【盛者必衰・ビッグテックの落日〜新たなパラダイムシフトを探すためのヒント vol.4


『宇宙開発もクラウドの時代へ!アマゾン子会社が狙う「いま生まれつつある商機」』


ビッグテックも宇宙事業に進出

人工衛星を使ったビジネスの加速や、月・火星などの衛星・惑星探査計画の進展により、宇宙関連事業に対する注目が急速に高まっている。▶︎さまざまな企業が事業参入を進めているが、従来は宇宙との関わりが薄かった、いわゆる「ビッグテック」とよばれるIT企業も、その列に加わりはじめた。▶︎世界最大級のクラウドインフラを運営する「AWS(Amazon Web Service)」もその1つだ。


AWSAmazonの子会社であり、「ネットサービスのインフラ」を提供する会社だ。▶︎Amazonを支えているのはAWSが構築したインフラであり、AmazonAWSにとっての最大顧客の1つという関係にある。▶︎AWSの航空宇宙・衛星ソリューション事業部門ディレクターである、クリント・クロシエ氏に話を聞いた。

🇺🇸アメリカ宇宙軍からの人材登用

クロシエ氏は、2020年に退役するまでの33年間、🇺🇸アメリカ空軍・宇宙軍に所属していた。▶︎多くのロケット打ち上げ計画や衛星の設計、2019年に設立された「アメリカ宇宙軍」の計画立案・設立に携わってきた、専門家中の専門家である。▶︎「宇宙産業とクラウドは、数年前まではかなり縁遠い関係にすぎませんでした。▶︎しかし今や、この2つを組み合わせることで強力なイノベーションと成長のチャンスを生み出せる、と考えています」▶︎クロシエ氏はそう話す。▶︎軍を退役後、次なるキャリアとしてAWS宇宙事業のトップを選んだのは、両者が融合する可能性に魅入られたからだ。▶︎そして現在、特に大きな可能性が生じつつある分野がある。

「空間の機械学習」とは何か


AWSの機械学習基盤である「SageMaker」に、衛星写真を活用する「空間の機械学習(Geospatial ML」向けの技術を搭載した]

衛星写真の活用」だ。多数の低軌道衛星(LEO Satellite)が打ち上げられ、衛星写真の撮影コストが劇的に下がりはじめている。▶︎AWSも、2018年に「AWS Ground Station」というサービスを立ち上げたが、その目的は、衛星へのアクセスを簡便化し、衛星写真の活用を活性化することだった。▶︎2022年も目玉サービスの一つとして、衛星写真の活用をアピールした。▶︎AWSには、「SageMaker」という機械学習を簡単に扱うためのサービスがある。▶︎2022年はこのなかに、「空間の機械学習(Geospatial ML)」をおこなうための機能が搭載された。

ニーズから生まれる課題


[衛星写真からはさまざまなデータが読み取れるが、そのための機械学習処理の開発負荷を軽減できるようになった]

衛星写真や地図情報の増加は、自然環境や天候などのシミュレーションニーズにつながっている。▶︎保険会社が災害の被害推定に使ったり、農業領域で収穫量の推定に用いたりと、応用範囲は幅広い。▶︎そこでは機械学習を使って効率的に情報を処理し、目的に合ったデータに加工していく必要がある。▶︎この種の処理は、従来からAWS上でも可能ではあったが、解析のロジック自体は開発者が自身で作成しなければならない、というハードルが存在していた。▶︎しかし今後は、地図や空間のシミュレーション向けの解析について、よく使われる処理があらかじめ用意されるようになる。▶︎経験が少ない開発者でも、衛星写真を活かしたシミュレーションを開発できるようになっているのだ。▶︎他方、衛星と衛星写真のニーズが増大すると、別の課題も生まれてくる。その課題とは何か? 

必要なときに使えないデータ

「それは、衛星写真を転送するための帯域が足りないことです」とクロシエ氏はいう。▶︎衛星の数や衛星基地局の数が増えても、それだけですぐに「ダウンロード可能なデータの量」が増えるわけではない。▶︎衛星と通信できる時間帯は限られており、その範囲内で処理をしなければいけないからだ。▶︎「結果として、必要なときにすぐにはデータを取得できず、必要なタイミングで衛星写真を使えない場合もあります」とクロシエ氏は指摘する。▶︎ではどうするのか? 

「エッジコンピューティング」を活用せよ


[エッジコンピュータの搭載でデータの転送量を劇的に減らすことができるようになった]

「そこで今回、衛星に『エッジコンピュータ』を搭載することにしました」(クロシエ氏)▶︎クラウドにデータを転送する前に、センサーのすぐ近くでデータを処理してしまうことを「エッジ(外縁)コンピューティング」という。▶︎要するに、データを転送することなく、衛星の中で処理することで、データの転送量を劇的に減らすことができるのだ▶︎「たとえば、🇯🇵日本の近海の状況を確認しているとします。▶︎船や魚群が見つかって写真が欲しいとなっても、毎回ダウンロードしてから判断していたのでは大変です。▶︎しかし、エッジで処理できるのであれば話は全然変わってくる。▶︎変化があったときだけ即座に認識し、必要なデータのみをダウンロード可能にできるからです。▶︎これならほぼリアルタイムで、必要な衛星写真を取得することができます」(クロシエ氏)▶︎もちろん、これを実現するための課題も多数ある。

🇸🇪スウェーデン企業の実力


Unibapの開発したエッジコンピュータを搭載した小型衛星。机半分ほどの大きさしかない]

そもそも、衛星に「エッジ処理用のコンピュータ」を載せること自体が容易ではない。▶︎なぜなら、宇宙空間は放射線の影響も大きく、熱処理も難しいからだ。▶︎一般的なPCなどではなく、信頼性が高い専用のコンピュータを使う必要がある。▶︎しかも、サイズの大きいコンピュータを衛星に搭載するのは難しい。▶︎大きくて重くなるほど、軌道に衛星を打ち上げるコストが高くなるからだ。▶︎そのため、AWSは今回、🇸🇪スウェーデンのUnibapに開発を依頼した。▶︎同社は宇宙用コンピュータの専業メーカーであり、宇宙環境にも耐えるエッジコンピュータを作製できる数少ない企業だ。▶︎Unibapが開発したAWSのエッジコンピュータを搭載した衛星は、2022121日に打ち上げられて実験が繰り返され、「衛星軌道上でエッジコンピュータとして機能する」ことが実証された。▶︎小型衛星への搭載は、これが初めての試みとなる。

たった23回のクリックで

AWSエッジを衛星に持ち込むには、別の利点もある」とクロシエ氏はいう。▶︎エッジコンピュータに搭載されている機械学習モデルは小サイズで、必要なときには簡単に入れ替えられます。▶︎取得した画像からさらに学習し、その結果を反映していくことでより賢くなるわけです」(クロシエ氏)▶︎学習モデルを入れ替えることで機械学習の処理を効率化するのは、普通におこなわれていることではある。▶︎決め打ちではなく、タイミングをみて進化したモデルに入れ替えられることは重要だ。▶︎また、学習モデル自体を大幅に変えてしまえば、衛星をまた別の用途に使うことも可能になる。▶︎そうした管理作業が「ほんの23回クリックするだけでできる」(クロシエ氏)のは、確かに大きな進化である。

🇯🇵日本企業が果たす役割

クロシエ氏は「AWSに参加するまで、クラウドインフラの深いところは理解していませんでした」と笑う。▶︎しかし今は、「私の仕事は、宇宙関連企業に対し、クラウドに移行することの価値を伝えること」だと言い切る。▶︎そこでは🇯🇵日本企業も大きな役割を果たしている、とクロシエ氏は説明する。▶︎🇯🇵日本の宇宙関連スタートアップである「アクセルスペース」は、小型衛星の運営管理をおこなう会社だ。▶︎独自の技術を使って管理システムをAWS上に構築した結果、衛星管理の大幅な簡便化を実現した。▶︎5つまでの衛星をシームレスかつ簡単に扱えるようになっている。▶︎また「ワープスペース」は、衛星のあいだを光通信でつなぐ技術を開発し、高速で信頼性の高い衛星観測ネットワークの構築を実現した。▶︎この技術はAWSに採用され、これからの衛星ネットワーク構築に利用される。

AWSが狙う市場


[ブルーオリジン社の弾道飛行用の有人宇宙船「ニューシェパード」。▶︎宇宙産業の進展にクラウドはどう関わっていくのだろうか]

「この先、国際宇宙ステーション(ISS)にもクラウドは搭載されるようになるでしょう。▶︎アマゾンとは別会社ですが、ジェフ・ベゾス(アマゾンの創業者)ブルーオリジン社で、宇宙ステーションをつくろうとしています。▶︎そこにもクラウドは使われるでしょう。▶︎月面車をつくっているLunar Outpostは、月面車にクラウドを組み込みたいと考えています。▶︎地球上と同じように、宇宙にいる顧客もクラウドを必要としています。必要とされるのであれば、我々は宇宙にクラウドを持ち込みます」(クロシエ氏)▶︎低軌道から静止軌道まで、衛星の活用が広がるにつれて、より高度なデータ処理が必要になる。▶︎AWSは、その市場を狙っているのだ。▶︎そして現在、人類は「アルテミス計画」によって、ふたたび月に向かおうとしている。▶︎同計画でも当然、クラウドの力が搭載されていくだろう。

「もちろん、その先は火星まで──」

クロシエ氏は、さらなる「クラウドを使った宇宙開発」が進むと予測する。▶︎「ただし、その進展は一歩一歩、です。▶︎我々はまず、低軌道にエッジクラウドの能力を持ち込みました。▶︎その先へもまた、着実に広げていきます」(クロシエ氏)▶︎宇宙産業の進展にクラウドがどう関わっていくのか、今後の動向に要注目だ[*現代ビジネス 2022.12.09付記事抜粋/文:西田宗千佳氏・フリージャーナリスト]

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【掲載日】2022129日(金)