ビジネススキル向上のための書評ブログ

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日々の読書で感じたITやテクノロジー、経済などビジネスに関する様々なジャンルの書物を独自の観点で評価していく書評ブログです。

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第86回となる今回は、イノベーションのエコシステムについて書かれたこちら


ワイドレンズ: 成功できなかったイノベーションの死角/東洋経済新報社
¥1,890
Amazon.co.jp

ぼくの評価☆☆☆☆☆☆☆☆
エコシステム。それはイノベーションが持つ潜在力を最大限に引き出すもの)


イノベーションにおけるエコシステム
市場が成熟し、製品単体でのイノベーションがより難しくなっている現代において、一度成功させたイノベーションを最大限に活かし、さらなる成長への鍵を握るのがエコシステムである。

世界には高いポテンシャルを秘めたイノベーションの種が実はいくつも存在し、しかしそれが日の目を見ずに眠っていることが往々にして存在する。


そのポテンシャルの高さに魅了された数々の企業が挑戦し失敗を重ねつつも、時間をかけて技術革新が進み、やがて大きな市場へと成長していく歴史が本書では描かれている。

エコシステムの成功と失敗を実例に基づいて検証し、機能するエコシステムの特徴やその根拠を図解を用いて論理的に解き明かしていく。



本書はエコシステムのリーダーになるべく書かれた書物と思われがちだが、必ずしもそうではない。
エコシステムに加わるフォロワーとなる企業も参考になる内容だ。


本書で紹介されている事例を紹介しよう。

ミシュランPAXシステム
1990~2000年代のモバイルネットワーク
マイクロソフトOffice2007
デジタル映画
電子書籍
吸入インスリン
電子カルテ
ポータブル音楽プレーヤー
電気自動車
M-PESA(ケニアのモバイル決済システムの先駆者)
アップル


本書では頻繁に登場する2つの用語がある。


コーイノベーションリスク
自身のイノベーションの成功は、他社のイノベーションの成功にかかっているというリスク

アダプションチェーンリスク
エンドユーザーが提供価値全体を評価する前に、エンドユーザーへの価値提供に関わるパートナーがリスクを受け入れるというリスク


イノベーションを可能にし、エコシステムを構築するイノベーター(エコシステムを構築するリーダー)はエコシステムの重要性とその課題を深く理解している必要がある。

近年最も成功したエコシステムと本書のエコシステムの解説を元に考えていこう。
そう、アップルである。



iPhone登場当時、決してiPhoneは他社をしのぐようなスペックではなかったという。
さらにはスマートフォン、いやハイスペック携帯電話とも呼べる市場はiPhone以前から存在し、iPhoneはかなり後発といえるポジションだった。

確かにiPhoneの設計は素晴らしく、マルチタッチスクリーン・インターフェイス、革新的な加速度計、フル・ウェブブラウザ、グーグルマップやYouTubeなどの目新しいアプリケーションが搭載されていた。

しかし、競合よりだいぶ劣っていた部分もたくさんあったという。
平均以下の画質の静止画カメラ、ビデオは録画できないし、なにより3Gが登場して6年が経っていたにも関わらず、2G回線を利用していたのである。


それでもiPhoneが成功したのはなぜだろう。

本書によるとエコシステムは必ずしも先行優位性が働くわけではなく、むしろ様々な課題を抱えながら成長していくのだという。

一般的にはiPhoneスマートフォンという分野を切り開き、英雄のように市場を席巻していったように映っているが、実は参入が遅かったのである。

ジョブズはすべての準備が整うまで待ち、遅く参入する傾向があるという。
2008年の技術の波をキャッチしながら彼はこう言っている。

「物事は、知っての通りゆっくりと起こる。この技術の波は発生する前に見ることができ、そして、どの波でサーフィンするかを賢明に選択する必要がある。愚かな選択をした場合、多くのエネルギーを無駄にすることになる。しかし、賢明な選択をした場合、実際にかなりゆっくりと展開する。これは何年もかかる」



ジョブズが構築したアップルエコシステムが出発したのはiPodからであった。
登場当時のiPodはMac専用のアプリケーションを搭載した製品として登場し、段階的拡張を経て、市場を席巻していった。

世界初のMP3プレーヤーが生まれたのは1998年、韓国のセハンメディアが開発したエムピーマンだという。
エムピーマン登場直後からスタートアップを含む様々な企業が市場に参入し、2000年にはソニーとサムスンも市場に参入する。

アップルが参入したのは2001年、実に3年後のことであった。
まったく先行者ではなかった。
参入の遅れにも関わらず、iPodが成功したことをどう理解すればいいのか?


1997年に暫定CEOとしてアップルに戻ったジョブズは、会社の成長のために新しい道を切り開くことが必要とされていたにもかかわらず、MP3ブームに乗ることを拒否したという。

1998年にエムピーマンその他同種類のものが発売されたが、彼は参入しなかった。
1999年にナップスター(違法)が登場し、世界中に膨大な無料のMP3コンテンツカタログを解放したが、ジョブズは依然行動しなかった。
そして2000年、ジョブズはついにMP3プレーヤーの開発を開始すると発表する。

2001年にはネットバブルが崩壊し、MP3プレーヤー市場が減速していると悲壮感が漂う。
ジョブズが参入したのはそんな悲惨な時だった。
彼はなにを待っていたのだろうか。なにを知っていたのだろうか。


ジョブズは自分自身でMP3プレーヤーが使えないことを理解していたという。
デバイスに価値をつけるためにはMP3プレーヤーエコシステムの他に、まず複数のコーイノベーターの存在が必要であることを理解していた。

ブロードバンドである。

2001年ついにiPodを発表したとき、すでに準備は整っていた。
アップルは待ちに待っていたのだ。
そしてついに勝利のイノベーションを創造したのだった。

だが、MP3プレーヤーが抱えるコーイノベーションリスクはブロードバンドだけではないという。
そのひとつに挙げられるのが当時からMacに標準装備されていたFireWireであった。

iPodが成功した条件。
それは、

PCに曲を高速に取り込むブロードバンド。
取り込んだ曲をiPodに高速に転送するFireWire。
そしてそれら楽曲を管理するシンプルで革新的なiTunesである。

しかしまだ課題はある。
2003年、アップルはその課題を解決する策を講じる。
iTunesStoreである。

MP3プレーヤー市場は正当にMP3楽曲を取得する表立った方法がなかった。
ナップスターの例もあり、レコード会社がデジタルで楽曲を販売することを相当ためらっていた。
しかしリッピングナップスターのような裏の流通経路が拡大し、デジタルで音楽を手に入れることは当たり前になりつつあり無視できない状況になりつつあるのも事実だった。
レコード会社はついに折れたのだ。



iPodがここまで成功した理由は、その参入のタイミングだけではない。
段階的拡張も重要な鍵を握る。

2002年にはWindows用のiPodを販売。
(このときはFireWire対応のWindowsのみ)
そしてiTunesStoreを開設した直後、アップルはFireWireの他にUSBケーブルとも互換性のあるiPodをリリースする。
これがキッカケとなり、2004年から2005年にiPodは616%もの成長を遂げている。


MP3プレーヤー市場のように成功すれば膨大な利益をもたらすことが約束される市場は、どの企業にとっても喉から手が出るほど欲しい市場だろう。
しかしその数ある企業の中でアップルが成功した理由を紐解くには、本書に図解とともに記載されているエコシステムの価値設計図を理解することが重要だ。

エコシステムを成功させるためには、それに関わるアダプションチェーンの価値設計図を明らかにすることが先決だという。

iPodを例にとれば、
高速で曲をダウンロードできるブロードバンド環境
PCから曲を高速に転送できるFireWire
楽曲をシンプルに簡単に管理できるソフトウェアであるiTunes
楽曲を公式にダウンロードできるiTunesStore
である。

アダプションチェーンリスクを考える場合、自社だけでは解決できない状況を明らかにする必要がある。
ブロードバンド、iTunesStoreである。

ブロードバンド環境は各地域や国の状況によるし、iTunesStoreを開設するにはレコード会社の同意が必要だ。

ジョブズが遅く参入していたのは、これらの環境が整うのを待っていたのだ。
(この場合はブロードバンドのみ)



iPodの成功は確かにすごいのだが、ジョブズ率いるアップルの真価はここから先にある。
iPhoneiPadである。

特にiPhoneを成功させることはアップルの将来を左右するほど重要なものであった。
マルチタッチディスプレイ技術を開発し、iPadを開発したアップルがその技術を応用しiPhoneを先に世に出したことからも、いかにiPhoneを重視していたかがわかる。

携帯電話市場はMP3プレーヤー市場に比べて10倍も大きなマーケットであり、PCの出荷数の4倍もある市場である。
その分iPodのように市場を掌握するには参入障壁や成功する確率も同じく何倍も難しいマーケットだった。

しかしiPhoneは成功した。
成功した鍵はなんだろう。

本書にこんな記述がある。


-本書192P1行目より-
 エコシステムにおいて勝利するためには、実行レースに勝つだけでは十分ではない。それぞれのパートナーの間をつなぐネットワークを作り、パートナーが自分の役割を果たし、お互いに協力して他のパートナーと共同で利益を生み出していかなくてはならない。どのようにしてこのシステムを構築するべきだろうか?
 ほとんどの場合、答えは徐々にだ。エコシステムを構築するには、時間と方向性の両方を必要とする。エレガントな建物を建設するのと同じように、エコシステムの戦略は、価値創造に必要な要素すべてが入った設計図が必要だ。さらに、全体像をどの順序で構築するかの明確な計画もなくてはならない。
 製品イノベーションの世界での標準的な開発の順序は、プロトタイプ(価値提案の開発段階のアイデア)、実験(最終的な機能をすべて備えた解決策の小規模でのテスト)、展開(フルスケールで完全な価値を提供)の順に遷移する。このアプローチは、提供する製品を自身でコントロールできる独立したイノベーションに適している。
 しかし、何度も見たとおり、エコシステムを巻き込んだイノベーションの世界では、しばしば異なるアプローチが必要とされる。ここでの課題は、価値を提供するために、複数のパートナーの合意と調整とコミットを必要とすることである。本章では、大規模展開につながるもう1つの道筋を考える。その道筋は成功するエコシステムを順序良く構築するための3つの原則からなる。

①最小限の要素によるエコシステム(MVE:Minimum Viable Ecosystem)・・・ユニークで商業的な価値を創造できる最小限の要素を組み合わせる。
②段階的な拡張・・・すでにあるMVEのシステムから利益を得ることができる新たな要素を付け加え、価値創造の可能性を増加させる。
エコシステムの継承と活用・・・1つのエコシステムの成功要素を活用して、次のエコシステムを構築する。



②の段階的拡張の重要性はiPodの成功で見てきた。
本書206Pから展開される「21世紀におけるアップルの成功」は一読すべき内容だ。

先にも述べたが、iPhoneが成功した最大の要因はマルチタッチスクリーン・インターフェイス、革新的な加速度計、フル・ウェブブラウザ、目新しいアプリケーション郡だけではない。

もちろんそれらのテクノロジーも重要な役割を担っているのは確かだ。
しかし最も重視すべきはiPodの成功を継承したエコシステムの活用にあるという。

これまでにiTunesで構築した楽曲やプレイリストなどをiPodを持つユーザーはiPhoneを購入することによって、そのまま継承することができる。


-本書213P17行目より-
 このエコシステム継承の原則というものは、スイッチングコストや顧客の囲い込みといった概念に依存しないということに注意してほしい。スイッチングコストや囲い込みといった戦術の背後にある考え方は、エンドユーザーが競合の提案を受けるのを防げるというものだ。それらがフォーカスしているのは既存の地位を確保することだ。対照的に、エコシステムの継承が意図することは、既存の消費者やパートナーに新たな価値を勧めることなのだ。



こうしてiPodエコシステムiPhoneに取り込み、iPodの顧客を囲い込む戦略を打ち出したジョブズは、当時すでにいくつか登場しつつあったスマートフォンエコシステムを横断的に再構築しようとしたという。

独占販売である。

独占販売によってアップルは顧客との関係をより独占的で価値のある関係に再構築しようとしたという。この独占販売は各国で行われた。仮に独占販売ではなく通信事業者すべてに明け渡すことになると、顧客はどうしても通信事業者間での価格やサービスで判断してしまう。
そうするとiPhoneにあまり目がいかなくなり、価値がかえって薄れてしまうのだろう。

日本の場合、iPhoneを手に入れるためには独占販売権を握ったソフトバンクに買い換えるしか方法がなかった。
iPhoneを手に入れるためには通信事業者を変えなければならない。
この方法は一見リスクがあるように感じるが、この段階的拡張は成功した。
iPhoneを手に入れるため、顧客はソフトバンクへ買い換えた。
圧倒的な数の顧客が。

そんな一見不便にも見える状況がiPhoneのロイヤリティをさらに高めた。
これがiPhoneエコシステムにおける段階的拡張の第一弾だったのである。


この成功によってアップルは、通信事業者との関係を再構築することにも成功した。
エコシステムの頂点に立っていた通信事業者との関係が逆転したのである。

この時点でかなりの顧客を獲得していたiPhoneだが、さらに第二弾の段階的拡張を講じる。

AppStoreである。

AppStoreは公式のプラットフォームであり、それを通じてユーザーはiPhoneの誤作動を心配することなく、アプリをダウンロードできるようになった。また、意欲ある開発業者は世界へプログラムを提供できるようになり、(潜在的な)利益を得られるようになった。

アップルは2008年3月にiPhoneのためのソフト開発キットをリリースし、7月にはAppStoreが公式にオープンし500のアプリを掲載した。
6ヶ月後には500万アプリがダウンロードされ、2011年1月には100億ダウンロードを達成している。

AppStoreエコシステムは瞬く間に成長した。
これはiPhoneエコシステムにおける段階的拡張の第二弾の成功だった。

指でタップするだけで、携帯端末をさらに価値あるものとし、よりエンターテイメント性のある、より個々のユーザーに対しカスタマイズされたものとするという非の打ち所のない提案だったのである。

このことにより、スマートフォンのカスタマイズの基本的な考え方は、従来のメーカーによるハードデザインからユーザー自身によるソフトウェアの選択へと移り変わることになった。


これらエコシステムの継承はすべて成功した。
しかも驚異的に。

革新的なマルチタッチディスプレイ、iPodで再構築したブランド力、iPodエコシステムの継承、独占販売によるロイヤリティの向上、AppStoreエコシステムの追加、これらが信じられないほどうまく絡み合いiPhoneは成功したのである。



iPhoneの成功でアップルは驚異的な成長を遂げた。
しかしまだアップルは新しいエコシステムの継承、段階的拡張を準備していた。

iPadである。

アップルはこれまで後発からエコシステムを構築し、成功してきた。
しかしiPadはまさに新市場を開拓する試みだったという。

iPadはただの電子書籍端末ではなく、マルチメディアデバイスだ。
ジョブズは2010年にiPadを発表した際「スマートフォンとノートパソコンの間の3番目のカテゴリーの端末」と表現している。

パソコンではないが、電子書籍端末より進んでおり、動画の視聴、電子書籍・雑誌の閲覧、アプリへのアクセス、音楽の視聴、写真の管理、ゲーム、ウェブへのアクセスなど、パソコンで実行できることをほぼすべて実行できる。


iPadは新たな挑戦ではあったがアップルのこれまでの成功によって、iPadの成功もほぼ手中に収めつつあった。

iPhoneエコシステムの継承だ。
そしてiPhoneを継承することはiPodを継承することにもなる。

これまでユーザーがアップル製品で築いてきたiTunesの楽曲やAppStoreのアプリも継承し互換性の心配もなくすぐに利用することができる。



アップルがここ10年で構築したエコシステムは、奇跡と言えるほどうまく機能し、そして強力なエコシステムだった。
競合企業はアップルの成功をワイドレンズで見ることができなかった。

個別の能力で追いつこうと焦るあまり、そのような競合企業は、エコシステム全体を首尾一貫したものにする関係づくりができなかったのだという。

多くの資金、才能と意欲を競争につぎ込んだが、わずかの例外を除き(最も目立つのはアマゾン)、今このときに至るまで、競合企業は戦略においてエコシステムを継承して自身の提供価値を最大限高める視点がない。

だから、スマートフォンタブレット、音楽プレーヤーなどの製品をゼロからスタートしようとしている。参入のために多額の資金を投入し、パートナー集めに高い補助金を出したりしている。

MVE、エコシステムの段階的拡張、エコシステムの継承と活用は成功するエコシステム戦略の核となる。



こうしてここまで見てくるとエコシステムは簡単に構築できるように錯覚してしまいそうだが、決してそうではないことを肝に銘じておく必要がある。

本書の最後の記述にイノベーションにおけるエコシステムの成功確率は100のイノベーションがあったら10くらいだろうと言っている。
つまり10%くらいということだ。

著者は本書を読んで成功確率は上げることはもちろん可能だが、成功するエコシステムを見極めることはできないのだという。

ただし、高い確率で失敗する50のイノベーション・エコシステムを見極めることはできるといっている。

つまり10÷(100-50)=20%で、成功するエコシステムを見極める確率を倍にすることは可能にできるかもしれないというのだ。

1.価値設計図を設計し、コーイノベーションリスクとアダプションチェーンリスクを見極める。
2.リーダーシッププリズムでリーダーの特性を見極め、先行者マトリクスを使用し、相互依存の関係が先行者に有利なのかそれともスタートラインで見極めるのかを判断することができる。
3.最小限の要素によるエコシステム(MVE)、段階的拡張、エコシステムの継承によって価値提供の順序を知り、他の機会に応用することができる。



エコシステム
それは、競合ひしめく大海原にひとつの道筋を示すものだ。

構築するのは容易ではないがひとたび波に乗れば、大きな成功を約束されるであろう現代における高度なテクノロジーを導く羅針盤ともいえる経営戦略なのである。



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第85回となる今回は、ニッチ市場について考えていくこちら

ニッチ: 新しい市場の生態系にどう適応するか/東洋経済新報社
¥1,890
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ぼくの評価☆☆☆
(需要が少ないニッチ市場で起こっていることを学べる一冊)


需要が少ないニッチ市場
創業間もないベンチャー企業や中小企業はこうしたニッチ市場で勝負をしている場合が少なくない。
ニッチ市場はマーケットこそ小さいが確かに需要があり、場合によっては強烈にファンを惹きつけ、取引や商売を確固たるものとしている企業やサービスも存在する。

大企業の大所帯ではなかなかこういったニッチ市場には手を出しづらいのだが、そこがかえってベンチャー企業や中小企業との住み分けとなり、ビジネスの共存共栄が成り立っているともいえるだろう。



さて、今回本書を通じて考えてみたいのはインターネットやテクノロジーの目まぐるしい進化によってもたらされている経済の根底で起こっている構造変化である。

根底で起こっている、というのが重要で我々の知らないところで起こっている変化は目まぐるしく、またそれらニッチな需要を無視できない時代になってきている。


本書の主張で特徴的なのは、真ん中が消え大量消費とニッチが残るというもの。
最近では大企業もニッチ市場へ乗り出す例が増え、ニッチ市場は年々注目されている。

多様な考えを受容する社会が形成されつつあり、人と違うことがしたいと考える人がまわりに増えてきていると感じることも多いのではないだろうか。

なぜこんな社会へと変化してきたのか。
ぼくは年々成長を続けるインターネットに原因があると思っている。

これはグーグルが年々成長し続けていることからもわかるように、インターネットがニッチへ引っぱる強力な引力を持って成長し続けているのが最大の原因ではないだろうか。
インターネットが肥大化する限り、ニッチ市場も肥大化し続け、ニッチ市場がまたニッチ市場を生み、よりニッチは細分化されていく。

これを裏付けるような記述が本書にある。

アメリカのある調査によると1ワードだけで検索する数が、24.5%から20.4%に減少し、3ワード以上を組み合わせて検索する人が増えているという。

さらにはある調査によるとウェブサイトをトップページから目的のページに訪問する割合が40%から4年で25%まで減少したという。
目的のページへ一発でたどりつけるということはそれだけ大衆の検索リテラシーが向上している証拠であり、3ワード検索の割合が増えているということは人々が求める情報がそれだけニッチに向かっているなによりの証拠なのである。



ニッチと似た言葉にロングテールがあるが本書に面白い統計があった。

本書ではロングテールを少し批判混じりに論じているのだが、本書の主張はこうである。

2008年、ハーバード・ビジネス・スクール教授のアニータ・エルバースの調査によるとロングテールニッチ市場は確かに存在しているが、売上上位のものがかつてないほど大きなシェアを占めるようになっているというのだ。

さらに同じ年に実施した英国におけるオンライン音楽販売の調査によると、前年に購入可能だった1300万のシングル曲のうち、一人の買い手もつかなかった曲が1000万曲以上あることがわかったという。
そして総売上の5分の4を売上上位54,000曲が占めていた。

この調査結果がなにを意味しているかというと、ロングテールの尻尾の部分の広がりは確かに顕著だが、上位数%はさらに寡占化するという二重の現象が起きているということだ。

本書が主張するミドルブラウの生態系が失われつつあるという主張はこのことを意味しているのだろう。



ミドルが失われ、大衆消費とニッチが残る。
これは今、世界中で起こりつつある現象だ。

本書では他にもGAP、映画「風と共に去りぬ」、HBOの事例などが紹介されている。

これからはニッチの総量が大量消費を凌駕する時代だ。
そんな予兆を示している一冊である。


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あけましておめでとうございます。
今年も本ブログを宜しくお願いいたします。


第84回となる今回は、米アマゾンCEOジェフ・ベゾスの創業秘話に迫るこちら

ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/日経BP社
¥1,680
Amazon.co.jp

ぼくの評価☆☆☆☆☆
アマゾン創業者ジェフ・ベゾスの伝記。アマゾンのみならずAWSキンドル誕生秘話も掲載されている)


本書はアマゾン・ドット・コムを立ち上げ世界最大のECサイトへと成長させた創業者、ジェフ・ベゾスの生い立ち~創業~成長~キンドル登場までを綴った一冊である。

実はアマゾンに関する書籍を読んだのはこれが初めてである。
もちろん関連書籍は常に目を通していたし、本書はいつか読んでみたいと思っていた一冊だったのだが運命のイタズラかタダで手に入れることができた。


アマゾンに関する書籍をためらっていた理由は二つある。

一つ目は自らのビジネスに応用することが難しいからにある。
独自のECサイトのアイデアで起業する以外、アマゾンから学べることは限定的と言わざるを得ないだろう。
これは検索エンジンのビジネスモデルなどと同じだ。
今から起業してグーグルやアマゾンと真っ向勝負を挑むのは得策ではないことは誰しもが納得するだろう。

二つ目はそれに付随するイノベーションの果実をあまり得られないビジネスモデルだからだ。
アフィリエイトやAWSなどもちろんないとは言わないが、その影響はグーグルやアップルが生み出したエコシステムと比較したら規模が小さいと言わざるを得ない。

キンドルの登場でやっと電子書籍のコンテンツビジネスは花開きつつあるが、アマゾンが切り開いたエコシステムはこれらの企業と比べるとまだ限定的だ。



さて、本書はアマゾンの創業秘話が5割、ジェフ・ベゾスの人物像が5割といった構成と理解していい一冊だ。

本書を読んで印象的なのは、アマゾンという企業よりもやはりジェフ・ベゾスという人物である。

ご存知の方は多いと思うが、アマゾンは創業当初から赤字を4~5年間垂れ流す計画で運営されてきた。
なぜ創業当初からこういう戦略をとったのか。
それはベゾスとインターネットの出会いにさかのぼると面白いようにつながる。



1990年、ベゾスウォール・ストリートにある創業間もないD.E.ショーという会社に入社した。

コンピューター科学者だったデビット・ショーが創業したこの会社は、当時は画期的だった金融のコンピューターによる裁定取引(アービトラージ)のパイオニア企業だった。

ベゾスD.E.ショーでも早々に上級副社長として抜擢され、この裁定取引のシステム開発責任者となる。
これはあまり知られていないが、ベゾスアマゾンを創業するまで一貫して優秀なプログラマーとして働いている。

そこでデビッド・ショーワールド・ワイド・ウェブという新たな情報プラットフォームが誕生したことを教えられる。
これからはインターネットだと考えたデビッド・ショーはインターネット関連の事業機会を探す仕事をベゾスに与えたのだった。

言うまでもないが、これが転機となる。

こうしてベゾスは1994年にインターネットの研究を始め、その結果に感銘を受ける。
当時インターネットは年率2300%で成長しているという統計を見つけたのだ。

この発見をシリコンバレーでの講演でこう表現している。

「これほどの成長速度は見たことがありません。シャーレの中以外で見たことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。」

バクテリアが感染後、短時間で数百万倍に膨れ上がるのと同じ理屈だというのだ。
事実それは正しく、インターネットはバクテリアが感染していくほどのスピードで成長していたのだった。



話を少し遡るとベゾスは幼い頃からアントレプレナーシップを身につけており、いつか起業しようと考えていた。

インターネットを見つけてからというもの、ベゾスは2300%の成長速度に合う事業計画とはなんだろうと考えを巡らすようになっていったという。

つまり創業当初から4~5年間赤字を垂れ流す計画だったのは、この2300%の成長速度に少しでも追いつくため、利益になったであろう資源をすべて先行投資していく計画だったのである。
(あくまで1994年当時の成長スピードであり、それ以降の成長スピードは定かではない)


インターネットとの出会いも奇跡だったと言えるだろう。

あふれる才能を持った起業家とインターネット登場のタイミング、そしてなによりウォール・ストリートの最先端企業という環境が生んだ出会いだ。

第39回で書いた「天才は時代にも選ばれる」にも通じるところがあるだろう。

才能あふれるアントレプレナーは常にその時代に登場する。
その才能、出会いとタイミング(出会いとは人材よりも事業機会という意味合いの方が大きい)、経営手腕などに加え、時代を象徴するようなCEOになるには時代に選ばれる必要があるということだ。

ベゾスはその時代に選ばれた天才経営者の一人である。



アマゾンはどのように立ち上がっていったのだろう。

アマゾンを立ち上げた3日後、ベゾスはヤフー創業者のジェリー・ヤンから電子メールを受け取っている。
アマゾンのサイトは非常にクールですね。おすすめページで紹介しましょうか」
というのである。
ベゾスはしばらく悩み、快諾する。

そこからアマゾンの途方もない成長が始まる。

一週間に1万2000ドル分以上もの注文が殺到し、この週にアマゾンが出荷できたのはわずか846ドル分だったいう。
当時はベゾス自身も梱包作業に追われ、コンクリートの床で何時間も梱包していたという。

そこからクチコミだけで急拡大していく。
ネットスケープなど数多くのサイトのおすすめで紹介され、ついにはウォール・ストリート・ジャーナルの一面に載る。
これでさらにサイトへのアクセスが急増したとベゾスは回想している。


ベゾスはアイデアを重視し、とにかく新しいアイデアをサイトで試し、実行していたという。
アイデアやイノベーションを重視する姿勢は企業文化として根付いており、現在実装されている数々の機能やAWSの誕生もエンジニアの発案から生まれたと後半で語っている。



そしてアマゾンは現在、事業の原点である書籍販売にイノベーションを起こしつつある。

そう、キンドルである。

電子書籍というビジネスモデルはこれまで数々の企業が試み、失敗に終わっていたビジネスであった。

米国ではすでに大きなシェアを誇るキンドルだが、これまでの電子書籍端末より優れていた点はそのUXにあるという。
EInkという技術をベースにこれまで劣っていた電子書籍端末の欠点を見事に解消して登場したキンドルは登場と共に急速に普及していく。

本書には書かれていないが、電子書籍のビジネスモデルで難しいのはやはりコンテンツである。
どんなに端末が優れていても読める冊数が少なければそれは普及には至らないだろう。

アマゾンが電子書籍に優れている点は、取次や出版社とすでに関係を持っていることが大きい。
書籍はすでにアマゾンの巨大倉庫に抱えているし、端末と電子化したコンテンツさえあればすぐに事業化できる点も大きかったのだろう。

いずれ普及していくであろう電子書籍のビジネスにアマゾンのプラットフォームを利用しない手はなかった。
電子書籍が普及段階を迎えるとアマゾンの倉庫から物理的な書籍が消えていくことになるからだ。

事業とのシナジーや成長性を見越したベゾスは今、キンドルに力を入れている。
端末を赤字覚悟で販売し(本当に赤字である)、かつてアマゾンを爆発的に成長させた成長戦略を電子書籍というビジネスにも応用しようとしているのである。



本書に書かれていることはおおよそ事実であろうが、アマゾンが歩んできた目の回るほどの速い成長スピードには心底驚かされる。

ここでは書ききれないが、少し恐ろしくも感じられるほどのベゾスの成長戦略が本書には垣間見える。

そんな恐ろしくもしたたかなベゾスを知るには格好の一冊である。


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