2010年5月29日 23時14分 毎日新聞
米自動車大手、ゼネラル・モーターズ（ＧＭ）が連邦破産法１１条（日本の民事再生法に相当）を申請、破綻（はたん）・国有化されて来月１日で丸１年。債務免除で“身軽”になった新生ＧＭは約３年ぶりに黒字転換し、オバマ政権も「順調な再建」ぶりを強調する。しかし、経営の先行き不安は消えず、国有化脱却の道筋はまだ見えない。一方、ＧＭ破綻後、世界の自動車市場は新興国や環境車シフトで激変、日本勢も巻き込んだ再編が加速する。【宮崎泰宏、宮島寛、ワシントン斉藤信宏】
「再生へ重要な一歩を踏み出した」。今月１７日に発表されたＧＭの１～３月期決算。リデル最高財務責任者（ＣＦＯ）は純利益が８億６５００万ドル（約７９０億円）と約３年ぶりに黒字転換したことをあげ、復活をアピールした。破綻前に５００億ドルを超えた巨額債務は破産手続きで３分の１以下に縮小、高い労務費も相当下がった。昨秋以降の米新車市場復調も重なり、ＧＭが国有化１年で予想を超す回復を示したのは確かだ。
販売現場にも活気が戻っている。メリーランド州でＧＭ販売店を経営するダガー社長は事務所で従業員４人に仕事を指示しながら「スポーツタイプ多目的車（ＳＵＶ）が売れ、販売回復の手ごたえをひしひしと感じる」と説明。「米国人は今も大きい車が好きなんだ」と笑った。
ＧＭの国内新車販売は大規模リコール（回収・無償修理）問題で打撃を受けたトヨタ車からの乗り換えも取り込み、１月から４カ月連続で増加している。中国での販売急増などで世界生産も１～３月期は約２０８万台と、前年実績を６割近く上回った。
「ＧＭとクライスラーの回復は想像以上だ。国民に不人気だったが、公的支援は正しかった」。オバマ大統領は４月下旬、ラジオとインターネットを通じてこう演説。同じく巨額の公的資金を受けて伊フィアット傘下で再建中のクライスラーとともに、国有化したＧＭの再建が軌道に乗っていると強調した。秋の中間選挙もにらみ、ＧＭが抱える５００億ドルを超す公的資金回収に早く道筋を付けたいオバマ政権は、ウォール街の複数の投資銀行とＧＭ再上場に向けた協議も進める。
ただ、ＧＭが国有化脱却に耐える十分な競争力を確保したかどうかを市場は疑問視している。ライバルのフォードが省エネ志向や環境規制の世界的な広がりに合わせ、中小型車重視に転換しているのに対し、大型車などに依存するＧＭは構造転換が遅れている。売却計画を白紙に戻してまで小型車開発拠点と期待したグループの独オペルも欧州信用不安の影響でドイツ政府の公的支援のメドが立たず「事業計画が宙に浮いたまま」（大手メーカー幹部）だ。
ガソリン高騰など逆風が吹けば、大型車依存のＧＭは再び販売不振に逆戻りしかねない。オバマ大統領の期待とは裏腹に、米議会予算局は「ＧＭやクライスラーなど自動車救済に投じた公的資金（８２０億ドル）の約４割は返済されないだろう」と予測。米メディアも「国のＧＭ救済完了までには、相当の時間が必要」（ワシントン・ポスト紙）と見ている。
◇「新たなパートナー探し」加速
破綻でＧＭとの関係が切れた日本の大手各社は新たなパートナー探しに走った。トヨタは今月２０日、米電気自動車（ＥＶ）ベンチャー、テスラ・モーターズ（カリフォルニア州）への出資を発表。４月に閉鎖したＧＭとの合弁工場「ＮＵＭＭＩ」（ヌーミー、同州）の一部を活用し、テスラがＥＶを生産する。２２日帰国した豊田章男社長は「ＧＭとの合弁からの撤退はつらかったが、今回、そこが自動車会社（テスラ）に活用されることになり、うれしい」と話した。
８４年以来続いたヌーミーはトヨタにとって「ＧＭを通じて米国の政治や世論の動向を知るアンテナの役割」（ＯＢ）も果たした。それが失われたことは、トヨタが大規模リコール問題で米議会や世論の動向を見誤り、厳しく批判される遠因となった。トヨタにとって、オバマ政権にも近いテスラが持ちかけたヌーミーの活用は“渡りに船”。豊田社長は提携を決めた理由を「未来の車づくりへの可能性を感じた」と話すが、ＧＭ破綻で細った対米人脈を補う思惑もうかがえた。
一方、ＧＭとの資本提携を解消したスズキは昨年１２月、独フォルクスワーゲン（ＶＷ）と資本・業務提携。ＧＭと資本提携を探った日産自動車・仏ルノー連合が独ダイムラーと提携するなど、ＧＭ破綻は再編の導火線ともなった。
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