社台ファームで繁殖牝馬となったダイワスカーレットだが、対戦した相手のその後について見てみたい。

 

顕著なのが同期牝馬たち「最強牝馬世代」の動向である

・かつて述べたアストンマーチャン3歳でスプリンターズS制覇)はX大腸炎以降急性心不全のためわずか4歳で死亡している。

・マーチャンや後述のスリープレスナイトのライバルでアイビスサマーダッシュ連覇を果たしたカノヤザクラは3連覇に挑んだサマーダッシュで予後不良となり6歳で死去

・5連勝でスプリンターズSを制し鞍上・上村洋行に騎手人生17年目で初G1をプレゼント、1200mで12戦9勝2着3回を誇るスリープレスナイトは繫殖時代に体調を崩し8歳で死去

・ヴィクトリアマイルでウオッカを撃破、ウオッカにとって生涯唯一の府中マイルでの黒星を付けたエイジアンウインズはその後復帰できぬまま引退

・NHKマイルCにて後述する1番人気ローレルゲレイロ(牡馬)を破り、17番人気の自らが3着18番人気のムラマサノヨートーと共に馬券を荒らして3連単「973万9870円」を演習した一番槍・ピンクカメオ(2022年4月28日に18歳で死去)は重馬場巧者として09年中山牝馬ステークスで又もや波乱を起こした

・ウオッカとダイワスカーレットのいないオークスをレコードかつ外国産馬初の日本のクラシック勝利したローブデコルテは14年の出産時に膀胱破裂の事故により母仔ともに落命

・ナリタトップロード産駒の希望・ベッラレイアは馬主変更などを経て、フローラステークス以降勝てず引退するも、ポルトフィーノ事件の08年エリザベス女王杯の3着など長く健闘

・09年エリザベス女王杯でテイエムプリキュアと一緒に大逃げしブエナビスタに逃げ切り勝ち、大波乱を巻き起こしたクィーンスプマンテ

・名古屋所属のヒカルアヤノヒメ2022年現在18歳の現役競走馬で、高齢のオーナーのバイト状況や引退後生活の厳しさから現在進行形で自らの生活費を稼ぐべく走り続けている

デビュー19連勝・GⅠ13勝を挙げたアメリカのゼニヤッタは「2010年の年度代表馬に相応しい馬」の大衆向けアンケートで87%の支持、「今年を代表する女性アスリート」で2年続けて第2位に選出された

・そして2勝2敗1分の五分で終わった因縁のライバル・ウオッカはスカーレットのできなかった海外遠征をこなし、ヴィクトリアマイル→安田記念連勝ジャパンカップ制覇を成し牝馬としては当時記録だったG1級7勝をマークした。19年4月1日に粉砕骨折と蹄葉炎のため安楽死、先にこの世を去った

儚くも牡馬を蹴散らす逞しさはまさに最強牝馬世代といえよう

 

一方被害馬の同期牡馬はどうか?

・皐月賞馬ヴィクトリーは燃え尽きて乗馬となった2017年8月3日に死去、皐月賞2着サンツェッペリンは障害レースやホッカイドウ競馬でもがいた後ケイズ豊郷分場で余生を送っている

・上り33.9の末脚で皐月賞3着となりダービーで1人気となるもその後燃え尽きたフサイチホウオーは引退後、「フサイチホウオーがあと3、4頭は欲しい。それぐらい良い先生」と絶賛されるリードホースとなり、引退した牡馬や騙馬の新たな道を切り開いた。実際インティライミやフェノーメノも従事している

・ウオッカとダイワスカーレットに散々苦しめられた菊花賞馬のアサクサキングス(と四位洋文)は09年の京都記念・阪神大賞典を連勝し古馬としての意地を見せた

ウオッカとダイワスカーレットを撃破し重賞3勝したアドマイヤオーラはかつて述べたように11歳で予後不良に。しかし産駒のクロスクリーガーが兵庫CS・レパードSを勝利、ノボバカラがダート重賞3勝、アルクトスがマイルCS南部杯を連覇と早逝を惜しまれる種牡馬成績を残した

39戦目での国内GI初勝利という史上最多キャリアで、10年春の重賞と安田記念で一瞬輝いたエアジハード産駒ショウワモダン

スクリーンヒーローは引退後、自身と同じ上がりを見せた有馬記念王者ゴールドアクターGⅠ6勝した新時代の怪物モーリスなどを送り出し名種牡馬となっている

・ダービー13着だったローレルゲレイロは5歳で春秋スプリント制覇を成し遂げ父キングヘイローの成績を超えた。募集価格1000万円の50倍近く稼ぎ孝行息子として知られる

・同じスプリント路線ではビービーガルダンスプリンターズSと高松宮記念で2着し、4年連続出走のスプリンターズSで放馬し3600mの暴走を披露した

・地方では交流GⅠ6勝し、NARグランプリ年度代表馬4度地方所属馬の最多獲得賞金額記録を持つ南関東の希望フリオーソが活躍した

・牡馬代表としてはドリームジャーニーが上げられる。ステイゴールド産駒として朝日杯を勝って以降ウオッカとダイワスカーレットに敗れたのち、09年に宝塚記念でディープスカイを、有馬記念でブエナビスタを破り春秋グランプリ制覇を成し遂げた。以降ステイゴールドの種牡馬需要が高まり三冠馬オルフェーヴルや二冠馬ゴールドシップ、障害王者オジュウチョウサンの誕生に貢献した。

 

またカンパニーは秋天・マイルCS連勝を、マツリダゴッホはオールカマー3連覇を成し遂げた。

 

これらの猛者を歯牙にもかけなかったウオッカとダイワスカーレットの強さがどれだけのものか...

 

さて、ダイワスカーレットはチチカステナンゴ(フランスGⅠ2勝)と交配して以降ロードカナロアとの第10仔まで全て牝馬という世にも珍しい記録を出した。うち7頭が勝ち上がりまずまず高い質の馬を出すが、子どもを甘やかす性格もあってまだまだ重賞制覇には届いていない。ただSS系薄目液との交配の中クズ馬(出走すらできない)を出さない特徴を持つ。

産駒は大城敬三が2020年に死去するまで所有し7頭にダイワ冠名がつけられた。

2番仔ダイワレジェンドは準オープンクラスまで、5番仔ダイワエトワールは1000万円以下まで活躍し繫殖入りに成功。6番仔ダイワメモリーはテレビユー福島賞(3勝クラス)の競走中に急性心不全で死亡した。

8番仔以降社台の支持で活躍する方針にあり、その8番仔アンブレラデートは21年のフィリーズレビュー(GII)で入着までこぎつけた。

 

ロードカナロアとの第11仔で大願の牡馬が誕生、2022年は不受胎だった。

孫のスカーレットテイルがウオッカの息子であるタニノフランケルの子を受胎し期待が高く、またアンブレラデートの繫殖入りにも期待が寄せられている。

 

最後に評価である。

ゲートの一部が身体に触れただけで錯乱したり、周囲特に背後を異常に気にする精神の持ち主でゲート難だったダイワスカーレットは安藤勝己の指導でスタートが抜群にうまくなり、地方出身の安藤勝己にとって「トリッキー」で鬼門だった中山競馬場での重賞制覇という恩返しにつながった。

 

吉田代表は「2000メートルというのがスカーレットが一番強い距離……守備範囲は1600メートルから2400メートル」また天皇賞(春)3200メートルについては「ちょっと合わない」、「あの馬は、牝とか牡とかいう次元を超えている」とコメント。

安藤は「走法から考えても、2000くらいの距離がベスト……気性的にもマイルから2000くらい」とした。

 

島田明宏は以下のように評価している。

ただ、走るのが速く、それもスタートしてすぐトップスピードに乗る能力があり、また、その能力を出したい、速く走りたい――という気持ちを抑えきれなかったので、他馬より前に行くことになった」のであり、決して気性ゆえの逃げではなかった。

所謂ミホノブルボンやマルゼンスキーのように絶対的スピードが違う故先頭に立つのが自然となったタイプなのであろう。

(サイレンススズカと比較して)「サイレンススズカは、他馬がついてくることのできない領域に『逃げて』いたように見えたが、スカーレットの走りは純粋に『ただスピードに乗っていただけ』

ダイワスカーレットは逃げ切り勝利こそ挙げているが、大敗するリスクや他を差し置いて逃げ切った際の興奮が「逃げ馬」とは違って存在しなかった、翻って逃げて連対し続けるという相反する二つが同居する「逃げ馬」だとし、「『普通』ではなかった」「この馬を『逃げ馬』と呼ぶことに少なからぬ抵抗を感じる」と締めくくられる。

 

彼女の持続力とスピードを持つ子どもが生まれることを楽しみに待ちたい。