【地球崩壊カウントダウン?〜忍び寄る気候変動の傾向 vol.87】
■『拝啓グレタ様…地球の問題は温暖化だけではありません』
[▲炭鉱での抗議活動で警察に拘束されたグレタさん]
グレタ・トゥーンベリさんは、2018年15歳の高校生の時に気候変動問題への対策を求め🇸🇪スウェーデン・ストックホルムの議事堂前で座り込みを始めたことで一躍注目を浴びた(「16歳の少女はノーベル平和賞に相応しいのか?」)。▶︎毎週金曜日に学校ストライキと称し授業をボイコットのうえ座り込みを行ったことから、「未来のための金曜日運動」(Fridays for Future)として、世界中に広がった
🇯🇵日本でも2019年2月から運動が行われている。▶︎彼女は🇺🇳国連、欧州議会、欧州各国議会、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)などでスピーチを行い、政治家、企業人を前に「気候変動問題に取り組まずお金のことばかり考えている」と非難することが多い。▶︎彼女は1月15日から🇩🇪ドイツの褐炭(品質が劣る石炭の一種)炭鉱での抗議活動に参加し、1月17日には警察に拘束されたことが世界中で報道された。▶︎その後、1月19日に🇨🇭スイスで開催された世界の指導者が集うダボス会議に参加し、化石燃料企業を非難したことがニュースになった。▶︎気候変動対策を求める学生らのリーダーとされるグレタさんだが、彼女の行動は世界を貧困に追いやり、温暖化問題の悪化さえ引き起こしている。▶︎脱炭素が🇯🇵日本の発電コストの上昇につながり、東京電力などによる規制料金の値上げ申請にもつながった。▶︎環境活動家は自らの行動が何を引き起こすのか考えているのだろうか。▶︎あまりに短絡的な思考形態で行動していないだろうか。
◆誰が🇷🇺ロシアを助けたのか
グレタさんなどの環境活動家は、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料を目の敵にしている。▶︎石炭がその筆頭だ。▶︎石炭を初め石油、天然ガスはそのうち利用されなくなるとの考えが広まったため、機関投資家も国際金融機関も将来収益を生まない「座礁資産」になる可能性の高い化石燃料関連設備への投融資を躊躇することになった。▶︎その結果、コロナ禍からの回復に伴い化石燃料需要が増加したにもかかわらず、投資が減少したため生産は増えず、化石燃料価格の上昇を招いた(「途上国を停電と飢えに追いやる先進国の脱化石燃料」)。▶︎その状況につけ込んだのが🇷🇺ロシアだ。▶︎2021年夏ごろから欧州向け天然ガス供給量を絞り始め価格上昇を引き起こしたが、🇺🇦ウクライナへの侵攻により、さらに価格が上昇することになった。▶︎例えば、🇩🇪ドイツの石炭輸入価格の推移は図-1の通りだ。▶︎20年を通し1トン当たり100ユーロを超えることはなかったが、2022年7月には420ユーロを超えた。▶︎2022年2月24日の戦争開始以降、🇷🇺ロシアが欧州連合諸国に売った化石燃料代金だけで、1年弱で20兆円に近い額だ。▶︎毎週5000億円の収入があれば、戦争継続も可能だろう。▶︎🇷🇺ロシアは化石燃料への投資削減を要求した環境活動家に感謝しているかもしれない。▶︎おかげで石炭、天然ガスの価格は高騰し、巨額の戦費を得ることができたのだから。▶︎グレタさんたち活動家はもっと化石燃料価格を上げたいのだろうか。▶︎1月19日、ダボス会議でのシンポジウムに出席した彼女は、化石燃料の新規事業を直ちに止めるように石油メジャー首脳に要求した。
◆化石燃料投資減少が招いた価格上昇
欧州系石油メジャーは、風力発電設備、電気自動車の充電所など再生可能エネルギー(再エネ)関連事業への投資を増やしている。と言っても、投資の主流は依然として化石燃料生産関連だ。▶︎再エネに熱心とされるBPでも、投資の80%を油田、ガス田開発の上流部門に充てている(図-2)。▶︎🇺🇸米国の大手2社、エクソン・モービルとシェブロンの投資の主体は、依然として石油、天然ガス関連だ。▶︎例えば、エクソン・モービルの投資の内訳は図-3に示されているが、石油・ガスと化学部門以外への投資はほとんどない。
🇪🇺欧州と🇺🇸米国で目指す方向に少し差はあるものの、依然として石油・ガス事業と関連する化学品が石油メジャーの収益と投資の大半を占めることに変わりはない。▶︎一方、脱炭素の圧力を受ける大手石油メジャー5社の累計投資額はコロナ禍の影響もあり減少を続けている(図-4)。▶︎経済の回復に伴うエネルギー需要増に応える生産ができず、化石燃料価格上昇の原因の一つになった。
◆温暖化問題の犠牲になる途上国の国民
ダボス会議のシンポジウムに出席したグレタさんは、「利益のため化石燃料への投資を続けるのは、人をバスの前に投げ出すことだ」と非難し、グレタさんら活動家が署名した「地球を破壊する化石燃料の新規事業を直ちに中止することを要求する書簡」を、石油メジャーの最高経営責任者に送付したことを明らかにした。▶︎化石燃料価格の上昇により液化天然ガス(LNG)、石炭が購入できず計画停電の実施を強いられる🇵🇰パキスタンなどの国民は、バスの下敷きにされているとは活動家は思わないようだ。▶︎温暖化については、はっきりしないことも多い。気温が上昇すれば影響はあるが、どの程度の経済的な影響がいつあるか予測は難しい。▶︎一方、脱炭素が一因となった化石燃料価格上昇は、今世界中の人たちに影響を与えている。▶︎石炭とLNG価格の上昇は🇯🇵日本の電気、都市ガス料金も大きく引き上げた。▶︎思いが温暖化にしか及ばない活動家の視野は狭すぎるのではないか。▶︎CO2削減により将来世代が受けるメリットは不透明だが、化石燃料価格上昇により全世界の人たちが、今受けるデメリットははっきりしている。▶︎特に化石燃料依存からの脱却に時間が必要な途上国は、大きな負担を強いられる。
◆化石燃料に依存する世界
世界の一次エネルギーの約8割は、石油、石炭、天然ガスの化石燃料に依存している(図-5)。▶︎加えて、化石燃料は世界の発電量の6割以上を供給している。
最も発電量が多いのは、石炭火力だ(図-6)。▶︎世界の電気の36%は石炭に依存している。▶︎活動家が要求する化石燃料の新規事業を直ちに止めると、やがて自動車も電車も動かなくなり、物流もなくなる。▶︎一日の大半は停電する。工場も商店も休業だ。▶︎肥料生産もできなくなり、食物にも影響が出る。▶︎ガソリン価格は、1リットル当たり1000円を超え、電気料金は1キロワット時当たり100円を超えるだろう。▶︎エネルギーを使わない産業はないので、すべての物価が上昇する。▶︎これが持続可能な社会とはとても思えない。▶︎途上国は世界のエネルギーの6割を使用している(図-7)。
化石燃料の供給が減少すれば大きな影響を受ける。▶︎化石燃料は世界の人たちの生活と経済を支えている。▶︎欧州のエネルギー危機は活動家が目の敵にする石炭の消費まで増やしたが、それを是認したのは、活動家が頼りにする緑の党だった。
◆活動家と袂を分かち現実路線を取る独緑の党
🇩🇪ドイツは、パイプラインで結ばれ依存度が高い🇷🇺ロシア産天然ガス消費を抑制するため、石炭と褐炭による発電量を増やした(「脱炭素はどこへ?「血まみれの石炭」に手を染める欧州」)。🇩🇪ドイツでは2018年に石炭生産がゼロになったので石炭を全量輸入している。▶︎褐炭の国内生産は続いており、隣接する発電所で使用している。▶︎褐炭は自然発火し易く輸送が難しい。▶︎褐炭火力の発電量を増やすためには隣接の炭鉱での生産量を増やすしかない。▶︎2022年10月、炭鉱と発電所を保有するRWEは、連邦政府のハーベック経済・気候保護相、ノルトライン・ヴェストファーレン州のモナ・ノイバウル経済・産業・気候保護・エネルギー相と炭鉱の拡張に合意した。▶︎両相共に緑の党出身だが、脱石炭に反しても、CO2の排出量が増えてもエネルギー・電力を確保せざるを得ないのだ。▶︎褐炭の生産増と引き換えに、2038年に予定されていたRWEの褐炭火力発電所の閉鎖を2030年に前倒ししたと発表されたが、360万キロワットの褐炭火力を2033年末まで予備力として保有することも可能になっている。▶︎実際には脱石炭は2033年かもしれない。▶︎脱原発に続き、脱石炭も打ち遣った緑の党に対し、炭鉱拡張に反対していた活動家は憤り、「裏切られた」「二度と緑の党には投票しない」とも発言したと報じられた。▶︎活動家が進めた脱炭素により世界の石炭・天然ガス供給が不足し価格も上昇した。▶︎そのため🇩🇪ドイツ国内で褐炭の生産を拡張しなければいけなくなった事実を、活動家が理解しているとは思えない。
◆電気料金上昇も引き起こした
活動家、機関投資家、国際金融機関が進めた脱炭素が、化石燃料価格上昇原因の一つになったが、その影響は🇯🇵日本の電気料金にも及んでいる。▶︎日本の電力供給の7割以上は火力発電所が担っている。▶︎LNGと石炭火力発電だけで3分の2を供給しているが、エネルギー危機により、そのコストは大きく上昇した(「上がり続ける電気料金 節電要請では抑えられない」)。▶︎例えば、2021年4月から2022年11月までの間に、石炭火力の燃料費は約6倍に上昇している(図-8)。▶︎現在の規制料金の燃料費調整制度の下では、大手電力会社は燃料費の回収ができないため赤字になる。▶︎長期間の赤字が続くと電力供給に支障をきたすことにもなりかねない。▶︎東京電力などが規制料金の値上げ申請に追い込まれた原因の一つは、性急な脱炭素だったと言える。▶︎脱🇷🇺ロシアのために必要なことは、エネルギー自給率向上を図りながら脱炭素を進めることだ。▶︎一方で、世界で依然として必要とされる化石燃料供給を考える必要がある。▶︎🇯🇵日本を含む先進国では、今後原子力と再エネを中心に脱炭素電源が増えることになるだろう。▶︎🇯🇵日本は先進型原子炉、小型モジュール炉などを活用し自給率向上、料金安定化を図り、同時に脱炭素を行うことも可能だろう。▶︎途上国では、先進国ほどのスピードで脱炭素は進まない。▶︎途上国を中心に必要とされる化石燃料を潤沢に供給することを忘れてはいけない。▶︎性急な脱炭素の要求は世界の多くの人を苦しめることをグレタさんも考えるべきだ[*Wedge 2023.01.29付記事抜粋]
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【掲載日時】2023年01月30日(月)









