グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた | ビジネススキル向上のための書評ブログ

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第62回となる今回は、ソニーの技術者からグーグルへと転身し日本法人社長を努め、現在はアレックス株式会社代表取締役社長、辻野晃一郎氏の著書のこちら!!

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた/辻野晃一郎

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ぼくの評価☆☆☆☆☆☆
ソニーの低迷、グーグルの躍進、製品にかける想い、企業の成長とは、最高のチームとは、今の日本企業が抱える問題を見事に映しだしたノンフィクション)

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2006年3月31日。
私は今日、ソニーを退職した。
話はそこから始まる。

辻野さんは、ソニーで22年間。
グーグルで3年間働いた。

本書を少し読み進めれば、辻野さんの優秀さはすぐに伝わってくる。
ソニーへの熱い想いやグーグルでの日々。
辻野さんが日々悩み、もがき、苦しみ、それでも前向きにソニーで歩んできた日々の出来事が克明に綴られていて、まるで自分が置かれている状況のようにさえ感じるほどだった。
そしてなにより、

盛田昭夫
井深大

ソニーを世界企業に育てたこの2人を心の底から尊敬していたことが文章からひしひしと伝わってくる。
そんなソニーでのいきさつがやはり本書の最大の特徴だと思う。

耳を疑うような上司の一言。
社員の向上心の欠如。
納得のいかない配置転換。

ソニーが世界を驚かすような製品をなぜ送り出せないのか。
まさにその答えは本書の中にある。

ソニーはよくアップルと比較されることがある。
ウォークマンvsiPodだ。

その時のエピソードが本書にあるので、少し紹介しよう。


-本書169P8行目より-

 日に日に勢力を伸ばすアップルを追撃するためには年末商戦を逃すわけにはいかなかった。9月に、半ば見切り発車で新商品発表会を行い、アップル追撃の切り札としてウォークマンAシリーズコネクトプレーヤーによるソニーウォークマンの新しい生態系をアピールした。

 しかし、そうした我々をあざ笑うかのように、アップルは同じ日に彼等の次の戦略商品であったiPod nanoの発表をぶつけて来た。新商品発表会でスピーチをする直前、スタッフが入手してきたiPod nanoが手元に届いた。

 彼等の新製品を一目見た瞬間に、私は敗北を悟った。



辻野さんはことあるたびに会社に提言書という形でメッセージを送り続けていたそうだ。

数々の製品開発に携わった辻野さんは、ついにソニーを去ることを決意する。
紆余曲折を経たがそれでもソニーを愛し、22年間お世話になったという感謝の気持ちを忘れることなくソニーをそっと去ったのだ。

退職したあと、一度会社を立ち上げているのだが、それもつかの間ヘッドハンティングから声がかかる。

グーグルがあなたに興味を持っている。すぐに会ってくれないか。」

滑りだした会社もうまくいっていたので、最初は断っていたようだが、執拗なヘッドハンティングからの誘いに一度会ってみることにしたそうだ。
そこから辻野さんの人生は大きく変化していく。

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結果、グーグルに入社。
ポストは執行役員製品企画本部長だ。

入社直後、グーグルCEOであるエリック・シュミットが来日した時のエピソードが印象的だったので紹介しようと思う。


-本書179P9行目より-

 ちょうど、2007年4月、私の入社直後にCEOのエリック・シュミットが来日する、という機会に恵まれた。エリックは、アンドロイドの開発者であるアンディ・ルービンを伴って来日したが、そのまますぐに北京に向かう予定になっていて、日本での滞在時間は短いものであった。その短い時間で、彼は社内会議やパートナー訪問、プレスインタビューなどを精力的にこなした。セルリアンタワー内にあった6階の会議室で、エリックは、日本の現状をレビューする会議を当時の日本法人幹部達と行った。

 彼からは、現場の細かな課題も見逃さずに正確に把握しようという強い意欲を感じた。てきぱきと鋭い質問やコメン
トを挟みながら、時には日本チームを激励することも忘れない彼のスタイルは印象的だった。私がソニーに長くいたという話をすると、ソニーを絶賛し、グーグルの第一印象について聞かれた。私は、盛田さんが使っていた「グローバル・ローカライゼーション」という言葉を引き合いにだして、グーグルが日本市場で成長するためには中途半端な現地化では駄目だと思う、という意見を伝えた。

 彼はその後、慌ただしく東京のオフィスを後にして成田空港に向かったが、空港に着くまでの間に彼自身がタイピングした日本出張レポートがマウンテンビューの本社から転送されて来た。彼は我々のオフィスを訪問した直後に既に本社にそのレポートを送り、日本チームをサポートするためのいくつかの具体的なアクションの指示を自ら出していたのだ。

 急成長企業のCEOのスピード感ある強烈なワークスタイルを目の当たりにして、これでは、日本の大企業に到底勝ち目はないな、と一種のカルチャーショックを受けた。それは、日本企業に対する危機意識であることも事実であったが、同時に、経営者の本来あるべき姿を見せつけられた、という意味においては、新鮮で心地の良いカルチャーショックでもあった。


さらにもうひとつ。
グーグルを語るときによく引き合いに出される「邪悪になるな」という言葉を裏付けるエピソードがある。


-本書187P17行目より-

 インターネットの公平性、中立性を守る、ということに関して、2009年初めに、グーグルの日本法人でちょっとした事件が起きた。いわゆるアルファブロガーの人たちを使ったマーケティングアプローチにおいて、結果的に「やらせ」が疑われる事例が発生したのだ。この時に、疑わしい事例が発見されてから、その事実関係の究明と、google.co.jpサイトのランクを格下げする、という自分達へのペナルティを科すに至るまで、皆でこの「Don't be evil」を念頭においてグーグル内部の自浄能力を最大限に発揮した。内部で起きた問題に対しても一切の手加減を加えることなく、途中経過の内外への開示も含めて、日米チームで協力して問題解決に当たった。その過程でのグーグル関係者の「インターネットの健全な発展を死守する」ということに対する精神性の高さは実に素晴らしいものであった。

 グーグルに入社した直後、第一印象のひとつとして、この会社は「性善説」を前提にして成り立っている会社なのかもしれない、と思ったことがある。いわゆる、いい意味でのエリート意識というか、優れた社員を採用しているという自負に基づくものなのか、社員の高いモラルや倫理観を無条件に信じるような一面を感じたことがあった。

 現在のグーグルがevilでないかどうか、evilなことを本当にしていないのかどうかについては、私にもわからない。しかし、私が接したグーグル社員達の中には、日本人、外国人を問わず、「evilなことは断じて許容しない」という正義感の強い社員がたくさんいたことは事実である。



グーグルのDon't be evil(邪悪になるな)は有名だが、第1回で書いたこちらにも辻野さんが感じた性善説にまつわるエピソードを裏付ける話がある。

第9章操縦士エリック・シュミットの参画、でエリック・シュミットが初めてグーグルにやってきたとき、エリックがまず驚いたのは、2人の共同創業者が社員ひとりひとりに会社決済のクレジットカードを持たせていたという逸話だ。

会社から会社決済で自由に使えるクレジットカードを与えられる、ということ自体あまり例がないと思うが、それほど2人の創業者は創業当時からとにかく社員を信用して経営してきたことを裏付けている。

これらのことからも「邪悪になるな」という精神はグーグルの中で創業当時からとにかく徹底されてきたことがわかる。



ソニーグーグル

世界を代表するこの2つの会社は、人材も企業文化も働き方もどれもまったく違うということが本書を読めばわかる。
どちらが正しいということではない。
ただ言えることは、両者の中で近年急成長を遂げてきたのはグーグルであり、ソニーではないということだ。
企業が持つ歴史、ノウハウ、長い間会社を支えてきたベテラン社員。
それはそれで重要かもしれない。

しかし、今はITの進化によって変化がめまぐるしい時代だ。
特に今は激変の時期だろう。

企業は人の細胞と一緒だ。
常に新陳代謝が求められる。
上に立つ者であればあるほど求められる。
それはポストを譲る、ということではない。
変化の先を捉え、その形に思想や行動を自ら変化させ、部下にも変化するよう求めていく。
その変化をビジョンというフィルターで語り、伝え、牽引していく強力なリーダーシップが必要だ。

競争社会と言われて久しいが、特に最近、
社会全体において、最低限求められる人材のレベルが高まっているように感じる。

これまで3人で回していた仕事を2人で回す必要に迫られたり。
隣の席にふと外国人がやってきたり。
人口減少社会によって、採用枠の競争率が自然と高まったり。

酷なようだが、ストレス社会という表現はマイナス思考の表現であって、
その言葉自体がストレスのようにも感じてしまう。
結局、それでも人はこの社会でこれからも生きていかなければならないのである。



本書は年末年始の休暇に空気のうまい場所にでも行って、ゆっくり読んでみるとおもしろいかもしれない。
いろいろな考えが頭を駆け巡って、考えさせられる。
あまり関係ない職種の方でも働いている人であれば、読んでいると自分と重なる部分がいくつかでてきて、考えさせられるだろう。

今年も残り1週間。
2011年はどんな年になるだろう。
悲観的に捉えている人、楽観的に捉えている人。
様々な思惑をよそに2010年も終わりを迎えようとしている。



※最後に
これが今年最後の更新になると思うので、感謝を述べたいと思います。
いつも訪問いただきありがとうございます。

来年もマイペースの更新になるとは思いますが、
末永くお付き合いいただければ幸いです。

人生の糧となるビジネス書にこれからも感謝しつつ自分なりの見解と感想を来年もここで発信していければと思います。
ご意見、ご感想などあればお気軽にコメント、メッセージ等お待ちしております。

それでは、メリークリスマス&良いお年を。

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