🚀ウチュノコトバ〜神秘解明に向けた人類の歩みepisode.663


『宇宙に存在する「特別なポイント=特異点」とは何か?研究者が明かす「奇妙な正体」』


宇宙検閲官仮説▶︎なんとも不可思議で魅惑的な響きです。▶︎この文字の並びを見ているだけで、つぎつぎと疑問が湧いてきます。▶︎宇宙を検閲する?▶︎誰が?▶︎何を?▶︎いったいどうやって?▶︎なぜ宇宙に「検閲官」がいるなんていう、いっけん突飛に見える仮説が提示されたのか?▶︎ここでは、この仮説において「検閲官」が検閲をしているまさにその対象=特異点」について、大阪工業大学教授の真貝寿明さんがわかりやすく説明します。

特異点定理とは何か

宇宙検閲官仮説』では、一般相対性理論(アインシュタイン方程式)は複雑すぎて、球対称あるいは軸対称といった時空の対称性を仮定したり、真空や単純な物質分布を仮定したりしないと到底解くことができません。そして、このような仮定から得られた解は、球対称で静的なブラックホールを表すシュヴァルツシルト解であったり、一様等方宇宙を表すフリードマン宇宙モデルであること。どちらの解にも、時空の曲率が発散してしまう特異点がありました。▶︎この特異点の存在は、物理を考えるうえでとても厄介なことです。▶︎なざなら、ひとたび特異点が出現すると、そこから先の未来が計算不可能になってしまうからです。▶︎1960年代前半までは、こうした特異点の出現は、方程式を解くときに仮定した時空の対称性に起因するのではないか、という議論がされていました。▶︎現実には特異点は発現しないのではないか、という期待がありました。▶︎その論争に終止符を打ったのが、ペンローズによる特異点定理です。▶︎ペンローズは、時空の対称性を仮定しなくても、特異点は一般的に発生することを数学的に証明しました。▶︎そしてその後、すぐに、ホーキング(19422018)とともに宇宙初期の特異点の存在についても定理を発表しています。▶︎ペンローズの特異点に関する研究に対しては、2020年にノーベル物理学賞が贈られました。ここではいよいよ、この特異点定理の山に登っていきましょう。

特異点をイメージする

ブラックホールの内部には、時空特異点が発生します。▶︎その話に入る前に、「特異点」という言葉についての数学的なイメージを持っておきましょう。▶︎数学用語の特異点(singularity)は、広く使われる概念です。▶︎一言でいうと、「一般的な場合に対して、異常な形態を示すところ」を意味します。▶︎たとえば関数・写像、曲線や曲面、あるいは微分方程式など、いろいろな分野で登場します。▶︎臨界点」という言葉が使われることもあります。▶︎関数とは、入力する値xに対して、出力する値y=f(x)を対応させる箱です(古くは函数と表記していました)

○f(x)=2x+3という対応ならば、xに比例したyの値になるので1次関数(線形関数)と呼ばれます。

○f(x)= 4x^2 +5x+6と対応するならば、x2乗によってyが決まるので、2次関数と呼びます[x^2x2乘]。

これらの関数は、あるxの値を入力した場合(たとえばx=3.00)と、それに近い値を入力したとき(たとえばx=3.01)、出力される値yも近い値になります。▶︎そしてxを連続的に変化させれば、出力されるyも連続的に変化します。▶︎これに対して、たとえば郵便料金を示す関数を考えてみましょう。▶︎定型外郵便物の送料は、50g以内なら120円、100g以内なら140円、150g以内なら210円などと定められています。▶︎この決め方では50gを少しでも超えたとたんに料金が上がります。▶︎郵便物の重さをx、料金をyとするならば、これは不連続な関数になります。▶︎このような不連続となる点を、特異点と表現することができます▶︎また、f(x)=1/xという関数があったとすると、x=0の点ではゼロで割る「ゼロ割り」の計算となってしまうので、この関数はx=0では特例として、定義されません。▶︎この場合も特異点といえます。▶︎つまり、関数の特異点とは、連続でない、定義されていない点がある、なめらかにつながっていない(微分できない)点が存在する、などの問題が生じている箇所のことです

測地線

平面上で2つの点を結ぶとき、最短距離となるのは直線です。▶︎この考えを広げて、曲面上で2つの点を最短距離で結ぶ線を測地線(geodesic)といいます▶︎たとえば地球儀の上で、東京からシカゴまでの最短ルートを考えると「大円(東京とシカゴと地球中心を通る平面と地球表面の交わりとなる円)の一部になります。▶︎このようなルートが測地線です。一般相対性理論では、「光は曲がった空間での測地線を進む」という原理にもとづいて運動が決まります。▶︎光はつねに自分自身の経路として最短時間で到達するように動くものですが、進む空間が歪んでいると、その測地線は必ずしも直線ではありません。▶︎以下では、光の測地線(光速で進む測地線)を「光的測地線」、物質の測地線(光速未満で進む測地線)を「時間的測地線」と呼びます。

時空が「特異である」ということ

特異点では、時空構造そのものが破綻していることから、特異点そのものの議論をすることができません。▶︎そのため、この特異な点を「穴」として時空から取り除くことにします。▶︎つまり、時空特異点は時空の点ではないことにするのです。▶︎そして、特異点に徐々に近づくとどうなるか、という調べ方をします。▶︎ 特異点(時空の「穴」)に向かって自由落下していく観測者を想像してみましょう。▶︎その観測者がたどる軌跡は、測地線です。▶︎観測者が時計を持っていて、「穴」に有限の時間で到達したとしたら、それ以上進むことができません。▶︎測地線に終点があったことになります。▶︎そこで、次のようにして特異点の存在を定義することにします。


つまり、測地線に終点があって時空が「特異である」ことから、特異点の存在を見抜くことにします。▶︎測地線が延長できないならば、到達できない点が存在することになるので、特異点が存在していると主張できるのです。▶︎このように、時空の特異点は、特異点そのものではなく、特異点に近づいていく測地線の性質で決められます。

特異点定理への準備

特異点定理の解説に入る前に、そのために必要な用語や概念について、説明します。

【準備1】:最大捕捉面と事象の地平面

大きな質量が小さな領域にあると、強い重力が生まれます。▶︎強い重力場を進む光の経路も、影響を受けて曲がります。▶︎3‐5は、ブラックホールの近くで光を周囲に発したときの光円錐を示したものです。▶︎図の(a)は、光が空間的にどう広がってゆくのかを、光円錐の先端(光波面といいます)のふるまいとして示しました。


ブラックホールから離れた点Cでは、光円錐は同心円状になります。▶︎静かな池に石を投げたときに水面に広がっていく波のようです。▶︎ところが、ブラックホール近傍の点Aでは、重力源に向かう流れが強いため、外向きに放たれた光も内向きに進むようになります。▶︎3‐5(b)は、図3‐5(a)に描かれている以上の説明を、縦軸を時間軸とした図で示したものです。▶︎3‐6は、図3‐5と同じことを立体化して描いたものです。▶︎時刻一定な空間を2次元面として表しています。▶︎中心に重力源Mがあり、そこから離れた点ABCから光を周囲に向けて放ちます。▶︎この図は上向きが未来向きとなる時間軸なので、光の進路は円錐のように表されることになります


重力源Mから離れている点Cでは、光は外向きにも内向きにも進むので、光円錐は両側に広がります。▶︎重力源Mに近い点Aでは、光は内向きにしか進めなくなります。▶︎Bはその境界となる場合で、光が外向きに広がることができない場所です。▶︎このように、光が重力源に向かってしか進むことができない領域(3‐6でグレーの部分)捕捉面といいます。▶︎Bを含む2次元面は、その最も外側のところなので最大捕捉面といいます。▶︎まとめると、捕捉面の定義は次のようになります。


最大捕捉面は見かけの地平面(apparent horizon)とも呼ばれ、こちらのほうがよく使われる用語になっています。▶︎それは、数値シミュレーションをしてブラックホールを探すときには、多くの場合、この見かけの地平面が使われるからです。▶︎これに対して、光円錐の広がり方をずっと追い続けて、外向きに向けて放った光が重力源Mの影響で無限遠方に到達できなくなっているのが確認できたとき、その最も外側の面を事象の地平面(event horizon)と呼びます。▶︎3‐7の点Cを含む2次元面を時間発展させた面が、事象の地平面です。



この事象の地平面の内側が、ブラックホールの定義になります。すなわち、


となります。事象の地平面の内側からは、どんな光も物質も外側には出られません。▶︎ですから、ブラックホール自体は光らない天体である、ということになります。▶︎ブラックホールは星ではなく、時空の領域として定義されるのです。

自然に発生する特異点

長い準備が続きましたが、ここから特異点定理そのものの説明に入ります。

【特異点定理1】:特異点はごく自然に発生する

1965年、ペンローズは、重力崩壊する状況でひとたび捕捉面が発生すれば、特異点の発生は避けられないことを証明しました(特異点定理1)▶︎そして1969年にはホーキングとともに、宇宙初期の特異点の存在についても証明しました(特異点定理2)▶︎ペンローズが初めに示した特異点定理は、一言でまとめると、


となります。▶︎重力崩壊によって特異点発生が証明できてしまうことは、それまでの研究の流れを大きく変えました。▶︎一般相対性理論が導き出す結論が、一般相対性理論を破綻させる特異点を含有している、という事実は、とても奇妙です。

2020年のノーベル物理学賞

2020年のノーベル物理学賞は、ブラックホール研究の業績に対してペンローズ、ゲンツェル、ゲズの3氏に贈られました。▶︎ゲンツェルとゲズは天文観測の業績で、贈賞理由は「天の川銀河の中心に超大質量なコンパクト天体を発見したことに対して」、ペンローズは、1965年の特異点定理を引用する形で、「ブラックホール形成が一般相対性理論におけるごく自然な帰結となることの発見に対して」という贈賞理由でした。▶︎しかしここまで見てきたように、この特異点定理はあくまでも、特異点が重力崩壊で自然に発生する、ということを述べているものであって、ブラックホールが形成される、という主張ではありません。▶︎実際、特異点の存在とブラックホール形成がリンクするのかどうかは、未解決問題です。▶︎🇸🇪スウェーデン王立科学アカデミーが発表したペンローズへの贈賞理由に、私は少し違和感をおぼえましたが、ペンローズの受賞は大変うれしく思いました。▶︎なにしろ、純粋数学の分野に初めてのノーベル賞が授与されたのです。▶︎実験や観測などの実証的研究を重視してきた選考委員会が、数理科学分野にも扉を開けた、と感じました。▶︎特異点定理のほかにも、ペンローズには彼の名前がつく業績が多々あります。▶︎すぐに思いつくだけでも、無限遠の領域を含めて時空を扱うために座標変換して得られるペンローズ時空図(2‐3)4次元時空を空間+時間と分解せずに光の進行方向を基準にして扱うニューマン・ペンローズ形式、回転するブラックホールからエネルギーを取り出すペンローズ過程、そして名前は冠されていませんが、ループ量子重力理論に引き継がれたスピンネットワーク、さらには一般相対性理論と量子論を統合する可能性をもつツイスター理論なども、ペンローズの創始した理論です。▶︎「アインシュタイン以降、相対性理論の研究でもっとも貢献した3名を挙げよ」という問いかけがあったとしたら、相対性理論の研究者なら、答えは「ロジャー・ペンローズ、ロジャー・ペンローズ、ロジャー・ペンローズ」となる、というまことしやかなジョークもあります[*現代ビジネス 2023.03.09付記事抜粋/文:真貝寿明氏・大阪工業大学教授/出典:真貝寿明『宇宙検閲官仮説』]

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【掲載日】20230309日(木)


Limitless undying love whshinesaround me like a million ,suns, it calls me on and on across theuniverse.

100万の太陽のように私の周りで輝く永遠の愛は、宇宙を越えて私を呼んでいる。]