11月2日、7か月ぶりの出走となったダイワスカーレットは初めて府中のターフに立つこととなった。

調教のせいで気持ちが高まり体重が競走前の計量で498kgに大幅減少し、安藤は「今までは休むたびに落ち着きを増していたのにあのときは全然違っていた。普段から気負いこんでいて、我慢がきかない感じだった。頭のいい馬だからきっと、自分で体を絞りにかかっていたんじゃないかな」とコメント。パドック入りの時点で気合十分となっていた。

 

府中を得意とするウオッカは2.7倍の1番人気、ダイワスカーレットは3.6倍の2番人気というライバル「二強」…と思われたが第三の猛者が4.1倍の3番人気に控えていた。

スカーレットと同じアグネスタキオン産駒のディープスカイである。新馬戦以降勝ち上がるまでに5戦費やした経歴がありながら、04年キングカメハメハ以来の変則二冠(NHKマイルC→日本ダービー)制覇を成し遂げた豪脚の持ち主である。毎日杯から神戸新聞杯まで4連勝し菊花賞を回避して古馬との激闘に挑むのであった。鞍上はウオッカの連敗からクビにされた四位洋文である。

 

以下のメンバーとして、前走札幌記念をレコードで制した坂があると走る気を無くすタスカータソルテ、GⅢ連勝の同期左回りが下手くそドリームジャーニー、同期の菊花賞馬牝馬にもてあそばれるアサクサキングスら15頭の牡馬にダイワスカーレットとウオッカは挑むことになる。

 

4枠7番からスタートするとダイワスカーレットはグイグイ先頭に立つ。安藤はこの時「徐々に、スーッと加速してくいつもとは全然違って、スタートを切ったら一気にトップスピードに入っちゃった」と言い、スピード任せの半ば暴走をしてしまうのだ。「これじゃあ絶対にもたない」というペースの中スポーツコラムニストの阿部珠樹は「素直な優等生が、はじめて少し短いスカートをはいて、反抗の気配を見せた」なんてコメントしている

ウオッカと同じ角居厩舎絶対狙ってるだろう14番人気トーセンキャプテン玉砕覚悟の走りに後ろから突つかれて暴走はエスカレート、11秒台のラップを連発しながら前半1000メートルを58.7秒で通過するハイペースとなった。結果キャプテンは最終コーナーで撃沈しブービー負けすることになる。

 

「悪いリズムで走ってしまった」と安藤が恐れる中最終直線に向き、最内を取った安藤は、外から並んで追い込むディープスカイ、ウオッカを確認すると「3着が精一杯だと思った」と悟った。

先行勢が壊滅した白熱の最終直線の内容は青島達也アナウンサーの実況に委託したいと思う(一部補足する)。

 

600m標識、まだまだ長いぞ。

 

ダイワスカーレット、初めての府中です、(産経大阪杯以来)久々(のレース)です。

こっからです。残りさあ500と少々。


ダイワスカーレット、まだ先頭。最内、最内キングストレイル。

真ん中割ってアサクサキングスがやってこようとしている!

ディープスカイ、ディープスカイ、勝手知ったる府中!その外に先輩ダービー馬ウオッカ!!

残りあと300、…坂を上る!!!新旧ダービー馬の決着になるのか!?

最内ダイワスカーレットは少し苦しくなった!

ウオッカ! ウオッカ! ウオッカ!ディープスカイ! ディープスカイ! ウオッカ! 内からもう一度ダイワスカーレットも差し返す!?ダイワスカーレットも差し返す!!!

これは大接戦、大接戦ドゴーン!!!!!!(でゴール!)

 

ウオッカか!?ダイワスカーレットか!?


真ん中ディープスカイが少々不利か! 上位人気3頭、牝馬と牝馬(昨年のダービー馬)と今年のダービー馬!


1分57秒2はレコードの赤い文字です! ・・・凄い!・・凄い! ・・問題は態勢です! 

 

内ダイワスカーレット、真ん中ディープスカイ、外ウオッカで並び立つもスカーレットの暴走が後方組にも響き、得意の瞬発力を使うことができないままラスト100mでダイワスカーレットが根性で盛り返す3頭脚がいっぱいとなる。

脚を極限まで貯めていた人気薄のカンパニーエアシェイディにディープスカイが飲み込まれる中ウオッカとダイワスカーレットは並んだままゴール板を駆け抜けたのだった。

 

1位2位入線のダイワスカーレットとウオッカの優劣、3位4位入線のカンパニーとディープスカイの優劣は写真判定に委ねられ、大外エアシェイディの5位入線だけがやっと確認できる大混戦。99年にスペシャルウィークおよび2003年にシンボリクリスエスが樹立したレースレコードを0.8秒上回る超絶レコードなのだがまさか3年後に1秒1更新されるなんて当時の人は全く思わなかっただろう

 

NHKでは「ファンの皆さんは全くその場から動こうとしません。これも異例のことです」(刈屋富士雄)、ラジオNIKKEIでは「ウオッカ・ダイワスカーレット!さあ、手を挙げるのは誰か!?さあ、皆さんはどちらだと思いますか?」(小林雅巳)とどこかしこでも大接戦に興奮・その行く末にドキドキワクワクしていた。

 

58年のセルローズ・ミスオンワード以来、天皇賞(秋)史上50年ぶりとなる牝馬ワンツーフィニッシュは13分の写真判定の末、ゴール板において抜け出たウオッカのハナ差、約2センチメートル先着とダイワスカーレットが敗退。ダイワスカーレットからクビ差遅れて3着ディープスカイ、ディープスカイからハナ差遅れて4着カンパニー、カンパニーからクビ差遅れて5着エアシェイディだった。

掲示板に「ハナ クビ ハナ クビ」の文字、最下位まで其々2馬身以内の団子状態で入線する大接戦であった。

アサクサキングスは8着、ドリームジャーニー10着、タスカータソルテはトーセンキャプテンを捉えきれずしんがり負けこれだから07年クラッシック世代の牡馬は弱いって言われるんだよ…

9着のキングストレイルまでが従来のレコードを更新、10着、11着馬が従来のレコードタイであり、完走しただけ偉いのである。

 

阿部珠樹は、「テンポイント、トウショウボーイ、グリーングラスの3頭が上位を占めた1977年の有馬記念……31年前のグランプリに匹敵するような20年、30年に一度のレース」と絶賛、井崎脩五郎は「奇跡のような脚」とダイワスカーレットの差し返しを評価した。

 

安藤は「もし、道中まともに走らせることができていたなら、結果は違っていたはずなんです」「あんなチグハグなレースになったら、普通はウオッカとディープスカイにアッサリやられてしまうはずなんですよね。にもかかわらず、あれだけの接戦に持ち込んだわけですから……とにかく尋常な馬じゃない……強さに一番驚いたのは、もしかすると乗っていたボク自身かもしれません」と述べている。

松田はトーセンキャプテンに絡まれた件を「あれがスカーレットを潰すためのチーム戦術だとしたら、やってはいけないこと」としながらも、トーセンキャプテンが来なければ平均ペースになり、瞬発力に秀でたウオッカやディープスカイ有利の展開になっていただろうとして「2センチのハナ差ではなくもっと大きな着差で敗れていたのかもしれません」とコメントした。

 

結果論として脚の疲れと勝利を悟ったウオッカの「気を抜いた」ことと、最後まで追うのをやめた安藤の騎乗とがあって大接戦ともいえるし、ほかの牡馬じゃ相手にならない2頭のずば抜けた勝負強さだともいえるこの秋天、ウオッカとダイワスカーレットにとって最後の対戦なるなんて、その時はまだ誰も知らなかった。

 

なお3着のディープスカイはこの後1勝もできず善戦し、ポキオンタイマーで引退、4着カンパニーは8歳で秋天とマイルCSを連覇するなど明暗の別れる結果となり、またこれらを破ったウオッカとダイワスカーレットの名声をよりいっそう高めることとなる。

 

ウオッカ解説のことを考えて鞍上武豊やウオッカ陣営についてはここで置いておきたいと思う。