛烈に好奇心が旺盛なだけだ」。これこそ、きわだった成功を収める人によく見られる、非常に顕著な特徴だ。



このようなことから仕事においても好奇心がいかに大切かがわかる。

では、ここからは本書が主張するアイデアハンターにとって欠かせない4つの要素を紹介しよう。

1.とことん興味をもつ
2.間口を広げる
3.トレーニングを欠かさない
4.しなやかさを保つ


1.とことん興味をもつ

興味をもつとは好奇心と同義と考えていいだろう。
好奇心についてはこれまでも述べてきた。
この章で印象に残った人物はウォーレン・バフェットだ。
バフェットは好奇心と探究心が旺盛で、アイデアを重視する人物だという。


-本書53P2行目-
「私はこれまで取り立てて頭がよいわけでも、まじめでもない人たちが大きな成功を手にするのを見てきた。ただ、彼らはみな〈学習マシン〉だった。そして毎晩床に就くときには、朝起きたときよりも少しだけ賢くなっていた。これは本当に大きな違いを生む。特に君たちのように、先の長い人たちの場合は」
(中略)
「強い興味を持てないことにおいては、そこそこうまくやれるようになるかもしれないが、決して秀でることはできない」
(中略)
バフェットは恩師であるコロンビア大学のベンジャミン・グラハムの教えをもとに、株価変動ではなく、収益や総資産といった指標が示す企業の本質的な価値に注目した。


-本書55P10行目-
バフェットは実際の投資活動に費やすのと同じくらいの時間を、思考や学習に投じてきた。多少の誇張はあるが、マンガーによるとバフェットは、自分の時間の半分をイスに座って情報を読むこと、残りの半分を信頼する相手との対話に充てているという。
バフェットのアイデア収集は徹底している。頭のよい人間と話をし、さまざまな研究をする。そこには定量的・定性的な研究から、どこかの書庫でほこりをかぶっているような資料をあさるなど、誰も思いつかないような分野を調べることまでが含まれている。彼の生活は、使えそうなアイデアにつながる情報収集を軸にまわっている。
バフェットのアイデア探しは、目的が非常に明確だ。単にウォール・ストリート・ジャーナルを読むのではなく、だれよりも早くそれを入手する方法を編み出した。そうすることで、ほかの投資家よりも早くアイデアを手に入れることができるからだ。早い話、バフェットのアイデア探しの対象は、単にカネを儲ける方法ではなく、バリュー投資という目的に資するアイデアに絞られていた(おもにバフェットが探していたのは、ある会社の株価が過小評価されていることを示唆する情報だった)。
・ほかの優れたアイデアハンターと同じように、バフェットは進んで他人のアイデアを利用した。「凡人は模倣し、天才は盗む」と語ったとされるパブロ・ピカソと、おそらく同じ意見なのだろう。




2.間口を広げる

エジソンはまったく縁がなさそうな情報源にも興味を持つ人物だったという。
そして類推能力こそが発明のカギだと考えていたようだ。

事実彼は、伝達文が電報設備を通って伝わるのを見て、同じように電流が電線やフィラメントを通って伝わる仕組みを構想した。
これが電球の発明につながったとマイケル・ゲルブとサラ・ミラー・キャルディコットは著書Innovate Like Edisonに書いている。

ダイバーシティは人種、民族、教育、職業的バックグラウンド、年齢によって、その人が形成する考え方やアイデアが変わってくる。
こうしたアイデアの個性がイノベーションにつながる情報源の幅広さにつながるのである。

アクセンチュアの研究によると企業の収益性をはじめとするさまざまな指標において、多様性のある経営陣のほうが優れていることが長期間の比較により明らかになったという。
アクセンチュアによる2010年夏のレポートによると、「経営陣は多様な視点を理解し、重視し、それにもとづいて行動する必要がある。つねにこれまでのやり方を疑い、イノベーションを阻む集団思考に抗わなければならない」と、している。


それと本章でもうひとつ注目すべきは「弱い絆を利用する」ことだろう。

本書でいう弱い絆とは社会ネットワーク理論において、自分の生活とは直接的に接しないソーシャルグラフでいう「友達の友達」以上の外の輪の存在である。
これらを弱い絆と表現したこの理論は、イノベーションのヒントや重要な情報はこうした弱い絆からもたらされるというのだ。

強い絆の場合その人物の考え方をおおよそ理解している場合が多く、近い価値観の元に強い絆としている場合が多いからだ。


-本書86P4行目-
生理学者のロバート・ルート・バーンスタイン、芸術家のミシェル・ルート・バーンスタイン夫婦は共著書の中で「”類推する”というのは、二つ以上の異なる現象や現象群を見て、その内部の関係性や機能に共通点があるのを見抜くことだ」と定義している。二人は「独創と革新のための十三の思考ツール」の一つに、類推を含めている。ほかには、観察、統合、共感などがある。


3.トレーニングを欠かさない

世界最大の小売業者ウォルマートを創業したサム・ウォルトンは、競合店に足を運び、うろつくのを習慣にしていたそうだ。
従業員を捕まえ、質問攻めにする。
そしてウォルトンは競合店で学んだ使えそうなアイデアを自分の店でとにかく試していたという。
アイデアを探し、試してみる。失敗してもそこからなにか気づきを得て、アイデアをまた探す。
ウォルトンはこれを習慣化していたという。


-本書108P5行目-
日ごろの練習は絶対に欠かせない。なぜなら、アイデアはつねにそれを探す習慣のある者のところにやってくるからだ。それにもかかわらず、アイデアはひと握りの天才のところにしか舞い降りないと考えたり、逆に特別な刺激を与えたり準備などしなくても、どこからともなく降ってくるものだと思っている人は多い。いずれの考えにも多少の真実はあるが、優れたアイデアハンターの実例を完全に無視している。例えば、サム・ウォルトンの成功の要因は、独創的な天才だったことより、アイデアを探し続けていたことのほうが大きい。
(中略)
こうした能力を身につけた者は、ほかの人々と比べてブレークスルーのチャンスを手にする可能性が高い。アイザック・ニュートンが、リンゴが地面に落ちる(頭の上に落ちたという説もあるが)のを見たのは偶然だっただろう。だが、リンゴが落ちるのをみた科学者はニュートンが初めてではなかったはずだ。そこからニュートンが「運動の法則」を思いついたのは、準備を怠らず、つねに新たな発見に目を光らせていたからにほかならない。つまり〈狩り〉の態勢を整えていたのである。



4.しなやかさを保つ

-本書144P5行目-
ここで一つ、意外感のあるメッセージを言わせてほしい。「アイデアハントの目的は、必ずしもすばらしいアイデアをただちに手に入れることではない」と。むしろアイデアを起動し、それが広がりをもち、熟し、変形したり、またほかのアイデアとぶつかったり組み合わさったりすることで発展するように仕向けることが目的である。このようにして最高のアイデアが生まれるのだ。


ピクサーは新しい作品を生み出すにあたって重要なのは、優秀で才能あふれるチームはもちろんだが、アイデアではなく、アイデアフローにあるという。
ピクサーの創業者エド・キャットムルは、2008年9月のハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事で次のように述べている。
「一本の映画には、文字通り何万ものアイデアが詰め込まれている。脚本の一行一行、一つひとつのセリフまわし、キャラクターやセットや背景の設定、カメラの配置、色彩、照明、テンポといった一つひとつのアイデアがまとまって形になったものだ」という。

では、アイデアをどうやってフローの状態にしておくかといえば、それは価値のありそうなアイデアが飛び交う場所に身を置くことだという。

ピクサーの本社はそうした独創性やアイデアがフローとなり活発に飛び交う設計となっていることで有名だ。
設計は同社を創業したひとりである、アップル元CEO、そうあのスティーブ・ジョブズである。
社員の交流を促したいと考えたジョブズは、本社の中央にアトリウムを設けた。
完成した社屋を見て建築設計の概念からアトリウムは無駄遣いと考えた者もいたようだ。

しかし事実、ピクサーはその本社からたくさんのヒット作を生み出してきた。
会話が生まれやすく、アイデアの湧き出る可能性を最大限に高める設計となっていたのである。


そしてもうひとつ、この章で重要なことに触れている。
アイデアをいかにつぶすか、である。

しっかりとしたアイデアフローが生まれれば、アイデアはどんどん積み上がってくる。
これはプロジェクトやイノベーションの初期段階では、大原則としてアイデアは多ければ多いほどよい。
しかし問題の本質はそのアイデアを形にするために絞り込んでいく必要があることだ。


-本書168P4行目-
スタンフォード大学の経営科学・工学教授であるロバート・サットンは、スティーブ・ジョブズがカリフォルニア州サニーベールのヤフー本社を訪れたときの様子を書いている。ジョブズヤフーの経営陣と話をするために招かれたのだ。(サットンは居合わせた経営陣の一人からこの話を聞いた)。会議のなかで、つまらないアイデアをどう排除するか、という話題が出た。するとジョブズはこう語ったという。「そんなのは簡単で、だれにだってできる。本当に難しいのはよいアイデアをつぶすことだ」。実際、それは避けては通れない。
ジョブズが言わんとしていたのは、アイデアを成功させるには関心(もしくは資源)をとことん集中することが不可欠で、そのような扱いのできるアイデアの数は限られている、ということだ。優れたアイデアの多くもボツにしなければならない。
「難しいのは、生き残ったアイデアがきちんと実行に移され、その可能性が最大限生かされるようにするために、心を鬼にして選定作業をすることだ」。サットンは「トップは優れたアイデアをもっと殺せ」と題したブログの記事にこう書いている。
 この「殺す」という表現を少し変えたい。”もうおしまい”という印象が強すぎるからだ。すでに書いてきたとおり、古いアイデアはアイデアハンターにとって貴重な情報源になる場合もある。だから棚にしまっておくなど、どこかに保存しておく必要がある。きわだって革新的な会社は、意識的にそうした作業を行なっている。棚上げされたアイデアが復活し、別の機会にアイデアフローに戻ってくるケースはめずらしくない。
 ただし、ジョブズやサットンの指摘は肝に銘じておいてほしい。ある段階まで来たら、よいアイデアもイノベーション・プロセスから排除しなければならない。さもないと、プロセス自体を台無しにしてしまう。さらに問題なのは、そうしたアイデアが最終製品まで残ってしまうケースだ。その場合、製品は多くの機能を盛り込みすぎた、焦点のぼやけたものになってしまう。




ここまでアイデアについて体系的にまとめられた書物は少ないだろう。

これらアイデアやイノベーションを重視する革新的な企業は、これまでの日本の企業にはあまり見られなかったことだ。

これからの企業に求められる力は革新力だと思う。
本書でも指摘しているとおり、優秀な人材も大事だが、アイデアを許容し、育て、製品やサービスへと導く革新的な組織が求められている。
そんな革新的なアイデンティティをいかに組織の中に組み込んでいくか。
そこを問われている時代なのである。

アップルのように企業文化そのものを革新に満ちた組織にするのは並大抵のことではないが、特定の部署を設けるところから始めてもいいとぼくは思う。

事実そうした企業は業績を伸ばし、そうでない企業は衰退している。
これは紛れも無い事実だ。

あなたの企業はどのくらい革新的なことを試みているだろう。
イノベーションを軸に今の仕事を見直してみるのもおもしろい。

日本から世界を驚かすような製品やサービスが生まれることを願って。






ペタしてね   読者登録してね
第79回となる今回は、株式上場でも話題になったライフネット生命の創業秘話を綴ったこちら

ネットで生保を売ろう!/文藝春秋
¥1,500
Amazon.co.jp

ぼくの評価☆☆☆☆☆☆
ライフネット生命の創業物語。100億円を超える資金調達。壮大な創業計画は緻密な計画を日々コツコツと積み上げ、成し遂げられる)


本書はマザーズ上場でも話題になったライフネット生命の創業物語である。

ライフネット生命は生命保険業界でも名を上げた出口治明氏とハーバードビジネススクールを卒業した岩瀬大輔氏が立ち上げた会社である。

話は岩瀬さんハーバードビジネススクールを卒業して日本に帰国してから始まる。
あすかアセットマネジメントの谷家さんとの出会い、のちにライフネット生命の社長となる出口さんとの出会い、金融庁との許認可の折衝など、生命保険会社がどのように立ち上がっていくかが手に取るようにわかる内容だ。

lifenet


特に注目が集まっているのは岩瀬さんの経歴だ。
ハーバードビジネススクールを上位5%の優秀な成績で卒業すると与えられるベイカー・スカラーを所有している人なのである。これは日本人で4人目の快挙だ。

本書で特にぼくが印象付けられたのは2人のその人柄にある。

出口さんは還暦を超え、世間でいう定年退職を迎える年なのにも関わらず、ライフネット生命を創業し、毎日多忙な日々を送っている。

社員や岩瀬さんからの人望も厚く、社長らしい強烈な個性がなく、むしろ少しおちょくられることもあって読んでいておもしろいし、共感が持てる。
それだけでなく出口さんは業界の常識にとらわれないユニークな考え方を持っていたり、時には本質をズバッと突いてくる聡明さも併せ持っている、そんな人物だ。

一方、岩瀬さんは超がつく高学歴にも関わらず、エリート特有のプライドの高さを放つことはなく、飾らない自然体の姿が印象的だ。
たまに冗談も飛び出すような温かい人柄で、本書の文章も時に茶目っ気があっておもしろい。
悩みがあったら思わず相談したくなるような兄貴のような印象だった。



ぼくはこれまで何度か岩瀬さんの著書を書店で手にとったことはあったが、購入したのは初めてだ。

なぜ購入したかといえば、ライフネット生命が上場したニュースが大きかった。
生命保険業が許認可業であることは知っていたが、ネットで生命保険を売るというビジネスモデルがわずか数年で上場を果たしたことに驚いた。
生命保険についてはずぶの素人のぼくにもそのすごさはすぐわかった。

それにしてもずっとひっかかっていたのは、ハーバードビジネススクールでベイカー・スカラーを取るほどの人がなぜ副社長をしているのだろう、という疑問である。

しかし、そんな疑問は本書を読んで吹っ飛んだ。
理由は先ほども触れた岩瀬さんの性格と人柄にある。

学歴やこれまで積んできたキャリアが上だから上司になるべきだとか、逆に低いから社員止まりだとかそんな固定概念はいらない、ということではないかと思う。

もちろん能力や経験、人格はキャリアが高ければ高いほど洗練されているだろう。
しかし、企業の目的はあくまで事業の継続的拡大と顧客の創造である。

ベイカー・スカラーを取るほどの人物なのに社長という最高権限のポストとプライドをあっさりと捨てられる柔軟性が素晴らしいと思う。
ぼくもこんな考え方ができる人物になりたいと素直に尊敬の念を抱いた。



本書を読んで感じたのは、いかに生命保険会社を立ち上げるのが大変かということ。

生命保険は許認可の事業であるため、思いつきでいきなり事業を興してスタートできるわけではない。
金融庁に出向いて許可を得なければ事業を営んではいけないことになっている。

特に驚いたのは、金融庁の許認可をめぐるやりとりが想像以上に膨大な量でいかに大変かということだ。
最後に独立系生命保険会社に免許交付されたのが昭和9年で、計画段階で見積もっていた最低限必要な資本金が100億円ほどだったというから、いかに壮大な計画かがわかるだろう。

認可を得るまでにはあらゆる可能性を想定したリスクヘッジが金融庁から求められ、千本ノックの質問攻めと表現されるほど、緻密なビジネスモデルを構築できなければ立ち上げることはままならないようだ。

しかしそれほどまでに打ち込む生命保険業界のマーケットは大きく、ざっと40兆円にも及ぶ。
これはやりがいも十分にありそうだ。



それともうひとつ感じたことは、生命保険をネットで売る難しさである。

生命保険を対面で営業を受けたことがある人はわかりやすいかもしれないが、生命保険の商品はとにかく複雑で理解するまでに時間がかかる場合が多い。

一人ひとりライフスタイルが違うから、当然なのかもしれないがもっとわかりやすくならないものかと感じる人は多いのではないだろうか。
さらに営業めいた対面販売はなんとも苦手だ、という人も多いのかもしれない。
ぼくもそんな一人だ。

ぼくはどちらかというと、情報を全部提示してもらって理解できないところは質問して本当に必要なもの、必要ではないものを自ら判断したい性分である。

特に対面となるとプロフェッショナルな人であれば、そういったニーズを満たす売り方をしてきてくれるのかもしれないが、そうでない人も少なからずいるだろう。
そういうのは聞いててたまらなくなってくる。

しかも一応デジタルネイティブ世代に近いので、生命保険がネットで売られていてもなんの疑問も感じない。
むしろ中間マージンを削られている分だけ、コストパフォーマンスが高いのでは?という視点から入っていける。

そういうこともあり、ネットで生命保険が申込までできるというのはかなり魅力的だ。
むしろこれからはこちらの方が主流になっていくのでは?と思うほどだ。





ネットでモノを買い、サービスを買う。
そんなことはもうすでに当たり前になっている。

特に今の消費者はとにかく賢い。

定額制でネット見放題の時代になって随分経つが、この恩恵でどれだけの情報を仕入れられるようになったことか。

これまで何十年も同じビジネスモデルを貫いてきた企業は、一部だけでもビジネスモデルを見直すべきではないだろうか。
過去から現在においていかに安定した売上と収益を上げていても、必ず変化は潜んでいる。
数年後に廃業にまで追い込まれるほどの変化の種が潜んでいないとも限らないのだ。

常にそんな視点をもってビジネスを見ていると、衰退する企業の影に急成長する企業が現れる姿が見て取れ、起業家たちはさらに情熱を燃やすのである。


ペタしてね   読者登録してね
第78回となる今回は、スタートアップや新事業を効率的かつリスクを最小限に検証・実行し、成功に導くためのシリコンバレー発の新しいマネジメント手法を説いたこちら


リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす/日経BP社
¥1,890
Amazon.co.jp

ぼくの評価☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(時代と共にテクノロジーが進化するようにマネジメントも進化しなければならない。スタートアップを成功に導くための新しいマネジメント手法)


本書は主にシリコンバレー、サンフランシスコなどを拠点に活動するアントレプレナーであり、ベンチャーキャピタルのアドバイザーであり、ハーバードビジネススクールのアントレプレナー・イン・レジデンスとしても活躍する著者エリック・リースが提唱する「リーン・スタートアップ」をまとめた一冊である。

手にとってまず惹きつけられたところは、冒頭の「はじめに」で著者が初めてのスタートアップで失敗をしたことを惜しげも無くさらけ出し、その後のスタートアップで成功を収めているという経歴だ。
本書内には頻繁にIMVUという企業が出てくるが、これは著者が後に関わったスタートアップで本書の元となったリーン・スタートアップを実践して成功を収めた企業である。

IMVU
http://www.imvu.com/

さらに本書の最後にはデジタルガレージ共同創業者であり現在はMITメディアラボ所長の伊藤穣一氏が解説を加えるスタートアップにとっては注目すべき一冊である。


リーン・スタートアップは、1980年代にMITが日本の製造業を研究した成果として知られているリーン生産方式が元になっている。

リソースが少なくスピードが重視されるベンチャー経営において、顧客が必要としない製品づくりを避けるため、構築から検証までを最短化し、チームの生産性を高めると共に、正しい方向に進んでいるかを検証し、方向転換(本書でいうピボット)するか否かの判断やそのタイミングなど、立ち上げからその後の成長までにどのような問題や解決策があるかを解いていく。

リーンスタートアップのアプローチは構築ー計測ー学習のフィードバックループをいかに短く早く回し、顧客が真に求める製品をいかに効率良く生み出せるかというアプローチに主眼をおいたマネジメント手法である。

読み終えて実感したことは、スタートアップに限らずあらゆる規模の組織の新規事業に応用することができ、事業を成功へと導くための施策が包括的に書かれていて内容一つ一つがとても深くまとめられている点が印象的だった。

冒頭では新時代のマネジメントやマネジメントの第二世紀などと表現され、誇大だと感じる人もいるかもしれないが、読破してみるとそれにふさわしいほどの出来だとぼくは感じる。




まずは目次を元に本書の構成を紹介しよう。

第1部 ビジョン
 第1章 スタート
 第2章 定義
 第3章 学び
 第4章 実験

第2部 舵取り
 第5章 始動
 第6章 構築・検証
 第7章 計測
 第8章 方向転換(あるいは辛抱)

第3部 スピードアップ
 第9章 バッチサイズ
 第10章 成長
 第11章 順応
 第12章 イノベーション
 第13章 エピローグー無駄にするな
 第14章 活動に参加しよう


本書の中に出てくる言葉として注目すべきなのは、

構築ー計測ー学習のフィードバックループーピボット(後述)をいつすべきなのか、そろそろすべきなのか、あるいは今のまま辛抱すべきなのかはこの操縦プロセスを通じて学ぶことができる

価値仮説ー顧客が使うようになったとき、製品やサービスが本当に提供できるか否かを判断する基準。そのサービスにどのくらい時間とお金を使ってくれるのか。それは顧客に聞いてみるのが一番だ

成長仮説ー新しい顧客が製品やサービスをどう捉えるかを判断する基準

アーリーアダプターー新しい商品やサービスが登場したとき、それを早期に購入、採用、受容する顧客層。失敗に寛容でフィードバックを返してくれることが多い層でもある。キャズムなどにも登場する有名な顧客層。

MVP(Minimum Viable Product)ー実用最小限の製品

革新会計ー進捗状況を正確かつ客観的に測る新しい手法。従来の管理会計や財務会計と違ってスタートアップに適した基準

学びの中間目標ー革新会計によって得られる中間目標

行動につながる評価基準ー革新会計と学びの中間目標の結果を元に次の行動を決める。決して虚栄の評価基準を元にしてはならない

虚栄の評価基準ー従来の評価基準の数値だけを参考に、成長していると錯覚して危険に陥ること

検証による学びースタートアップが陥る不確実性という土壌において進捗を的確に測る方法。これによりピボットするか辛抱するか判断する

ピボットー方向転換。大きな決断を迫られるときだ

バッチサイズー構築ー計測ー学習のフィードバックループを一回転させるまでの大きさ。バッチサイズを小さくすることはトヨタの有名なアンドンに通じ、短くなればなるほど強固なものになる

5回のなぜ?ー5回なぜ?を繰り返すと問題の本質が見えてくる。安易に使おうとすると失敗するが

3つの成長エンジン
 粘着型成長エンジンー顧客の離反率(ある期間において自社製品を使い続けるのをやめた顧客の割合)や解約率に注目する。新規顧客の獲得速度が解約速度を上回れば成長する。この場合の成長速度は、自然成長率から離反率を引いた割合の複利になる。この複利の割合が大きいとすさまじい速度で成長する

 ウイルス型成長エンジンーオンラインのソーシャルネットワークのようにマーケティングの大半を顧客がしてくれる。ウイルスが伝染していくように、製品の認知が人から人へと急速に広まっていく(口コミとは違う)。特徴は顧客が製品を使うとその副作用として自動的に成長していく。本書では事例としてマイクロソフトに買収されたホットメールを挙げている。ホットメールは成長するのに苦労していたが、文末に「追伸。あなたも無償のホットメールを使ってみませんか?」という1文とリンクを加えたことで急成長した。
この成長エンジンは、ウイルス係数の回転スピードが求められる。係数が大きいほど製品が急速に広まる。新しく登録した顧客一人あたり何人の顧客が新たに製品を使うようになるかが指標となる

 支出型成長エンジンー支出が前提となる成長エンジン。顧客は生涯を通じてある金額を払ってくれる。ここから製品になる変動費を引いた残りが、その顧客の生涯価値(LTV)となる。この収益を広告を買うという形で成長に投資することができる。
仮に広告に100ドルかかり、結果、50人が契約してくれたとしよう。すると顧客獲得単価(CPA)は2ドルとなる。ここで商品のLTVが2ドルを超えていれば成長が得られる。この成長エンジンの回転速度を決めるのは、LTVCPAの差(限界利益)である。この成長エンジンはポピュラーのものでもあり、小売業や営業部隊を抱えた企業などもこれに当てはまる




では、ここからはぼくが個人的に印象に残った3項目を紹介しようと思う。


1.MVP

リーン・スタートアップを理解する上でまず重要なのはMVPだろう。
MVPがなぜ必要最小限の機能に集約しているかといえば、それはアーリーアダプターを前提に製品開発を進めるべきだという仮説があるからだ。

新製品を真っ先に使いたがるこれらは、情報に敏感で製品を真っ先に評価したがることやその評価をシェアしたがるという性質を持っている。
ベータ版であればベータ版なりの評価を下し、単純にそのサービスが欲しいかいらないのかという貴重なフィードバックをくれる。


そしてもうひとつ重要なことは、
検証による学びが得られるギリギリのレベルまでしか作りこんでいなければ、投資した資金や人員などを最小限に抑えることができ、早ければ早いほどピボットを含む事業の選択肢が多く残ることだ。

仮に顧客が欲しがらない製品を作り始めてしまっているとしよう。
その先には失敗しかなく悪夢のような現実しか見えてこないが、実はそのサービスは一人のエンジニアが一日に何個も生み出しているサービスの一つだったらどうか?
ではその規模が100人で開発期間も長期にわたっているとしたらどうだろう?

結果は語らずともわかるが、このフィードバックループが一回転するまでの長さを本書ではバッチサイズと表現している。


MVPのアプローチは前に紹介したサムスンの戦略にも似ている部分があると思う。

製造業において、需要がない製品を開発してしまうリスクから生じる損失は大きい。
それだけ製造業はムダな製品を生み出すリスクに敏感だということだろう。

リーン・スタートアップはそんな製造業から生まれたリーン生産方式というリスク管理手法を新規事業の立ち上げに応用することで、革新的なサービスの需要を予測することがいかに難しいかを早期のフィードバックという形で強調している。

事業の計画段階で急成長が確信できるビジネスなどまず滅多に存在しないし、存在したらそれはすでに形になっている場合が多いだろう。

そういったことから、仮説をブラッシュアップするよりもMVPを作るべきだというアプローチになるのだと思う。



2.アンドン自動発動

アンドンは日本語の行灯(あんどん)からきており、部品に欠陥があるなどその場で解決できない問題に気づいたら、誰でも組立ラインを止めて助けを求められるトヨタが生み出した仕組みだ。ラインを何度も止め、スムーズな流れを乱してしまうため違和感もあるかもしれないが、それでも問題を早期に発見して対処するメリットのほうが、ラインを止めるコストよりも大きいことがアンドンの最大の特徴である。
実際トヨタはこの仕組みにより高品質で低コストな製造ラインを実現している。

この誰でも止められるこのアンドンの仕組みが自動で発動するように著者はIMVUで実行していたそうだ。

本書にあったわかりやすい例としては、ショッピングサイトなどにおける「購入ボタン」が人的ミスでなくなってしまったら・・・という例だ。
確かに事業としてはかなりの致命傷であることが容易に想像できる。

こういった事業に大ダメージを与える人的ミスはどんな事業にも起こりうる。
そんな致命的ミスを自動で排除する仕組みを構築しようというのがアンドン自動発動だ。

アンドン自動発動を導入検討する場合、おそらく重要なのはその人的ミスを発見するのが人であってはいけないという点だと思う。
つまり消してしまった1秒後にアンドンが自動的に発動され、チーム全員に通知される仕組みになっていなければならないということだろう。

これはスタートアップにとっては事業の成否が左右されるほど重要だと思う。



3.成長エンジン

成長エンジンについては先程も触れた3つの成長エンジンがあり、自分が関わる事業がどこに当てはまるか理解することが必要だ。

しかしそれだけでは足りない。

仮に3つのどれかの成長エンジンの軌道に乗り、成長していたとしても安心してはいけないと著者は釘を刺す。
成長エンジンの軌道に乗って成長していてもそれが踊り場に差し掛かることはかなり高い確率で起こりうるし、ピボットが必要になる場合も少なからずあるというのだ。

IMVUもそういった局面があったそうだ。

その真因はアーリーアダプター向けに製品開発を注力した結果、肝心のメインストリームの顧客へ移行していく際に製品のピボットが必要だったというのだ。
メインストリームの顧客は、求めるものが違うだけでなく要求も厳しい。

だったら最初からあらゆる顧客層に受け入れられる製品を作ればよかったじゃないか、という声が聞こえてきそうだが、おそらくそれはリーン・スタートアップのアプローチから外れてしまうのでNOだ。

リーン・スタートアップにおけるMVPのアプローチは前にも述べたように、バッチサイズを短くすることでフィードバックを早期に得ることが前提になっている。
つまりこのメインストリームの顧客へ商品を販売する頃にはかなりのフィードバックを蓄積しており、確かな製品へと成長しているはずだ。

MVPによるフィードバックループでムダな製品を作らない仕組みを採用しているリーン・スタートアップの場合、製品によってはこういった顧客セグメントに応じた製品の成長が求められるのだと思う。
これは決して遠回りではない。
むしろ不確実性が高い状態から持続的な事業へ成長させるためには、確実なアプローチだと捉えるべきだろう。




本書は読むとわかるが隅々まで精巧に書かれており、かなり濃密な内容となっている。
つい最近考えついたなどというレベルではなく、それこそリーン・スタートアップにおける構築ー計測ー学習のフィードバックループを何年も重ね、まとめ上げた傑作だろう。

文章はあのピーター・ドラッカーの影響を受けている印象があるし、もちろん最新のテクノロジーに造詣が深いことも印象的だ。

スタートアップにおける失敗、成功どちらも体験した著者がこのような理論をまとめ、提唱していることは示唆に富む。
それだけ今の時代のスタートアップは技術力やアイデアよりもマネジメントが重要だということを実感したからなのだろう。


あのGoogleでさえ、エリック・シュミットが参画していなければおそらく今のGoogleはないだろう。
それは創業者らも認めているし、それだけ彼が果たしたマネジメントの功績は大きい。

しかし本当に注目すべきは、Googleの創業者らが創業当時に持っていたペイジランクなどの技術を世界規模に広げるというビジョンのために、CEOという最重要の役職さえも譲ったということだ。

これはなかなかできることではないが、いま確実に言えることは、あの頃のGoogleにはそういったマネジメントが必要だったのだ。
大抵の創業者は屈辱と受け取り、譲ることはないかもしれないがスタートアップにはそういった柔軟な判断が求められる。

つまりそんな賢明な判断ができるGoogleの創業者らがいるからこそ今のGoogleの繁栄があるともいえるのではないだろうか。


参考サイト

リーン・スタートアップ公式サイト
http://theleanstartup.com/

リーン・スタートアップ・ミートアップ
http://lean-startup.meetup.com/

リーン・スタートアップ・ウィキ
http://leanstartup.pbworks.com/w/page/15765221/FrontPage

リーン・スタートアップ・サークル
http://www.leanstartupcircle.com/

「スタートアップの教訓」会議



ペタしてね   読者登録してね