【第三次世界大戦への火種〜🇷🇺ロシア・🇺🇦ウクライナ関連ニュース vol.59】
■『敗戦回避のためにダム破壊・汚い爆弾など西側を繰り返し威嚇するプーチンの胸の内』
[2022年10月25日、政府調整会議を主催するプーチン大統領]
🇷🇺ロシアによる🇺🇦ウクライナ侵攻は、2022年10月末で9カ月目に入った。▶︎軍事的に窮地に追い込まれたプーチン政権は、「ダム爆破」や「汚い爆弾」攻撃など新たな脅迫戦術に打って出た。
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【用語解説】
◉『汚い爆弾(または放射性物質散布装置)』=放射性物質を拡散する爆弾または装置である。核爆発の効果による被害を目的とする核兵器と異なり、炸薬などの爆発や非爆発手法によって、放射性の汚染物質を拡散させ被害を発生させる。
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戦勝は無理でも、何とか🇺🇦ウクライナの反攻作戦の勢いを削いで、停戦交渉のテーブルに引き出すための瀬戸際戦略とみられる。▶︎国内的にも「部分的動員令」に続いて戒厳令を宣言し、戦時総動員体制へと完全に切り替えた。▶︎戦況の悪化を受けてクレムリン内外では不満が高まっており、このマグマが政権打倒の動きとして噴出しないよう、よりいっそう、力で抑え込む構えだ。▶︎こうしたギリギリの執念を見せるプーチン氏の脳裏には、かつての独ソ戦で首都モスクワが陥落寸前まで追い込まれながらも逆転勝利した独裁者スターリンの姿があるとみられる。
◆🇺🇦ウクライナによるヘルソン市奪還も
戦局で当面の焦点は南部ヘルソン州だ。隣のザポリージャ州とともに、侵攻開始直後に🇷🇺ロシア軍が占領している地域だ。▶︎2022年8月末からの🇺🇦ウクライナ軍による反攻作戦の結果、現在は🇺🇦ウクライナ軍がドニプロ(ドニプロ)川右岸にある州都ヘルソン市を三方から包囲している。▶︎親ロシア派の「軍民行政府」は10月20日過ぎから住民に左岸への退避を呼び掛けており、🇷🇺ロシアに併合された4州のうち、州都としては初めてヘルソンを🇺🇦ウクライナが近く奪還するとの見方も出ている。▶︎しかし、🇷🇺ロシアの軍事専門家であるユーリー・フョードロフ氏は、プーチン氏がヘルソン市防衛を厳命したという。▶︎ヘルソン州には元々🇷🇺ロシア軍の最精鋭部隊である特殊部隊や空挺部隊など約2万5000人規模の部隊が配置されていたが、9月末以降に急遽かき集めた動員兵約2000人程度が派遣されたという。▶︎プーチン氏としては、ヘルソン市が奪還されてしまったら侵攻以来最大の軍事的敗北になり、2022年9月末に一方的に実施した「住民投票」を経て宣言した「4州併合」が早くも瓦解を始めることになるからだ。▶︎しかし🇺🇦ウクライナ軍はヘルソン市奪還を急ぐ様子を見せていない。▶︎その理由は2つある。▶︎1つは、激しい市街戦になれば🇺🇦ウクライナ軍や住民に多くの死者を出す恐れがあるためだ。▶︎そもそも🇷🇺ロシア軍がヘルソン市に籠城する道を選ぶ場合、それは🇺🇦ウクライナ軍に多くの損失をさせるための罠だとの説も出ているくらいだ。▶︎🇨🇳もう1つの理由としては、守りに当たる🇷🇺ロシア軍の精鋭部隊を攻撃することで、激戦が続くドネツク州方面にこれら精鋭部隊が転戦する事態を回避したいという思惑がある。▶︎このため🇺🇦ウクライナ軍としては、🇷🇺ロシア軍部隊を全部降伏させたいという戦術を採用した。▶︎🇺🇦ウクライナ国防省が10月24日、🇷🇺ロシア将兵に投降を呼びかける声明を出したのもその一環だ。▶︎一方で前出のフョードロフ氏によると、🇷🇺ロシア軍が左岸で防御線を構築する動きも見せており、いずれ精鋭部隊が左岸のほうに段階的に撤退する可能性もあると指摘している。▶︎この間は軍事訓練も満足に受けていない動員兵が防御に当たるが、同氏は「少しの間は防御できるだろう。▶︎動員兵に多くの戦死者が出るだろうが、クレムリンはまったく気にしないだろう」とみている。▶︎🇷🇺ロシア軍は東部のドネツク、ルハンシク(ルガンスク)両州の一部で攻勢に出ている。▶︎ドネツクの要衝バフムトでは引き続き🇺🇦ウクライナ軍との激戦が続いているが、ここでは恩赦を約束して集めた元受刑者部隊が攻撃の最前線に立っている。
◆ダム破壊と「汚い爆弾」
ここでも🇷🇺ロシア軍は、🇺🇦ウクライナ軍が「非情だ」と漏らすほどの戦い方をしている。▶︎元受刑者部隊の後方では、プーチン氏に近い実業家であるエフゲニー・プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネル社の傭兵部隊と、チェチェン共和国のカディロフ首長が率いるチェチェン人部隊が二重の見張り陣地を築き、元受刑者部隊の脱走兵を射殺する行動に出ていると言われている。▶︎それでも🇺🇦ウクライナ軍はバフムトの早期攻略に自信を見せている。▶︎そのような中、🇺🇦ウクライナや米欧が警戒しているのは、追い込まれている🇷🇺ロシアの新たな軍事行動の可能性として、1つはヘルソン州のドニプロ川にあるカホフカ水力発電所のダム破壊と、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の使用という2つのシナリオだ。
[カホフカ水力発電所]
このうち不気味なのはダムの破壊だ。▶︎独ソ戦の最中、カホフカ発電所と同じくドニプロ川にあるドニプロ発電所のダムがスターリンの命令によって破壊された前例が実際にあるからだ。▶︎1941年8月、電力確保を狙ったドイツ軍がこの発電所に迫ってきたため、スターリンは発電所だけでなく、ダムの爆破を命じた。▶︎これによってドニプロ川沿岸に広大な洪水地域が発生し、ドイツ軍以上にロシア軍部隊の水死者が多かったと言われている。▶︎さらにスターリンはこの爆破をドイツ軍のせいにする行動、つまり今の侵攻で🇷🇺ロシアの常套手段として問題になっている「偽旗作戦」を実施したという説もある。▶︎今回、もしカホフカ発電所のダムが破壊されると、ドニプロ川流域で1941年のときと同様な大きな洪水被害が出ることが懸念されている。▶︎🇺🇦ウクライナの軍事専門家の間では、その場合、🇺🇦ウクライナ軍が陣取る右岸より🇷🇺ロシア軍がいる左岸のほうが比較的低地なため、🇷🇺ロシア軍の被害がより大きくなるとして、ダム破壊の実際の可能性は低いという見方もある。▶︎しかし、先述したドニプロ発電所の例を見ればわかるように、この見方が正しいかどうかは疑問も残る。▶︎大惨事を起こせば国際社会から一刻も早い停戦を求める声が高まり、結果的に🇺🇦ウクライナ軍の攻勢を食い止めることができるとの、恐ろしい計算をプーチン氏がしていないとの保証はないからだ。▶︎通常型爆弾でありながら放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」シナリオでも、キーワードは「偽旗作戦」となる。▶︎🇷🇺ロシアのショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長が相次いで米欧に電話し、🇺🇦ウクライナが「汚い爆弾」を国内で使う可能性があると触れ回ったが、まったく相手にされなかった。▶︎むしろ、これまで🇺🇦ウクライナ・ブチャでの住民虐殺事件など、自軍の虐殺行為を🇺🇦ウクライナ側の仕業と見せ掛ける工作まで行ってきた🇷🇺ロシア軍の行動をみれば、自ら汚い爆弾を使ったうえで🇺🇦ウクライナ側の犯行と主張する「偽旗作戦」の前ぶれと疑える行動だ。▶︎🇷🇺ロシアはこれまでもザポリージャ(ザポロジエ)原発占拠事件や、核使用の可能性に言及することで国際社会に恐怖を与えてきた。▶︎核使用の可能性はまだ消えたわけではないが、🇺🇸アメリカは🇷🇺ロシアが核兵器を使用すれば🇺🇦ウクライナ国内での🇷🇺ロシア軍せん滅など、異例の警告を出している。▶︎今回のダム爆破と汚い爆弾問題は、明らかに🇷🇺ロシアによる新たな「危機演出」作戦と言っていい。
◆11月のG20サミットを見据えるプーチン
なぜ🇷🇺ロシアはここまで見え透いた危機演出行動を次から次へと繰り返すのか。▶︎その「標的」としてプーチン政権が睨んでいるのは、2022年11月に予定されている20カ国・地域首脳会議(G20サミット)だ。▶︎🇷🇺ロシア側に近い立場を取る🇨🇳中国、🇮🇳インド、🇸🇦サウジアラビアなどの国々が参加するこの国際会議で「🇺🇦ウクライナ危機」を強調することで、停戦交渉による妥協をゼレンスキー政権に働き掛けるよう、米欧に圧力を加える狙いだろう。▶︎こうしたG20に向けた危機演出の背景に、実際の戦場で行き詰まっていることがあるのは間違いない。▶︎2022年10月8日に発生したクリミア大橋の爆発事件以降、🇷🇺ロシア軍が始めた🇺🇦ウクライナのインフラ攻撃は発電所破壊で広範な停電をもたらし、国民生活に打撃を与えている。▶︎しかし、キーウの軍事筋は、停電が国民の士気や🇺🇦ウクライナ軍の作戦へ影響を及ぼすことはまったくないと断言している。▶︎当初、一定の損害を与えていた🇮🇷イラン製ドローンの攻撃も次第に脅威度が大きく減少している。▶︎軍事筋によると、撃墜率は70%に達しているという。▶︎カメラを搭載せず、GPSのみを頼りにクリミア半島や🇧🇾ベラルーシから飛来してくるドローンは、曇天などで視界が悪くなるとそれだけで予定どおりの飛行が難しくなる。▶︎そのため、すでに秋から冬に向け天候が悪くなり始めている現地ではドローン攻撃がしにくくなっているという。▶︎残る懸念材料は巡航ミサイルによる攻撃だが、🇷🇺ロシア軍の保有数が大幅に減少している。▶︎さらに米欧からのミサイル防衛システムの提供も始まっていて、🇺🇦ウクライナ側は防空能力を高めている。▶︎一方、プーチン氏が2022年10月20日から🇺🇦ウクライナ4州で施行した戒厳令についても、スターリンの影がちらつく。▶︎1941年に始まった独ソ戦で、ソ連は兵器製造能力の面で当初ドイツに比べ劣勢だった。▶︎しかし、スターリンが戦時経済体制の下、兵器製造に国民や経済体制を総動員した結果、1942年末には兵器生産量でドイツを追い抜き、勝利の原動力になった。▶︎同様の戦時経済体制の構築を狙ったのだろう。▶︎プーチン氏は戒厳令施行とともに、軍需にすべての経済資源を集中するため、ミシュスチン首相をトップに政府調整会議を立ち上げた。▶︎同時に今回の戒厳令をめぐっては、戦時総動員体制の構築以外に、国内での反政府機運の高まりを抑え込むのが狙いとの見方が強い。▶︎🇷🇺ロシア南部クラスノダール地方や占領を続けるクリミアなど8つの連邦構成体には戒厳令に次ぐ「中度対応態勢」が、また首都モスクワを含む中央連邦管区と南部連邦管区には「高位準備態勢」が導入された。▶︎これが🇷🇺ロシア全土への事実上の戒厳令施行に向けた第一歩とする見方が根強い。
◆反政府運動の再起可能性も高まる
プーチン氏のスピーチライターを務めた経験があり、クレムリン内の事情に精通する政治アナリストであるアッバス・ガリャモフ氏は、こうした見方をしている一人だ。▶︎「戦争で事態逆転の打つ手がなくなった今、大統領が恐れているのは反政府運動の広がりやクーデターだ」と指摘する。▶︎プーチン氏が懸念するこうした動きがすでに国内で始まっている。
[投獄中のアレクセイ・ナワリヌイ氏]
🇷🇺ロシアの反政府指導者で投獄中のアレクセイ・ナワリヌイ氏の関係者が2022年10月4日、🇺🇦ウクライナ侵略と「部分的動員」に対抗するために、休眠中だったナワリヌイ派の地域政治ネットワークを再開すると発表したのだ。▶︎かつて🇷🇺ロシア全土に50の地域本部を持っていたナワリヌイ氏の政治ネットワークは、モスクワの裁判所が「過激派」組織として活動を禁止したことを受け、2021年に解散していた。▶︎事実、🇷🇺ロシア国民のプーチン氏への支持には陰りが見えだしている。▶︎2022年9月末に独立系世論調査機関レバダ・センターが発表した世論調査で、プーチン氏への信頼度は前回調査より6ポイントも落ち、77%に低下した。▶︎戦争支持派の国民すら混乱させた同年9月の部分動員令が影響したとみられる。▶︎これまでクリミア併合などの戦勝を最大の求心力にしてきたプーチン氏にとって、🇺🇦ウクライナでの敗北を簡単に受け入れるわけにはいかないだろう。▶︎2024年の大統領選での再選はおろか、出馬さえ困難になる恐れがあるからだ。▶︎ヘルソン市が陥落すればいっそう追い込まれて、プーチン氏が内外で過激な行動に出る可能性は十分ある。▶︎こうした事態に備えて、国際社会はより団結する必要があるだろう。▶︎スターリンのひそみに倣おうとするプーチン氏だが、両者の間には大きな違いがある。▶︎独ソ戦中、ソ連はナチス・ドイツと戦う🇬🇧イギリスなどの連合国に大規模な軍事支援を与えた🇺🇸アメリカの「武器貸与法」(レンド・リース法)の対象国だった。▶︎これに対し、今の🇷🇺ロシアは前例のない西側の大規模制裁下にあり、今回の戦時動員経済化が思惑通りいく保証はない。▶︎この点で、🇨🇳中国の動向も今後重要になってきそうだ。▶︎2022年10月23日、念願の3期目の共産党指導部発足を実現させた習近平氏が、🇷🇺ロシアと米欧の間で何らかの調停者的役割を果たす可能性もあるだろう[*東洋経済ONLINE 2022.10.27付記事抜粋/文:吉田成之氏・新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長]
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【掲載日時】2022年10月27日(木)





